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Your Loves Whore

私は大丈夫だと思っていた。でも意外と心にダメージを受けていたみたい。
だから彼がこのことを表現で整理をしたように、私も整理をしたいと思う。

私には、どうしても気にかけてしまう異性の友人がいる。
軽音楽部の同期で、大学の学科も一緒。一緒のバンドを組むことも多く、特別何かしなくても頻繁に顔を合わせる間柄だ。

彼は真面目で自信なく、ひ弱だ。でもギターが上手くて、部活では命を削ったパフォーマンスで様々な人を魅了してきた。
優しいところや、人に素直に自分の思いを伝えられるところも、彼の良いところだと思う。私はそんな彼のことを尊敬している。
しかし、彼はとても生きにくそうだ。人より優れている点がたくさんあり、人望もあるのに、自信がない。悩みすぎて上手く書けないと課題レポートを出さなかったり、上手に手を抜けない不器用さも手伝って、生きづらそうだ。

部活入部当初からバンドを組み、最初から彼がどんな人間か知っていた私は、彼のことをずっと気にかけていた。この人は良い人なのにどうしてこんなに辛そうなんだろう。こんなに良いところがたくさんあるのに、なんで不幸そうなんだろう。元々人の手助けが好きな私は、彼が授業に出られるようにモーニングコールをしたり、なんやかんや世話を焼いていた。

それからお互いに彼氏彼女ができ、何となく距離を置くようになった。私の世話焼きな性格は、彼や互いの恋人に誤解を与えかねないと思ったからだ。しかし2年の時が経った大学3年生の秋、就職活動の相談がてら、またよく話すようになった。昔のように仲良くできていることが嬉しかった。

それから数ヶ月後の冬。バイト後スマホを確認すると、彼から不在着信が入っていた。驚いてラインを送ったら、話を聞いてほしいとのこと。その夜、彼は消えてしまいそうな声で、自殺未遂をしたと話した。

親に話しても怒られた。それ以外の人には話していない。話せない。自殺できなかったのは失敗したからで、ひとりでいると今も怖い。そちら側にいってしまいそうになる。

話を聞きながら、私は感情のスイッチを切った。電話をかけてくるなんて、何か大変なことがあったのだろうと覚悟はしていたが、それ以上だった。でも、私が受け止めなきゃ、彼はいなくなってしまうかもしれない。私がしっかりしなきゃ。私が彼を守らなきゃ。彼の命は、私にかかっている。

その日は深夜まで話を聞いて、次の朝は文字通り生存確認をした。
しばらくは彼が自殺未遂について思い出しすぎない程度に、連絡をとって確認した。カウンセリングも紹介した。ずっとずっと私は気を張っていた。

悩みを聞いてから1年。彼は元気になった。悩みのきっかけは就職活動だったから、就活が終わってからは安定した日々を送っていた。
また昔のようにバンドを組んで、ライブに出た。ライブが終わった後、1通の手紙をもらった。

「1年前、悩みを聞いてくれてありがとう。あれから1年、考えたことを自分で整理したいと思ってこのバンドを組みました。これからも生きていきます。ありがとう」

彼は元気になって、あのできごとを整理して過去のものにできるようになったんだと思った。私が役にたっていたことも嬉しかった。
でも、なぜかもう私はいらないと言われているような気がした。

彼と私はそこまで仲良くない。異性だし、お互い恋人もいるし、共通の趣味もほとんどない。部活で頻繁に会うから仲良くできていたけど、卒業してからは仲良く出来る?社会人になってからは住む場所だって遠くなるのに。
また彼が死にたくなるほど悩んだとき、誰に相談するの?相談できずにこの世を去ってしまったら、どうしよう。他に誰か相談できるならいい。でもできなかったら?
私は彼にとって親しい友達というより、「相談できる同期」である気がする。私は人より彼の苦しみを知っているはずだし、誰より幸せになってほしいと思っている。でも彼が幸せだったら、きっと私に連絡はこないのだ。幸せを願っているのに、それが実現すればするほど、彼と私の距離は離れてしまう気がするのだ。

私たちが同性だったらよかったのに。彼が私の弟か息子だったらよかったのに。それならずっと仲良くいられただろう。

もしも叶うなら。


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