あめくらい

久しぶりの小説です。僕の小説はほとんど未完成ですが、楽しんでいただけたら幸いです。高校の最後の年になりました。受験生と換言できてしまう一年ですが、思い返せばこの3年、『雨』というテーマがずっと消化不良のまま残っていました。まだこの小説を書いても無くなりません。美波というシンガーソングライターに影響を受けたのだと思います。
世界で一番尊敬する人に、この小説を。

 雨音って不思議だね、通話越しで少しノイズの入った彼女の声がそう言った。
 外は雨が降っていた。ぽつぽつ、蛙の鳴き声は錯覚かもしれないね、って僕が言うと君は、もしかしたら私の家の方かもって笑った。都会で時々聞こえる虫の声の正体ってなんだろう。雨の時に聞こえるあの虫の声って、気になってはいたけど答えは知らない。きっとGoogleだって知らないことだってあるんだよ、と君が言う。それもそうだね。答えなんてないものの方が世界には多いって考えた方が楽しい気がするよ。僕も君も数学は嫌い。できないことの言い訳じゃないよ。でも感情で生きていたいんだよなぁ、そうだね私もそう思う。
 例えば濡れたかっぱについている雨粒。傘でいいじゃん、田舎者だった僕はそう言った。そうかな、かっぱにだって趣はあるでしょ。枕草子みたいだね、君って。枕草子が雨を「をかし」って言ったかなんて知らないけど、いい褒め言葉のような気がした。すさまじきもの、君がふざけてそう言う。猫、アレルギー、だからさ。君と猫カフェに行く夢なんて遥かに行っちゃった。普通の恋人がやるようなことを僕らもしたいね、君と僕は友達だけどさ。私は恋人だと思ってるよ。恋なんてわからないよ。苦手なんだ、みんなが持つような感情が。厨二病かもね、って君は僕に聞くけど答えは知ってるでしょ。自意識過剰で利己的、僕と君以外全員死ね、考えれば考えるほどさ、汚いけど君にとっては綺麗に見える? ━━汚いかもね。成長するべきかな僕って。僕はつまらない本が嫌いだ。展開が分かりきっているようなそんな本が。でも、今の人たちってそっちを求めてるかもしれないよ、嘘だって信じたい? 私も信じたいな。展開が予測できないのが嫌なんだって、どきどき、したくないんだって、私はそれが人間だけにできる特別なことだと思うのにな。セロリ、と納豆嫌い。僕も嫌い。じゃあいらないか、結局僕らの世界にあったって意味のないものだ、捨てちゃおうなんて違うけど、ただ僕らだけには要らないんだ。世界の中心は誰もいない。昔は神様だったのに、今は空っぽだ。宗教も嫌いだ、って僕は呟いた。もし私が怪しい宗教に入ったらどうする(僕は君が嘘つきか正直者かわからないよ)━━死んじゃうかもね、僕が。そしたら私も一緒にその横で死ぬね。じゃあ安心だ、君に神様なんてできないよ。言葉。そんなもの嫌いになれなくない、って僕は言ってしまった。そういう言葉が嫌いなのかもしれないのに、彼女はきっと本当に言葉が嫌い。会話は言葉なのかな、感情だよ、安心した。警察官、って僕が言う。私の夢を貶さないで、と笑って言う君の夢って本当にそれなの? 君が本当に警察官になるんなら、君に全て捕まえてもらいたい。どんな罪も、原罪も。僕の全てを許すのは誰もいなくていいけど、君以外に責められるのは嫌だ。他のみんなはしょうもない。狭い視界だね、君はそう僕を責めた。君の責めた言葉は僕の全てを変えない。僕は僕のままだ。だけど、知らない誰かからの一言は僕を僕じゃなくする。僕は涙を流すくらいしかすることがないんだ。だから警察官は嫌いだよ。前話してた嫌いな警察官? そうだよ。私がそうなったらそれは私じゃないから縁を切ってもいいよ、君は意外に真っ直ぐだ。夢は変えないの? 夢想家って響きがいいと思わない、私はそう思うからあの夢のままでいいんだよ。
 例えば水溜りに落ちる音、君はどうしてこんな僕を恋人って思ってくれるの? 僕は君に恋してないのに、って僕は聞いた。君が少し黙るから、スピーカーからは雨の音だけ。愛する人だって恋人っていうでしょ。確かに僕は君を愛してる。愛の種類なんて語らなくてもいいと思うんだ。三方向に分けたって、根本は同じって感情的な固定概念を僕らは捨てることができない。でも僕らはただの僕らかもね、当たり前でしょ。僕らには愛があった。僕も少し言葉嫌いになりそうだ。こういうのに語弊が生まれる。そう表現する以外の方法を教えてほしい。私たちはあの雨と同じ。ずっとは一緒にいられない雫と同じ。でも水たまりで出会った時、離れたくない私たちは最後まで意気地に残り続けるの。また雨が降って、この関係が終わってしまうことを恐れながら。でも結局私たちは死んじゃうんだよね。悲しいな、悲しいよ。悲しいな、悲しいよ。涙が出ちゃったから少しの空白。何色にも染まれるけど、純白のままでいいよ。何もなくても君って存在はあるから、それに後から色をつけるのは、野暮というか、「わろし」? 違うよ、きっと殺人だ。犯人は僕。被害者は君。ああ考えたくもないくらい最悪だ。だから空白、






 例えば車に轢かれる音。びしゃ、そういえば君と出会った時を思い出した。君は川に足をつけて本を読んでた。とても気持ちよさそうに思えて、次の日僕は君と同じことをしたんだ。でも途中雨が降ってきた。その時とても好きだった本を読んでいたのに、全部濡れてしわくちゃになっちゃった。そんな時傘がやってきた。君は最初、傘だったんだ。あの頃の声色は忘れてしまった、顔も忘れてしまった、その時の感情すら、大切なものだったはずなのに忘れてしまった。今僕が感情を叫んだって、あの頃の感情は歌えない、だから聞こえてくるものは嘘なんだよ、僕なんて信じられない。でも君は傘だった、その記憶は確かにある。君は少し冷たい瞳を僕に向けて雨を傘で弾いていた。僕より本の方が大事そうだった、だってそうだよ私は知らない人みんな大嫌い、嫌なとこばかり見える、って悲しそうにいう君に僕は一目惚れしたんだ。恋ってさ、みんな簡単に言うけれど、そんなんじゃないんだって言ってやりたい。一目惚れって恋じゃないよ、じゃあ何って言われても答えは知らないけど、でも恋じゃなかったよ。君のためなら死ねる。それって恋? 友情も恋情も愛情も該当しない僕の君への感情は、恋って言わなきゃいけないの。君のこと大好きだ、私も好きだよ、僕は君に恋してない、私は君に恋してる。随分と簡単に君は言うよね。
 例えば雨が滴る音。蛙の音がした。彼女があくびをする。ふわぁっと僕も共鳴していた。そろそろ眠ろ、明日も元気に生きましょう、僕らの明日は朝から始まる。お日様を見るまで夜なら明日はずっと夜かもな、なんて考える。君と通話する夜って世界、なんで眠たくなるんだろう。きっと君を特別に思っていたいから、あっ、そうか、それでいいのかもな。おやすみ、君の声が雨の音をかき消して僕の耳に入ってきた。おやすみ、また明日、うん、明日、いい夢を、ありがと。君はもう一度おやすみと言って通話を切った。雨が降っていた。夜はまだ続けど、君がいないならただの夜だ。
 たった一人の特別な君が最後に「おやすみ」って文字を送る。
 おやすみ、僕はどこかちっぽけだ。


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