いま生きている理由【映画とわたし】

『彼』を意識するようになったのは『レオン』がきっかけだ。まだ小学生だったわたしは初めて感情をゆさぶられた。ひどく号泣して、立ち直れないほどの喪失感に襲われた。それがどういう類いの感情なのか、まだ処理しきれない年齢。

とにかく夢中になった。部屋に大きなポスターを貼り、マチルダと同じ髪型にし、かぎ針編みの帽子をかぶって、ショートパンツをはいた。殺し屋になりたかったけど、残念なことに近所にレオンは住んでいなかった。

夏休みの課題では、『レオン』がどれだけ素晴らしいかという一冊の本みたいなのまで作った。大人になった今でも、生涯ベスト1位の座は間違いなく『レオン』だ。

これは、恋愛でいうところの初恋の相手に近い感情なのだと思う。

それ以来、『彼』にどっぷりハマった。家庭環境のよくないわたしにとって、父であり、時には母であり、いろんな事を教えてくれた。兄弟のいないわたしにとって、孤独を忘れさせてくれる存在でもあった。

それから『トレインスポッティング』を見たときは、絶対に薬物なんかやるもんかと強い意志をくれた。「だめ!絶対!」という形だけの力強い言葉なんかよりも「今すぐトレインスポッティングを見ろ!」というスローガンのほうが、よっぽど効果があると思う。(あの映画は、駆け抜けるスピード感まんさいのドラッグ爽快ムービーなところが魅力だから、映画としてはドラッグやってるあの感じが最高なわけなんだけど)

そんな『彼』だけは、熱しやすく冷めやすいわたしを飽きさせない。いつもどんな時も冒険させてくれるし、ドキドキさせてくれる。『バスキア』を見た時は、部屋中にへんてこな創作物を作るインスピレーションをくれた。『プリティ・ウーマン』を見たときは、売春婦になれば色気たっぷりのリチャードギアに出会えるアメリカンドリームを見させてくれた。『スパイダーマン』を見たあとは、蜘蛛の巣が手から出ないか何度も確かめた。

人生にとって大切なことも教えてくれた。『KIDS』を見た時は、自分のカラダを大事にしようと思った。『レオン』につづく、わたしの名作『ゴッドファーザー』では、女である自分の知らない男の世界に憧れを抱いた。『戦場のピアニスト』を見た時は、戦争のおろかさと、人を国という背景で見るのではなく、その人の心を見ることを教わった。『ライフ・イズ・ビューティフル』を見た時は、どんな困難もユーモアで乗り越えられることを学んだ。

もしも『彼』に出会えてなかったら、わたしは今この世界に生き残っていたか定かじゃない。

一生をかけて『彼』に恩返しがしたい。

ありがとう『映画』

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