都会のみずみずしさ。
「僕も同じ出身です。」
すらっと細身で背が高くて。
透き通るような白い肌に、淡い瞳。
さっと歩くフットワークを見れば、身体に余計なものを詰め込んでいないのがわかる。爽快な動きに心地よさと、親近感を覚える。
ああ、通りで。と思った。
勝手な先入観なのだけど、
私の地元にはそういう子が多い気がする。
男性であっても、女性であっても。
すれ違うと思わず振り返りたくなるような、瞬間がある。
彼ら・彼女たちには、共通して、
”みずみずしさ”があって
その溢れる水分を見つけると、思わず、あの子ももしかしたら…なんて勝手に想像してしまう。
あの場所を離れてから、随分と時が過ぎた。
ただ広大な田んぼが広がっていている、田舎町。
夏は、命ある限りみんみんゼミの声が響き渡り、街灯の少ない川沿いに細々と蛍が集う。とんびが気持ちよさそうに空を泳いで、何重にもおおきな円を描く。
何もない、のだけれど。
目を閉じると、いろんな音や色、匂いが溢れている。鮮やかに入り混じる。
都会ぐらしを始めた年。
春はやたら目にゴミが入るし、夏はコンクリートから暑さが照り返す。ビルのてっぺんを見上げて、その高さにクラクラして。こんなところで暮らしていけるのかしら、と気落ちしていたはずなのに、
秋になれば、やさしい寒さに居心地の良さを覚え、長年悩んできた霜焼けから解放される頃には、都会ぐらしの自由をしっかりとつかんでいた。
生活を繰り返すごとに、都会から都会に移り住み、さらに別の都会に移り住んだ。
いつの間にか空を見上げることがなくなれば、高いビルと並列して、同じ列をなすように、都会の一部となって、生きてきた。
食料品の調達はより好みができるほどで、薬局はどこだって飽和状態。毎日どこかかしらでクーポンが発行されている。
電車を5分待つことすら億劫になって、もっと早く到着するルートはないものかと、すかさずアプリで検索している。
気づかないほどに少しずつ。
でも確実に、
自分の中の「普通」が変わっていった。
「関西弁が、出てしまうかもしれません。」
ちょっと嬉しそうに、彼が言った。
仕事関係の面談で、
ビジネスライクな会話が求められる場。
それでも時折、独特のイントネーションが会話に溢れる。
すかさず、その水分を両手で掬う。
そして、思い出す。
あの地の、音、色、匂いの鮮やかさを。
都会ぐらしが随分と長くなった。
時間に追われ、人に紛れ、日々をこなす。
それでも、心を枯らさずに
自分のみずみずしさを守り続けたい。
ふとすれ違う人、出逢う人、言葉を交わす人。
誰かの水分となれるように。
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