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「クインテット」は子どもに本気で向き合うことを教えてくれる

NHK教育テレビで放映されていた「クインテット」を観て、最初に驚いたのは、スコアさんの左手だった。

それ以外にも、驚くほど素晴らしい要素は、いくつもいくつもあったのだけれど、その素晴らしさは「いやぁ、さすがNHKだなぁ、クオリティが高いなぁ」くらいで見過ごしていたと思う。でも、番組の最後に「コンサート」として、メンバー全員で演奏する場面になった時、スコアさんの左手を観て、二度見して、思わず座りなおした。
これはすごいぞ、と改めて思った。

ご存じの方には説明するまでもないのだけれど、「クインテット」はNHK教育テレビで放映されていた番組。ジャンルとしては、「音楽教養番組」であり「パペットバラエティー」であるらしい。
宮川彬良さんと4人のパペットが登場し、コントのような小さな劇と、音楽あそび、そして、本格的な演奏を楽しめるコンサートで構成されている。パペットは、スコア(チェロ)、アリア(主にバイオリン)、フラット(主にクラリネット)、シャープ(主にトランペット)の4人。時々、ちっちゃな男の子(チーボ)が演奏のお手伝いとして登場する。

このスコアさんがチェロを奏でる時、左手首が、なめらかに返るのだ!
・・・えーと、この表現で伝わっているだろうか?
チェロを弾く時、右手は弓を持ち、左手で弦を押さえる。同じ弦を押さえっぱなしではなく、音に応じて変える。その時の手首の返しや、上下の動きが、名演奏家そのままのなめらかさなのだ。

「あぁ、本当にスコアさんがチェロを弾いている!」と思った。そんなはずはないのだけれど。

私は学生時代に少しばかり人形劇をやっていたので、仕組みが少し想像できる。最後のコンサートの時の人形たちは、1人の人形を操るために、2人か、もしかしたら、3人の人形遣いが担当しているんじゃないかなぁ。スコアさんの左手と右手は、別の人がやっているように思える。タイミング的に顔と右手は同じ人かもしれない。
いや、そういう細かなことが大事なんじゃないんだ。あのコンサートの場面で、「ちゃんとパペットたちが演奏しているんだよ」と思えるように、見た目以上に大勢の人が参加しているんじゃないかという、そのことを言いたいのだ。

そういう目で観てみると、番組の随所に「すごさ」を感じる。
最後のコンサートはアキラさんと4人のパペットが演奏し、時折チーボというちびっこが手伝いに来てくれるのだけれど、現実的にその5人(または6人)が演奏できるように編曲されていることが分かる。(編曲も宮川彬良さんだ。)画面上は5人だけれど音を良く聴いたら存在しないはずの楽器がなっているぞ、なんてことは、決して起こらない。フラットさんがクラリネットを吹きながら歌をうたったりもしない。1回鳴らすだけのシンバルだとしても、5人では手が回らない時には、ちゃんとチーボくんが手伝いに来てくれる。うそが1ミリもない。

ちょっとした音楽遊びも、出演者が本当に楽しんでいるのが伝わる。「フィガロの結婚」のメロディーに合わせてモーツアルトの一生を歌うとか、「ボレロ」をでたらめな歌詞で歌って演奏するとか、かっこいいリズムの手拍子とか、そういう手ごたえのある面白さを感じる。「子どもたちには分からないかもしれないけれど」「この曲は知らないかもしれないけれど」なんてことは言わない。音楽はこんなに面白いものなんだから、年齢に関係なく面白さが伝わるよ、と、子どものことも音楽のことも信じているんだな、って姿勢が伝わってくる。

とにかく、随所に「すごい」のだけれど、その「そごい」の正体は何かと考えると、「子どもに真っ向から一流を提供している」ところだと思う。視聴者として子どもを想定しているからこそ、質の高いものをつくろう、という気持ちが伝わってくる気がする。

「子どもにこそ本物を」という言葉は、結構気軽に使われる場面も多いけれど、クインテットは、まさに「本物」であるための本気度が並大抵ではないなぁと感じる。そして、本物、ってことは、それくらい真剣勝負なんだ、ということも教えれてくれるのだ。

番組としては終わってしまったけれど、我が子とも一緒に楽しんだ「クインテット」は、いつまでも大好き。大好きだし、ずっとずっと敬意を抱いている。

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