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【森喜朗氏】【前編】女性に対する偏見に基づいた例の発言を掘り下げてみた

はじめに

2月末にTwitter上で「取り上げてほしいテーマ」でアンケートした結果、「人種差別問題」「ネットリテラシー」「民主主義」を抑えて「ジェンダー」が1位となりました!
アンケートにご協力くださった皆様ありがとうございました。

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今回はアンケート企画記事の第一弾!
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会前会長、森喜朗氏の例の発言を掘り下げてみたいと思います。

本記事は前編と後編に分かれています。
前編では、失言の一連の流れを振り返り、森氏の経歴と過去の失言から森氏の性格を分析していきます。後編では、「女性のいる会議は時間がかかる」発言の問題点や真意、謝罪会見について分析しています。

後編の「【森喜朗氏】【後編】女性に対する偏見に基づいた例の発言を掘り下げてみた」もあわせてご覧ください!

森氏の例の発言の一連の流れ

森氏の女性に対する偏見に基づいた発言が問題となったのは、2月3日に行われた日本オリンピック委員会の臨時評議会でのことです。

「女性がたくさん入る理事会は時間がかかる」
「(女性理事は)誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。みんな発言される」
「発言の時間をある程度、規制をしないとなかなか終わらないので困る」

(スポニチ 五輪組織委・森会長、女性蔑視発言か…「女性がたくさん入る理事会は時間がかかる」より)

翌日2月4日、各紙が上記の森氏の発言を報道したことにより、全国的に広まりました。同日、現東京都知事の小池百合子氏は森氏の発言に対して以下のようにコメントしています。

女性の声を生かすというのは当たり前の話で、
話が長いのは人によるんじゃないでしょうか
                  (ANNnewsCHのYouTubeより)

一方、森氏も4日に記者会見を開き、自身の発言を謝罪し撤回しています。ただ、この時点で辞任については否定していました。

昨日のJOC評議会での発言につきましては、オリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切な表現であったと、このように認識いたしております。そのために、まず深く反省をしております。そして、発言をいたしました件につきましては撤回をしたい。それから、不愉快な思いをされた皆さまには、お詫びを申し上げたい。

辞任するという考えはありません。
                                                                 (THE PAGEのYouTubeより)

しかし、12日に組織委員会の理事と評議員による緊急の会合が開かれ、森氏が辞任することを表明しました。

今日をもちまして会長を辞任いたそうと思っております。
NHK 森会長 辞任表明 東京五輪・パラ組織委緊急会合 【発言詳細】より)

以上が騒動の一連の流れです。

森氏の例の発言に対し、国内外から数多くの批判が寄せられましたが、果たして全員が森氏の発言全文を読んだうえで批判しているのでしょうか。

森氏の考え方や生き方にまで踏み込んで考察してみようと考えたことはありましたか?

発言の一部を切り取った、うわべだけの情報に踊らされていませんか?

本記事では、森氏を擁護する立場や批判する立場で筆者の主張を伝えるのではなく、あくまで森氏の発言や過去の行動から考えを分析するにとどめ、読者の感想にゆだねたいと考えています。

まずは経歴や人柄を、森氏の著書「遺書 東京五輪への覚悟」を踏まえて、見ていきます。

森氏の経歴・人となり

2000年に第85代内閣総理大臣に就任

森氏は小学生の時に「早稲田大学でラグビーをやる」と決意し、高校でラグビー部キャプテンを務め、ラグビー部の推薦で早稲田大学に入学しました。しかし、胃潰瘍のため4か月で退部します。

1969年に衆議院議員選挙で当選すると、「教育問題」とスポーツ振興に力を注ぎました。

2000年に第85代内閣総理大臣に就任します。しかし、「えひめ丸事故」(高校の実習船えひめ丸がアメリカの原子力潜水艦に衝突されて沈没し9人が亡くなった事故)の対応や失言を非難され、支持率低下により2001年に退陣します。

2005年に日本ラグビーフットボール協会の12代目会長と日本体育協会(現・日本スポーツ協会)会長に就任、2010年にラグビーワールドカップ2019組織委員会副会長に就任します。森氏は2019年にラグビーW杯の誘致に尽力しました。

2014年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長に就任します。森氏自身が組織委員会の会長を選ぶ役割でしたが、周囲に「森氏が適任だ」と言われ、森氏は「スポーツこそわが人生」と思っていたため引き受けざるを得なかったとのことです。森氏は年間2000万円のはずの給料をもらわず、食事代・車代・運転手への給料も自分で負担しているようです。「奉仕の気持ち」で臨んでいると語っています。

森氏のメディア観

先述のような、「えひめ丸事故」の失言によって内閣退陣を余儀なくされたというエピソードがあるように、森氏は失言が問題視されることが多いと言われています。
実際に自身の著書「遺書 東京五輪への覚悟」でも失言について触れており、第四章の「マスコミにあれこれ書かれたけれど」では、政治家としての本質的な部分に触れずに面白おかしくネタ化するマスコミの姿勢を批判しています。
特に、文脈を無視して都合よく切り取る報道には厳しい見方をしています。

マスコミも、人の発言の一部だけ取り上げる揚げ足取りのようなことばかりしていないで、事実を確認し、事柄を正確に理解したうえで、もっと深く考え、オリンピックを報道していただきたい。そのうえでの批判であるなら、いくらでも傾聴します。
                 (「遺書 東京五輪への覚悟」より)

森氏は例として、総理時代の衆議院選挙の演説での「(無党派層は)投票に行かずに寝ていてくれればいい」という発言を取り上げています。当時、この発言で世間は荒れましたが、森氏は発言の真意について以下のように説明しています。

あの頃出た新聞の世論調査では、どの新聞も自民圧勝でした。その調査は選挙が始まった直後のもので、そんな数字はいいに決まっています。なぜかというと、答えるのは、はっきりとした意識を持った人だけだからです。それで私は、ほとんどの人は、まだ起きておらず、寝ているのだから、そんな数字を信用してしまうのが選挙では一番危ない、だから「このまま寝ていてくれたらいいと思うが、そうはいかない、今から頑張って選挙戦を戦おう」と演説したのです。
ところが「寝ていてくれたらいい」で切られて、報道されました。
                 (「遺書 東京五輪への覚悟」より)

「寝ている」というのは比喩であり、「寝ていてくれる」はずがないから頑張りたいという選挙戦への意気込みだということでしょう。この発言の真意はどうあれ、「寝ていてくれたらいいと思う(=自民が勝つと思う)」と断言している時点で森氏の主観が入っていることは否めません。とはいえ、全文を伝えないメディアにも非がないとは言えません。

森氏は意気込みなど感情が高まると、口を滑らしてしてしまうことがよくあると本書から感じ取れました。例えば、リオオリンピック代表選手団の結団式・壮行会で「国家がちゃんと歌えないようでは、日本代表ではない」と発言した件です。

この発言には、『プログラムの当初は「国歌斉唱」となっていたが、本番は自衛隊の女性の「独唱」に変更されており、それが森氏に伝えられていなかった』という経緯が前提にあるようです。そのため、森氏は「独唱もよいが、みんなで歌う方が気持ちが一つになるのではないか」と前置きしてから例の発言をしています。

最初は、祝辞でそんな話をするつもりなかったのですが、話をしているうちにいつの間になぜ「斉唱」が「独唱」になったのかと無性に腹が立ち、だんだんボルテージが上がって、次のようなことを言ったのです
                 (「遺書 東京五輪への覚悟」より)                                      

自身で「だんだんボルテージが上がって」と述べているように、話していると次第にヒートアップしてしまう性格だと分析できます。

また森氏には「サービス精神が旺盛」という評価も見られます。場を盛り上げようとして冗談めかして言った言葉が炎上してしまった、と論じている記事もあります。(スポニチ 森会長、なぜ失言を繰り返す?…サービス精神と焦りやすさ、“神の国”など失言の原因に

森氏自身も新国立競技場のデザインの「生牡蠣みたい」発言に関して以下のように述べています。

国と都が造り、組織委員会はそれを利用させてもらう立場ですから、私には口を挟む権限はありません。しかし、最初この設計を見たとき、私としては感じが良くなかった。そういう気持ちもあって、誰も反対論を言えないので、個人的な感想という形で「なんか神宮の森に生牡蠣を置いたみたい」と、冗談めかして言いました。
                 (「遺書 東京五輪への覚悟」より)

以上をまとめると

・森氏はマスコミが発言を都合よく切り取ること、知識がないまま報道することに不快感を抱いている
・森氏は話をしているうちにボルテージが上がってしまう一面がある
・森氏は会場を盛り上げるために冗談を言う一面がある

と言うことになるでしょう。

果たして、今回の「女性がいる理事会は時間がかかる」発言はどうだったのでしょうか。

続きは「【森喜朗氏】【後編】女性に対する偏見に基づいた例の発言を掘り下げてみた」に掲載しています!是非ご覧ください。

執筆 ゆたか

参考文献
幻冬舎文庫 「遺書 東京五輪への覚悟」森喜朗(2017/4)
スポニチ 五輪組織委・森会長、女性蔑視発言か…「女性がたくさん入る理事会は時間がかかる」(2021/2/4)
NHK 森会長 辞任表明 東京五輪・パラ組織委緊急会合 【発言詳細】(2021/2/12)
笹川スポーツ財団 スポーツの変革に挑戦してきた人びと第90回未来へつなげたい「ゴールデン・スポーツイヤーズ」のレガシー森 喜朗
スポニチ 森会長、なぜ失言を繰り返す?…サービス精神と焦りやすさ、“神の国”など失言の原因に(2021/2/4)

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