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パロディ・オマージュ・二次創作の著作権に悩みながらLINEスタンプを作った話【制作日記】

こんにちは。イラストレーターのMieです。
レトロテイストを活かした作品作りをしています。
6年前に登録してずっと放置していたnoteですが、仕事などで描いたり作ったりした制作物の記録をつけていくことにしました。
よろしくお願いします。

先日LINEクリエイターズマーケットで駄菓子をモチーフにしたスタンプをリリースしました。今回はその制作日記になります。

販売するまでの色々とパロディと著作権についての話です。


■「権利の所在が明確でないもの」でリジェクト


先月発売したこのスタンプ、作ったのは昨年の夏頃でした。
いつものようにすぐ承認されるつもりで申請したら、まさかのリジェクトに……!
(リジェクト=審査NGの意味)

LINE公式アカウントの登録者数が4万人を超えたら、レトロ好きの鉄板ネタである「駄菓子」モチーフのものを出そうとずっと思っていました。
丁度そのタイミングだったので満を持してというか、
かなり力を入れて作っていたのと、昨年下半期の仕事の売上目標をこの駄菓子スタンプ込で考えていたところがあったので、ショック大……!!

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そしてリジェクト内容がこちら。

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一部を修正しても審査通過しない…?そんな…!!!

お菓子のパッケージ部分が二次創作物と判断されてしまったようです。
権利侵害にならないようかなり考えて作ったものだったので、ショック!
しかも全点NGときました。
知財的なものが全く含まれていない、明らかに普通の問題ないイラストまでNGだったのを見るに、審査員ガチャに外れてしまったのもあるかもしれません。

LINEスタンプ作っている方なら解ると思いますが、審査員によって審査基準がかなり違っていて、運なところがあったりするんですよね。
申請し直したら修正せずとも承認されたりするくらいに。
(リジェクトになって諦めちゃった人がいたら、試しに新規作成で再申請してみてください)

今回それに運悪く当たってしまったのかなぁ…と凹み。

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しかしですよ、食品パッケージ系をモチーフにしたスタンプや絵文字(寧ろ私が申請したものより、実在のものに似ているもの多数)はすでに大量に販売されているのに……!なんで私だけ…ToT

ショックが大きすぎたので、この日はひとまず寝ました。


***


■リジェクトになってよかった!


どうしても駄菓子スタンプを販売したい!
そう思うのと同時に「権利の所在が明確でないもの(二次創作など)」という審査結果を受けて、改めてパロディ・オマージュ・二次創作について考えました。

気をつけて作ったけど、まだ甘かったかもしれない…。


【パロディ系のイラストを売る事について】

・ファンアートとして公開するわけじゃなく(本当はこれもダメな場合あるけど)商売。

・漫画などに背景やアイテムの一部として登場するわけではなく、イラストそのものを販売する形だ。

・知名度や規模等の力関係が、
 描いた人<パロディ元 な時点で相手に何も利益がない。
 描いた人>パロディ元 だとしても、寧ろもっとダメな気がする。

・パロディ元の商品や作品の世界観が希釈化する懸念があり、相手の不利益になる場合もありそう。
※希釈化=他者が真似する事で、その企業特有だったモノへの消費者の認識が薄まってしまう事


というような事を考えれば考えるほど、あの申請したスタンプは良くなかったなと思えてきました。

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<もし訴えられてしまったとしたら。>

もしかしたら、参考にしたお菓子のメーカーさんに訴えられる場合もあるかもしれません。
そんな事殆ど起きないとは思いますが(現に巷にお菓子のパロディ溢れ過ぎてる)絶対無いとも言い切れない。

これが企業なら対応できる資金も体力もあるだろうし、個人でも趣味でやってる規模ならそこまで大惨事にもならなそうだけど、
LINEクリエイターズマーケットは市場が大きいし、駄菓子は人気モチーフなので売上予測が何となくできたのもあり、色々展開した後に訴えられてしまったら私個人で対応するのはかなり悲惨なことになりそう……。

更にスタンプ販売の仕組みから、売り出してから販売停止にする事になってしまうのは果てしない機会損失になるし、
そもそも、参考にしたお菓子メーカーさんに不快な思いを抱かせたく無い。

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冷静に考えた結果、リジェクトになって逆に良かったと思いました。
もし緩い審査員に当たってすんなり審査が通っていたら、色々な意味で逆に大損失になっていたかもしれません。倫理的な面も考えたら尚更。
審査員様、リジェクトにしてくれてありがとうございました!

という事で、完全に空想のものにしてしまおう!と、よく無さそうな箇所をもう一度見直して修正を加え作り直す事にしました。

***


■著作権センターへ問い合わせ


巷ではお菓子のパロディイラストを使用した商品が溢れていますが、そのラインはどこまでOKなのだろう?という疑問。
名称だけ変えてるだけで酷似しているもの、デザイン全体を変えているものなどたくさん見かけますよね。シールやレター等の雑貨類に布生地に。

許可をとっているのかどうか謎ですが、同業者の話を聞いてると雑貨系はなんとなく許可とって無い感じでした(モラルは置いといて著しく類似じゃない限り法的にはグレーでそういう文化なのかなと)

イラストのパロディや二次創作に関する弁護士さんの記事や判例をネットで色々読んでみたり、調べまくりました。


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人によって見解が違って曖昧で、解決に至らず。

ネット情報だけじゃ結論が出なかったので、著作権情報センターに聞いてみることにしました。

<著作権情報センターとは?>
知的財産権のうち著作権について発信している機関。
電話相談も受けてくれる。

公益社団法人 著作権情報センター
https://www.cric.or.jp/
(相談については諸々サイトで注意事項など確認してください)


何年か前にも電話相談したことがあるのですが、今回対応してくれたのは陽気なおじさん。
どれくらい陽気かというと、奥さんの話をしだすくらいに陽気。
またしても対応してくれる人ガチャでハズレを引いてしまったようです。


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もう知ってる基本の話をひたすらされただけで、疑問への明確な答えは見つからず。後半は殆どおじさんの世間話に愛想笑いして終わりました。
謎の20分でした。
(電話代…!!)

今回こんなでしたが、前はすごく親切で役立ったので駆け出しのイラストレーターさん、デザイナーさん等で著作権について知りたい人はこちらの機関を利用すると良いかと思います!


おじさんと話してみて、やはりパロディやオマージュ系は”グレーで曖昧なもの”なんだなぁと再確認。
なぜ明確な答えがないのかというと、著作権は親告罪なので本人が訴えない限りどうにもならないものなんですよね。
OKかどうかは全て著作権者の判断で、気分やさじ加減で変わってくるという。訴えたところで、認められない場合もあるだろうし。

自分も含め、創作活動をしている人の多くは「これくらいならOKだろう!」という自己判断でOKのラインを決めていると思います。
人によって感覚が違うから難しい!
著作権系の裁判とかで裁判官すらも判断悩みそう。弁護士さんの能力によっても変わりそう。

でも曖昧だからこそ、金銭の発生するものでグレーゾーンを自分で決めてしまうのは微妙だし、逆の立場だったら?と考えると尚更自分に都合よく解釈しない方が良いよなと思いました。
自分で判断ができない、わからない!と思うようなものは「売らない作らない!」ですね。

そもそもの話ですが、食品等の工業製品は芸術的要素が無いため著作物に該当しないと言われていますよね。お菓子のパッケージとかも含まれるようですが、法律がOKなら何でもいいのか?と言うとそうじゃないしなぁ〜〜と、考えはじめたら悩みすぎて脳みそが溶けるかと思いました。

悶々と一人で考えていてもらちが明かなかったので、
駄菓子メーカーさん各社に直接問い合わせをしてみることにしました!

***


■お菓子メーカーに問い合わせ。製菓会社と駄菓子がもっと大好きになった。


・明らかに似てるし連想させるかも…と思ったもの
・著作権的に微妙なところかも…なもの

上記について、10社ほどに問い合わせをしてみることにしました。
それ以外のイラストは、知財的な部分(商標権・パッケージデザイン)を侵害しないよう描いたものと、元々著作権で保護される要素が無いものだったので自己判断ではありますがそこはOKとしました。

返事はもらえないのを大前提にダメ元で。返事が来なかったところはイラストの使用は諦める!ということにしました。

まずは2社に送信。
そして早速返事が!その結果は、


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ですよね!

少し期待しつつも、そりゃそうだよね…と。

昔知人が
「漫画の二次創作とかパロディとかは、企業側は黙認している事が多かったりするから聞かれてしまったら「NG」と言わざるを得なくなる。
だから問い合わせとかはしない方が良いよ」
と、言っていたのを思い出しました。

「貴社のお菓子のパロディです」というニュアンスの文章で問い合わせてしまったのも、ダメだった原因かもと思いました。
参考にはしたけど、1社の商品だけを元にしたわけじゃなかったので完全に語弊がありました。

そこで、その後の問い合わせからは文章を変えてみました。

・参考資料の一部として制作したイラスト(あくまで貴社商品自体を模したものではない)
・貴社商品の権利素材の侵害になってしまっていないか

というニュアンスにしてみました。


そしたら…!
たまたまかもしれませんが、「問題ない」のお返事を頂ける率が増えました。言い方・伝え方って本当大事だなとすごく思いました。

あとはネットに窓口が無い企業へは、電話と迷いつつ資料を一緒に送った方が解りやすいと思い手紙を送りました。

先に電話をするべきか、いきなり電話の方が失礼かもしれない、手紙を出す方が失礼かもしれない…と、送るまでに悩みすぎてまた脳みそ溶けるかと思いました。

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と、ハラハラしつつ当たって砕けようと思い郵送。
迷惑なことをしてしまった…と罪悪感に苛まれつつ、数日後メールや電話でお返事を頂くことができました!

メールも手紙も、殆どの企業様から丁寧なお返事をいただきました。
中には私のWEBサイトを観てくれたり、イラストの感想まで添えてくれる企業様もあったり。なんて素敵なんだろう。

大好きなお菓子メーカーさんからの優しいお返事と親切な対応に、感激してしまいました。

曖昧な著作権だからか、法務部や顧問弁護士さんに確認する流れになったところもあり、お手数かける事になってしまって申し訳なかったです。

どこの企業も、こんな一個人の問い合わせにも親切丁寧にお返事を下さって、長年愛される企業ってやっぱり違うなぁ〜と感動の嵐でした。
(ご迷惑になるといけないので、問い合わせをした企業名などは控えさせていただきます。)

益々そのお菓子とメーカーさんが大好きになりました。

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やり取りして指摘頂いた箇所を修正し、無事にスタンプを作り終わりました。

★気をつけた点
・パッケージだけじゃなく中身のお菓子の形状もオリジナルにした。
・商品の世界観の希釈化にならないよう、商品ロゴを文字っただけのパロディ形式は避けた。
・企業と一切関係の無い、架空のものにする。

駄菓子の様式美に沿いつつ、空想の駄菓子イラストが完成しました(と思っています)

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■商品パッケージに関係する知的財産権


今回気をつけた箇所の話なのですが、
もともと仕事で何かを描いたり制作する時は、すでに世にあるアイデアかどうか・誰かの作品と類似していないかを調べるところから始めるんですが、今回の駄菓子スタンプは著作権の他にも意匠権と商標も調べて作りました。

<意匠権>
簡単に言うと、物品の外観デザインの権利のこと。
形状・模様・色彩(色の組み合わせ的な)などのデザインを守る権利です。

イラスト3


権利者側は偽物商品、模倣品対策に活用できます。
登録されていないか調べ、お菓子の形やパッケージの形にも気をつけながら描きました。

でも意匠権は同じ市場内で「製品」として販売する際に守らないといけない権利だと認識しているので、イラストではあまり関係なかったかもしれません(これどうなんでしょ?)

ですが心配なので念の為…!イラストとして描く場合だとしても似ないようにしておきました。


<商標>
商標はよく聞く言葉だと思いますが、名称やトレードマークを保護する権利です。
使っていた名称が実は商品名だった…なんてことがよくあるので、空想のお菓子名が実際に存在していないか等くまなく調べました。


※意匠権、商標(ついでに特許も)は下記サイトで検索できます。

■特許庁
https://www.jpo.go.jp/support/startup/isyou_search.html

このサイトも何か作る時によく利用しています。

気になる方は「容器」とか「袋」とかで検索してみてください。
こんなものにも権利があったのか…!と発見があって面白いです。暇つぶしにぜひ。

***


■先にLINE着せかえを申請


さあいよいよ申請リベンジだー!!

と…逸る気持ちを抑え、スタンプを申請する前にまずは駄菓子のLINE着せかえを申請する事にしました。
スタンプで描いた駄菓子イラストを使用したデザインです。

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なぜかというと、着せかえはスタンプに比べて審査がとても優しいので、先に着せかえを承認してもらい既成事実を作り、リジェクト内容の「権利の所在が不明」を回避する作戦に。念には念を…!

着せかえは速攻で承認され、その後すぐにスタンプ申請。
ようやくスタンプも承認されました!

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■総合ランキング9位にランクイン


1月22日に販売スタートし、初日から翌日にかけてになりますが9位までいくことができました!

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また、LINEスタンプは年齢別にランキングがあるのですが、30代・40代のランキングでは1位にランクインしてくれました。

ご購入下さった皆様、本当にありがとうございました!!

LINEスタンプの販売を始めて約6年。

過去に、LINE公式からのお知らせ(数千万人にリーチしてもらえる)で推してもらった時に2位までいけた事はあったのですが、リーチ数からして上位にいけるのは当たり前なので、初めて自力で10位以内にいけたのがすごく嬉しかったです。

これより上は壁が厚すぎました。強すぎる。上位陣の売れっ子クリエイターの皆さんは本当にすごすぎます。


作ってからリリースするまですごい時間がかかったのもあって、とても思い入れのあるスタンプになりました。
今後もコツコツ地道にがんばろうと思います。


☆完成したスタンプ「懐かし駄菓子☆おちゃめフレンズ」
クリックで販売ページに飛べます。

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https://line.me/S/sticker/13859647

※あくまでこのイラストは全て空想の駄菓子で、私の創作物です。実在する商品や企業とは全く関係がありません。

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