商品のIconicな象徴を人々の脳裏に刻みつけたHeinzのマーケティング手法


社会的な現象を引き起こした米ケチャップ会社の実験

アメリカのケチャップメーカーのHeinzが面白い社会的実験を行いました。自社ブランドの市場認知度の測定が目的でしたが、結果的(最初から戦略か)に、マーケティング戦略の一つとして有名になりました。
名付けて「Drawing Ketchup Campain(ケチャップを描こう!キャンペーン)」。

5大陸12カ国において、自社(Heinz)の名前を伏せて「あなたが想像するケチャップのボトルの絵を書いてください」と,とても簡単なお題、お願いを、ランダムに選んだ参加者(8歳から80歳代まで)にしました。被験者(絵を描く人たち)は調査の目的を一切知らされてはいません。
皆、楽しそうに絵を描き、誇らしげに主催側に披露していきます。
その後、どのようなボトルがケチャップの象徴的な姿か、その傾向を調査しました。

先ずは下記のyoutubeをご覧ください。そして結果として何が起こったのでしょうか。


多くの割合(97%とも言われています)でほとんどの人が、Heinzのケチャップを想像させるラベルの絵を描き上げたのです。Heinzのロゴ、「57」の数字、トマトの絵の位置まで、ケチャップのボトルのHeinzのラベルを思い起こす絵となりました。

真紅・ケチャップ=特定ブランドというiconicな印象作り
これは、人々の記憶や意識の中に、ケチャップについてのブランドとパッケージイメージが象徴的に脳裏に刻まれていて、
それが真紅のケチャップ=Heinzという脳内ルールを作っていることを証明しました。

世界的にも、使用目的や味の多様化という点でも、現在はHeinz以外の多くのケチャップメーカーがスーパーに並んでいます。日本のメーカーの商品は、子供の味覚や日本の家庭で料理される食事によく合うために、日本マーケットの独自のポジションをしっかりと守っていると思われます。そうやって私たちは生活、目的や嗜好に合わせて選んで買う習慣があります。しかし、それでも世界的には無意識に視覚的な象徴としてのケチャップでは、Heinzがその高座につき、その力を知らしめるべく私たちの記憶を占有していたことが証明されました。

この実験は広く公開され、その実験のシンプルさと絵を描くという大人のもつ子供心を刺激する遊び心もあり、関心が波紋のように広がり、最終的には有名なマーケティング戦略コンペで表彰されることになりました。
また参加者の描いた実際のラベルが実際のHeinzのラベルに採用されるなど、
世界的に選ばれたとされる人気のブランドケチャップと消費者との距離感をグッと縮めたマーケティング手法によって、
それまでは少々苦戦気味になっていたと言われるHeinzの売上高は一気に回復し、
人々は再びスーパーでHeinzを迷わずに手にとるようになったようです。

心理学的に考えてみる
この現象を心理学的に説明するなら何か、私も少々考えて楽しみました。
自分が持っていたケチャップへのイメージが、場所や年齢の違いを問わず
大多数の人の持つイメージとピッタリと一致した、「やっぱり感」。
そこからくる安心感、共感、一体感。

例え、昨日までは別のブランドを買っていたとしても、
小さな子供にはその酸味とスパイスの味が少し大人向けであっても、
日本のオムライスやナポリタンには甘味ある方が良くても、

一度経験したその共感パワーの心地よさに影響されて
「そうよ、やっぱりHeinzよね」「わかってた」と
自ずと手にとってしまうその心理はまさに
「確証バイアス」。

「確証バイアス」とは、自分が持っている先入観やまた仮説を肯定するために、
それらを強化する情報ばかり集めてしまう傾向のことを言います。
「そう、やっぱりHeinzだと思った。私も同じ。」という経験が、
それに肯定的な情報だけを見聞きする中で選択し、
「やっぱり私は正しかった」という承認欲求を満たす働きがあるのです。
これにより、なぜ自分はいつもはHeinzではない商品を買っていたのか考える事をやめ、
商品同士の比較さえしなくなるのです。

象徴的な記憶としてのケチャップは、このように一つのブランドであっても、
市販のケチャップはもっと多様創造性に溢れています。
費用目的や好みも様々、優れた商品がたくさんあります。
それでも市場をたった一つのアイコニックブランドに返り咲きさせた
この企業マーケット戦略は、本当に素晴らしいし、
面白い、それだけでは語り尽くせない消費者心理の奥深さがあります。


Global Well-biing
淵上美恵
代表
公認心理師(日本国家資格)
オランダ心理学会心理士(オランダ)
組織心理学修士(英国MSc)
日本ビジネス心理学会常任理事
学ぶ&遊びを育てる会 副会長
スクールカウンセラー

www.globalwellbeing.nl




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