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かこさとしさんの絵本は こども1人1人と向き合っている

絵本の創り手さんの中でも、特別に、かこさとしさんが、好きです。
『カラスのパン屋さん』や、『だるまちゃんとてんぐちゃん』などで知られるかこさとしさんの、子どもたちに向き合う真摯さが、好きです。

私自身も、子どもの頃にかこさとしさんの絵本を読んだし、子どもたちとも何冊も一緒に読みました。ただ、その頃は、「大好きな絵本作家さんの1人」という意味での〈好き〉でした。

それが、〈特別に好き〉になったきっかけが、2つあります。
1つは、『どろぼうがっこう』のあとがきの言葉です。

りっぱなどろぼうになるために励むかわいい(?)生徒たちと、くまさか先生とのユーモラスなやりとりが楽しい絵本。かこさとしさんが活動していた川崎のセツルメントで、子どもたちに向けて作った紙芝居が元になっているそうです。

かこさとしさん自身が、直接に子どもたちと関わって、遊んで、その中から作品が生まれていったことを知り、とても嬉しい気持ちになりました。あの大好きな作品たちは、机の上で生まれたのではなく、子どもたちとの熱量のある関わりの中から生まれたんだな、って。

子どもたちは、もちろん子ども同士で元気いっぱいに遊ぶのですが、子どもと大人の間くらいの年齢の人と一緒に遊ぶ時に、何だか、いつもとは違うエネルギーをぶつけてくるような盛り上がり方をすることがあるんですよね。かこさとしさんは、その盛り上がりを体感している人なんだな、と思って、ものすごく親しみを感じたのです。

何よりも、『どろぼうがっこう』のあとがきに書いてあった「子ども会」という言葉に、勝手に仲間意識みたいなものを感じてしまいました。(おこがましいんですけどね。)

私は、大学生の頃、児童文化研究会、という厳めしい名前のサークルに所属していました。サークルでは、人形劇や影絵劇の公演や、子どもたちと遊ぶ活動をしていました。そのサークルで、〈企画して、準備して、場を整えて、子どもと一緒に遊ぶプログラム〉の総称が「子ども会」でした。(もしかしたら、かこさとしさんが活動していたような、少し前の時代の言い回しが残っていたのかもしれません。歴史の長いサークルだったので。)私にとっては、青春の象徴みたいな活動です。

私自身が存分に味わった、全力で遊ぶ子どもたちのエネルギーと、そのエネルギーが満ちた気持ちの高まる時間を思い出し、似たような体験を経て絵本を生み出している人として、特別な信頼と親しみを感じるようになりました。

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そして、もう1つのきっかけは、かこさとしさんが科学絵本や知識絵本を生み出す想いに、ものすごく共感したことです。

『未来のだるまちゃんたちへ』というかこさとしさんの自伝的エッセイや、『ちっちゃな科学』という、かこさとしさんと福岡伸一さんの本に、その想いが書いてありました。

子どもが自分の興味の対象を深めていくと、子ども向けの図鑑などはたちまちに読み尽くし、もっと詳しい世界を知りたいと願うものです。しかしその先は難しい大人の専門書しかない。僕は絵本作りをするなかで、そうやって興味の対象を追いかけるうちに、ぽつんと世界の端っこへ出てしまった子どもさんの姿を思い浮かべるようになりました。
そこから生まれたのが、たとえば『かわ』『宇宙ーそのひろがりをしろう』(ともに福音館書店)といった科学絵本や、『うつくしい絵』(偕成社)などの知識絵本です。

『ちっちゃな科学』かこさとし・福岡伸一 中公新書ラクレ

子どもが自分の興味を深めていっても、深まった興味に見合うような、彼らのための本がない、というところで「そう!そう!本当にそうなの!」と、思わず声が出そうになりました。子どもが好きなこと、興味のあることに関して、詳しい本が欲しいと思っても見つからないとか、大きな図鑑の6分の1ページくらいしか載っていなくて、もどかしい気持ちになったことも多々あります。

かこさとしさんは、そんな子どもたち1人1人に向けて、たとえ読者がたった1人しかいなかったとしても、個々の「知りたい」を満たす絵本を作ってくれているんだ、ということを実感し、そして心から感謝したんです。

そういう目で見てみると、かこさとしさんの生み出す本は、どの本も、興味の入り口となる入門書としても素晴らしいし、既にその分野が大好きな子どもにとっても知識欲を充分に満足させてくれるものだと気づきます。
例えば、先の引用で挙げられている『うちゅう』は、子どものごく身近なところから始まり、少しずつ視点を遠く、高くまで向け、いつしか宇宙にたどり着く。その過程で、生き物・飛行機・星たちなど、かこさとしさんの得意とする「ものづくし」の手法で、本当に沢山の要素が細かく描きこまれているのです。例えば飛行機好きさんだったら、その見開きだけをずっと見ていられるくらいに。

そして、科学絵本や知識絵本だけではなく、物語絵本においても、描写が緻密で正確なことに驚かされます。

『だるまちゃんとてんぐちゃん』で、「たくさんの赤いはな」が出てくる場面では、全部の花の葉や茎の形が、正確に描き分けられています。

私が子どもの頃読んでいた『にんじんばたけのぱぴぷぺぽ』では、にんじんを育てるために井戸を掘り、その井戸を掘る時に出てきた粘土質の土を焼いて、レンガを作って、幼稚園や図書館を作る、という描写が出てきます。「にんじんがたくさん取れて、たくさん売れたので、図書館もつくっちゃいました」とは描かない。子どもの頃は、イマイチ意味が分かっていなかったのですが、今になってみると、その徹底っぷりに感嘆します。

大きな嘘はつきますが(だってカラスはパン屋さんにはなれないしね)、小さな嘘はつかない。生活や、機械や、自然の描写は、いつだって正確なんですよね。

この春、念願だった「かこさとし ふるさと絵本館」に行ってきました。絵本館は穏やかで、ゆったりとした時間が流れているところでした。印象的だったのは、絵本館だけではなく、公園や児童館的な施設など、まちの中のあちこちで、かこさとしさんの絵を見かけたこと。かこさとしさんという存在をまちに生かすことで、自然と、親子にとって楽しい場が増えていることが、とてもすてきだと感じました。

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