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山の中で車が故障し助けにきてもらった夏の長い一日

その日も暑かった。
京都の山奥のいつもは涼しい集落の中の温度計も34度と出ていた。

「ついてくる?」
川に行くと言う夫に聞かれたので、
足ぐらいつけられたら楽しいし、いいなと思って
「ついていく。」と答えた。

「そしたらあそこに行った方が一緒に川に入りやすいし。」とかなんとか言ってるなと思っていたら、私にもちょっと釣らせてあげようと思っていたみたいで。川に着くなり
「早く来て。始めに釣った方が絶対かかりやすいから。」
足をつけるだけのつもりだったのであわててついて行った。
「あそこにいるの見えてるし。絶対かかるし。」
言われた通り竿を持ちおとり鮎を泳がせる。あ、私にも元々いる鮎が見えた。結構大きい。そろそろ体当たりしてくるかなと身構えても何も反応がない。

天然鮎の友釣り
夏になると毎年夫は鮎漁師となる。
私も夫と結婚してから時々ついていきちょっとだけ釣らせてもらうこともある。
と言ってもおとり鮎をつけてもらって後は竿を持つという状態で持たせてもらって釣るのだけど。おとり鮎は無理矢理ひっぱったりしなければ自分で泳いでくれる。そこで縄張り意識の強い鮎が縄張りから出ていけと体当たりしてくるところを針でかけて釣るという漁法。

でもその日は全然体当たりしにきてくれなかった。
「ここあかんな。もうちょっとあっちの方がいいかも。」
何ヵ所か移動しておとり鮎の周りを結構大きな鮎がたくさん泳いでいるのも見えたけどなんだか仲良く泳いでるようで全然「あっちいけー!」と体当たりしてくれない。
「今日はあかんな。群れになってるわ。お盆で人がいっぱい川に入ったし警戒してるのもあるかもな。」

元々、川で足をつけるだけでも楽しいと思ってついていった私は、おとり鮎を泳がせながら足をつけられたし恒例のかわいい石も拾ったし満足していた。。。
「せっかく釣れると思ったのに。」
夫はとても残念そうだ。
「釣れなくても鮎を泳がせながら川に足つけてただけで楽しいからいいよ。」

そこからさらに山の峠を越えて谷川にそって車を走らせ上桂川の上流まで。久しぶりにドライブと来週たぶん息子を鮎釣りに引っ張り出すための下見。随分前に廃校になった小学校の下で川遊びをしている家族連れと鮎釣りをしている人を見かけた。

そこから引き返してもう一度谷川に沿って走っていたらいきなり、
「ん?なんかおかしいな。車。ちょっと止まるわ。」
と左に寄った途端、エンスト。それから2、3回は止まってはエンジンをかけて少し進んでは止まって。このまま何とか峠の上まで行けたら後は下りやし、行けるところまで行くしかない。
来る時にすごい岩だなとのんきに写真を撮ったところでオーバーヒート。

前からは乗用車。後ろからは工事の大きな車両2台。
「これはやばい。最悪な状況。」
とりあえず降りて後ろ向けに車を押しながら脇道へ避ける。工事の人たちが車を降りて助けてくれた。
「この辺りって公衆電話あります?携帯持ってないんです。」私が聞くと、
「ここつながらへんかもしれませんよ、あ、つながった。JAFとか入ってはったらこれで連絡します?」とスマホを貸してくれた。ありがたい。

JAFに電話をして夫が事情を説明。スマホに慣れていないので電話でしゃべりながら画面に顔が当たっているようでピッポッピッとうるさい。冷静に聞き取ってくれるJAFの受け付けの人がすごい。そのうちなぜか電話を切ってしまったようでJAFの方からかけ直してくれた。とりあえず牽引できるような装備で来てくれることになった。折り返しの連絡先を聞かれたが連絡先がないので、
「1時間でも2時間でも待っときますのでよろしくお願いします。」と電話を切った。工事の人に「ほんとうにありがとうございます。」と伝えスマホを返した。「結構待たはることになるかもしれませんね。」と心配してくれていた。
「ぼーっと待ってるだけなんで涼しいし大丈夫です。」

そしてそれから2時間ぼーっと待った。

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「さっき写真撮ってたんやけどこの岩すごいなと思って。」
「あそこ穴空いてるやろ。たぶん昔ここに橋かけてたんじゃないかと前から思っててん。」
「右側も欠けてるけど穴みたい。」
「その2つの穴に木とかを立てて橋脚にしてこっちから橋を渡してたんかなとずっと前釣りに来た時から思ってたんやけど。こんな橋ができる前はそうしてたんじゃないかなと。」
「なるほどー。そうかもねー。」と橋の欄干にもたれながらのんびり話していた。とてもきれいなところで魚がたくさん泳いでいるのが見える。

あ、あまごが見えた。カワムツみたいなのも。すごいちっさいのもなんかいる。ハゼみたいに岩にひっついているのも。

「今日は帰り遠回りして熊野に移住する前にこの辺で家探してたところを通って帰ろうと思ってたんやけど。ここで止まってしまったな。」
「まあ、ここでゆっくり待ちながらしゃべってたらいいやん。」
「そうやな。あの年も暑い夏やったなぁ。いろいろ見に行ったな。空き家とか空いてそうな土地とか。結局この辺では見つからんかったけど。」
「そうやねー。今思うと住んでたら大変やったかもと思う場所もあるよね。無理矢理住めへんかなとか考えてたしねー。」
「なんであの時はあんなに焦ってたんやろー?」
「なんでかなぁ。なんか新しい暮らしをしよう、新しい場所を見つけようと思ってたよね。」
「結局焦っても焦らなくても見つかる時は見つかるし、今もコロナでみんなと同じようにうちも大変やけど焦っても無理なもんは無理やしゆっくりやっとくしかないねんなー。」
「そうそう。大体いっつも焦りすぎやねん。のんびりするぐらいでちょうどいいんやわ。」

のんびり会話をしていたらどんどん涼しくなってくる。
この猛暑でこんな涼しいところでのんびりできるなんて暑さで参っている人たちには羨ましがられるのではないだろうか。
「せっかくやからもう1回川に足つけてきてもいい?」
これ以上涼しくなったら足つける気もなくなりそうだと思ってあわてて足をつけに川へ下りた。両側に木が茂っているからかさらに山奥だからかさっき釣りをしていたところより水が冷たく感じられた。

そんな風に山奥での夕涼みを満喫して真っ暗になってきた頃、JAFがやって来てくれた。「大変お待たせして申し訳ありません。」「暗くなってきてしまってすみません。」親切な隊員さんのお2人がいきなり丁重に挨拶してくれた。
「いえ。こちらこそ、こんな山の中まですみません。どこから来られたんですか?」
「上京区からです。」
「遠かったでしょう。ほんとすみません。」

車を見てもらうとラジエーターから液が漏れていたようで空になっていたそうだ。とても狭い道で牽引してもらうと離合できないと大変なのでできるだけ自力で行けるようにやってみようということになった。空になっていたラジエーターを満タンにしてもらって並走してもらいながら走ることになった。ただあまりにも距離がある、しかも自宅に帰り着いたとしても早速明日の朝、いつもお世話になってる車屋さんに車を取りにきてもらっておまけに代車もお願いしないといけない。自宅も実は山の中なので車がないとどこへも行けない。

車屋さんに電話をしてどうしたらよいか聞いた方がいいということなった。JAFの人が電話を貸してくれ途中で症状も説明してくれた。京都の山奥から滋賀まで出た辺りまで車屋さんが迎えに来てくれることになった。ありがたい。

車屋さんとの待ち合わせ場所まで1回、点検とラジエーター液を補充しただけで何とか自力で走ってくれた。うちの軽バン。ありがとう。
私は少しでも重量を軽くした方がいいということと、隊員お2人ともこんな山奥まで来たことがないので少しでも道案内になればということでJAFの大きな車に載せてもらった。お2人ともほんとうに都会派のようで峠から降りてきた集落にたどり着くと、
「あ、こんなところに家が。こんなにたくさんあるんですね。立派な家ですね。」と驚いていたり、
「蛙がたくさんいるんですね。踏まないように気を付けてるんですけど。」と蛙に優しかったり、
そういえば夫と結婚するまでは私も田舎に住むなんて想像もしていなかったことを思い出したりした。結婚してすぐの頃もなんでだったか同じような山奥でJAFの助けを待っていて暗くなってきたので目印にと当時の愛車ローバー114の上に虫除けキャンドルを載せたりしていたことも思い出した。昔から同じようなことをしている。

JAFの会員も現在は随分減っているようで
「ご家族で他に運転される方はいらっしゃらないんですか?」なんて軽く聞いておられたのは、もしいたら入会をお勧めしたいということのようだった。
本当に親切で困った時に助けに来てくれるサービス。
大変だろうけど(こんな山奥まで暗くなる頃に呼ばれたり)日中も暑い作業もあるだろうけどどんな時でも助けにきてくれる。
なんて心強い。
と思った。やはり車を運転される方にはJAF入会をお勧めします。
年間4000円でこの安心感。毎月送られてくる会誌も結構何となく読んでしまう。ぜひお勧めします。
助けてもらったお礼にせめてもと宣伝しておこう。

何とか車屋さんとの待ち合わせ場所に到着した。車屋さんが大きな車載車にうちの軽バンを載せてくれ、今度は車屋さんまで連れていってもらった。
「JAFの人が迎えに来てくれるって親切な車屋さんでよかったですねと言ってました。」と私がお礼を言いながらJAFの人の言葉を伝えると、
「そうか?」と当然のことのように言ってくれる車屋さん。
車屋さんも親切だ。
迎えに来てもらえなかったらJAFの方の並走距離が無料サービス区間を超えてしまうようだったので本当に助かった。代車も用意してくれていた。

大きな車載車のカーラジオで地元のFMが流れていた。

「本日のゲストは宝船温泉、若おかみでアイドルの○○○○さんです。」
「え?宝船温泉ってあそこの?この前入りに行った?案内してくれたあの人のこと?」
アイドル名が覚えられなかったけれどその人のことに間違いなさそうだった。そんな活動もしてたんや。びっくり。

いろいろなことがあった夏の長い一日だった。
やっと家に帰り着いたら息子がとても心配して待ってくれていた。連絡しそびれててごめんね。心配かけてごめんね。待っててくれてありがとう。
来週は一緒に川に行こうね。
おみやげの川の石。
「今日はちっさいおにぎりシリーズ3つ」
息子に見せると「かわいいな」と喜んでくれた。

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