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のりまきサーブ

「のりまきサーブって自分で考えたん?」

不意に夫に聞かれて急激に記憶がよみがえってきた。

私の幼稚園の時の将来の夢は
バレーボール選手
周りの子は、ピアノの先生とかお花屋さんとかお嫁さんとかが多かったような気がする。幼稚園の先生に「かっこいいね」と言われて得意になっていた覚えがある。

アニメ「アタックNo.1」の影響だった。
いつもいつも「アタックNo.1」を見て毎日毎日となりのKちゃんとバレーボールの特訓をしていた。
毎日毎日練習ではなく毎日毎日が特訓なのであった。
ビデオもなかったその頃、どうしても遊びたくて夕方の放送時間に間に合わない時は、母に頼んでカセットテープに録音してもらったこともあった。

「いいけど。聞くだけで楽しいの?音だけやで。」

不思議そうに母に言われながらも数回録音してもらった記憶がある。楽しかったかどうかは覚えていないけど、どうしても欠かせないものだったのだと思う。

当時の誕生日プレゼントは毎年バレーボール。
毎日毎日特訓していた私たち2人はついに同じマンションの友達姉妹に練習試合を申し込むこととなった。
試合となればどうしても必要なのは「必殺技」だ。
私たちは来る日も来る日も「必殺技」を編み出そうとがんばった。

ある時、私は閃いた。
サーブをする時ぐるぐるぐるぐる手を回してからサーブする。
「ぐるぐるぐるぐるのりまきサーブ!」

Kちゃんはレシーブできなかった。
「すごいわ。ぐるぐるしてるからいつサーブがくるかわからへん。」
Kちゃんにほめられ有頂天の私。

それからは「のりまきサーブ」の特訓がはじまった。
ぐるぐるぐる3回手をぐるぐる回す時もある。
ぐるぐるぐるぐるぐる5回手を回す時もある。
そのたびに「ぐるぐるぐるぐるぐるのりまきサーブ!」と大真面目で手を回した数だけ「ぐるぐる」と言う私。気合い十分。きっと勝てる。

結果はよく覚えていないけれどたぶん私たちの中では勝ったのだと思う。
試合の勝ち負けよりも「のりまきサーブ」の成功率の方に私たちの興味は移っていて、結果として「のりまきサーブ」の成功率は高くなかなかレシーブされなかったのだと思う。うろ覚えだけど・・・

その後、私の「バレーボール熱」が打ち砕かれたのは小学校4年。
学校内の部活動を決めるというので私は迷いなく申し込んだ。
バレーボール部だ。
同級生の間ではやはり「アタックNo.1」人気が根強く残っていたのだろうか。希望者が多すぎてくじ引きとなった。
私ははずれてしまった。
仕方なく何部に入ったのかもよく覚えていない・・・

私の「バレーボール人生」は終わった。

ずいぶん前にそんな話をしたのをふと思い出したらしい。
「すっかり忘れてたわ。よく覚えてたね。」
「なかなかネーミングがいいなと思って。なんか楽しそうやしなんとなくイメージできるし。」
なぜか夫にほめられた。

のりまきサーブ
やはり最強の必殺技だったのだろうか・・・(おわり)


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