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#10 スキーリゾートで働く人たちの資格制度は、誰のためにあるのか①

今回は元々は「スキー場の選び方の続き」を予定していたのですが、少しモヤっとしたことがありましたので、予定を変更して、このモヤモヤを忘れないうちに書いておきたいと思います。

業界内やマーケティングの専門用語が出てくる、あまり一般のお客様向きではないマニアックな内容になりますし、しかも長くなるので3回に分けますが、どうかご容赦願います。


1.本当の顧客は誰か


「豆腐の製造卸売事業者の顧客は誰か?」

ビジネススクールに通っていたとき、講師と私の意見は割れました。

最終的に豆腐を食べるのは消費者ですが、その製造卸売業者は、豆腐を製造して、ある特定のスーパーマーケットに卸売りをするまでしかしません。
つまりその製造卸売業者にとって、豆腐を購入してくれるのはそのスーパーであるため、講師の答えは教科書通りに「スーパー」でした。

私は「お客様(購入者)が望む豆腐を作ってくれることをスーパーは求めているので、結局は顧客はスーパーに来る購入者なのでは?」と思ってしまいましたが、そこはビジネススクールのマーケティングの講義。論点は、誰が、最終的な購入者であるお客様の嗜好を製造卸売業者のためにマーケティングしてあげているかという点。

この、購入者の嗜好を把握している優秀なマーケターはここではスーパーで、「スーパーが思う、購入者の望むと思われている豆腐」をスーパーが製造卸売業者に求めているので、スーパーが求めるものを製造して納品すればよい、つまり顧客はスーパーになります。

製造卸売業者の「食べてくれる人のための豆腐作り」は企業理念の話です。

とあるリゾートタウン内にあるスーパーの棚。棚全部がチョコレートです!

2.スキーホリデー業界の流通の話

さきほどの豆腐のお話をスキーホリデー業界に置き換えたときに、

①豆腐を作る人
②豆腐を売れるように作戦を練る人
③豆腐を販売する人(販売方法・販売場所)

はスキーホリデー業界でいうと、それぞれ誰になるか・・・つまり皆さまがスキーホリデーの行先のリゾートを決めて、そこの予約するに至るまでに:

①だれが商品を作るのか
②だれが売れるように作戦を練るのか
③どの販売チャンネル(例:公式サイト)に商品を並べるのか

ということを説明させていただきます。

①の「豆腐を作る人」=豆腐メーカーにあたるのは当然、スキー場、ホテル、スキー学校、レストラン、バスやタクシーといった、皆さまが実際に利用するサービスを提供する人たちで、サプライヤーと呼ばれています。

皆さまは彼らサプライヤーのサービスを受けるためにお金を払っているのですが、豆腐の場合と同様に、皆さまがお金を払う相手は作っている人ではなく販売する人です。そのような前述の③にあたる、皆さまが予約したり支払いをしたりすることの仲介をすることでサプライヤーから手数料収入を得て成り立っている旅行会社などの事業者は、サプライヤーに対してプラットフォーマーと呼ばれています。

*もちろん、現地で現金で支払ったり、公式サイトから予約したりする
 「直売」の場合もあります。この場合は、プラットフォーマーを介し
 ませんが、直売であっても、オンライン決済や現地カード決済の場合、
 サプライヤーは結局カード会社に数%の手数料を支払っています。
 支払われた額の全額がサプライヤーの収入になるのは、現金決済か銀行
 振込の場合のみです。
 

皆さまのスキーホリデーは、たくさんのサプライヤーがそれぞれのサービスを提供することで成り立っていますが、それを一つ一つ予約して支払っていくことは手間がかかります。
プラットフォーマーは、それを便利にするための事業者です。

プラットフォーマーの中で特にホリデー産業の中で大きな存在感を持っているのが、ホテルをオンラインで予約できる「楽天」や「Booking.com」、高級ホテル専門の「一休」といったOTA (Online Travel Agent =オンライン旅行会社)です。

ちなみにJTBなどの従来からある窓口販売中心の旅行会社は、
OTAの対義語としてリアル旅行会社などと呼ばれています。

そして近年はホテルのみではなく、ガイドツアーやリフト券や入場券といったアクティビティやレストランの予約と決済ができるプラットフォーマーも登場しています。アクティビティでは「アソビュー」、レストランでは
「テーブルチェック」などは聞いたことがあるのではないでしょうか。

3.ホテルの本当の顧客は誰か

皆さまのスキーホリデーは、
ホテルやスキー場が現場でサービスを提供し、
OTAやカード決済会社を通じて支払いが行われることで実現しています。

ホテル(サプライヤー)は、OTA(プラットフォーマー)がお客様に販売するものを供給しているので、本来OTAのビジネスは、売り物であるホテルが無いと成り立たないはずなのですが、実際の市場では、似たような価値の商品を並べて販売する場合、販売する側の方が提供する作る側よりも優位になることがほとんどです。

つまりホリデー業界では、ホテルは自分たちだけで直接お客様に販売する力を持たない限り、OTAの言うことを聞かないと生きていけません。

ここで「顧客は誰か?」の話に戻りますが、ホテルが、本当の顧客である「泊まってくれるお客様」に喜んでもらえるような滞在を提供するためには、この「自分たちだけで直接お客様に販売する"力"」をある程度持っている必要があります。

ところが大多数のホテルーーーOTAに頼らざるを得ないーーーは、自分たちが本当にお客様に提供したいことの多くを犠牲にして、望まない形で質や価格を下げ、OTAに販売してもらうことに余計な体力を消耗させられていることが予想できます。

OTAが企画するセールに乗っかるために販売価格を下げたり、

通常はないサービスを無料で追加したり。

OTA的は
「お客様はさらなる割引を望んでいますから」とか
「お客様は弊社だけの特典を喜ばれていますから」とか言ってきますので、ホテルはOTAに依存する限り、OTAの都合の良いように振り回されます。

ブランド力のあるホテルは「ホテルがどこに立地しているか知らないけど名前は知っている」
というお客様が多く、ホテル公式サイトで予約を受け付けることが多いです。
ブランド力がないホテルは「その地域の多くのホテルの中の一つ」という扱いを受け、お客様は
OTAで地域で検索して予約するので、結果、OTAに主導権を握られ手数料も多く取られます。

この「自分たちだけで直接お客様に販売する"力"」は
マーケティング"力"もそうなのですが、ブランド"力"の方がより強いです。

皆さまは、ホリデーのホテルを決める際、まず行きたい地域や都市を決めて、その地域内で泊まれるホテルを探すというパターンが多いと思います。逆パターンの「〇〇ホテルに泊まりたいから、△△という都市に行く」は少ないですよね。

この、後者の「〇〇ホテルに泊まりたい」は、このホテルがマーケティングによりちゃんと自分たちの価値をわかってくれる顧客層を特定して、その層に刺さるサービスを創り上げて、ブランド力を強化していますから、このホテルがどこにあるかは知らないお客様でも、ホテル名は知っていて、「是非一度泊まってみたい」になります。そしてOTAからではなく公式サイトからの予約が、同じ地域内のその他大勢のホテルよりも多いです。

公式サイトからの直接予約はOTAに手数料をとられないので、宿泊料のほぼ全額がホテル収入になります。カード会社に若干の手数料をとられますが、OTAに払う手数料よりはるかに安いです。そしてOTA経由の予約も依然としてありますが、同じ地域内のその他大勢のホテルよりは少ないはずです。

逆に前者の「その他大勢のホテル」は、マーケティング不足なのかブランド力が弱いのか、お客様からの予約は直接が少なく、OTA頼りになります。
予約の多くがOTA経由ということは、直売の多いホテルよりも多くの手数料をOTAに支払っているので、利益は少なくなります。

4.プラットフォーマー優位の市場

スキーホリデーを構成するサプライヤーにおいて、

■ホテルや飲食店は、一つのリゾートに競合がたくさんある=お客様に
 とって選択肢がたくさんある
ので、それらを見比べて予約できる
 プラットフォーマーが優勢
になります。

■スキー学校やレンタルなどはそれに対して、1つのリゾートに1つ、
 もしくは多くても2,3社しかなく、競合がいないことから、
 プラットフォーム事業は成り立ちません。

スキーレッスンは現時点ではホテルで言うOTAのようなサービスはありませんので、
予約は基本スキー学校に直接することが主流ですが、
近年、宿泊予約時にレッスンもレンタルも一緒に予約してくれる高級リゾートも増えています。


まとめますと
 ・ホテル: OTAによる予約が優勢=プラットフォーマー優勢
 ・リフト券: プラットフォーマーの参入はまだ少ない=直売優勢
 ・スキー学校: ほぼ直接予約のみ
 ・レンタル: ほぼ直接予約のみ
 ・レストラン: プラットフォーマーが急速に普及=まだ直売が優勢
 ・バス/タクシー プラットフォーマーの参入はまだ少ない=直売優勢

旅行業界に限らずサービス業のほとんどで、近年はプラットフォーマーが圧倒的に優勢です。実際に現場で汗水流しながらお客様をもてなしクレーム対応もするホテルが、値引き競争やスタッフ不足で疲弊している中で、販売を代行することで手数料を得ているOTA各社が増収増益なのは、なんとも理不尽なのですが。

ホテル(サプライヤー)が、OTA(プラットフォーマー)に依存しないで、自分たちだけで直接お客様に販売する力を身に着けるには、ブランド力を持つことが必要なのですが、そには近道もなく、小細工も通用しなく、マーケティング(ターゲティングとポジショニング)で自分たちの立ち位置と、どのようなお客様層にふさわしい宿にするかを決めた上で、サービスの向上と施設への投資の両方を行いお客様からの評判を上げるしかありません。

時間もお金もかかります。

この実力を付けてブランド力を高めていく過程の中で、
スタッフや施設が高度な資格を取得したり、優良な事業者である認証を受けるという方法があります。つまりこれらの資格制度や認証制度は、サプライヤーがお客様により良いサービスを提供したり、お客様がサプライヤーを選ぶ際の参考になるものであるべきです。結果、お客様から直接選ばれるサプライヤーが増えることにも貢献します。

ところが、政治や利権や見栄が絡むと、資格制度も認証制度も形がゆがんでしまいます・・・


・・・と、話の途中ではありますが、今回も長くなりましたので、残りは次回に持ち越したいと思います。

次回はこの続きで、中立的な第三者から良い評価を受けられる資格制度や認証制度についての説明をした後で、ようやく本題である「資格制度は誰のためか」について書いてみたいと思います。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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