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Mxxx. ミドリムシのパズル

 この記事は、僕が収集した文献から、ミドリムシを動物とするか植物とするかの議論(=ミドリムシのパズル)に言及している部分や、ミドリムシの分類について何らかの結論を出している事例(=ミドリムシの分類事例)を抜き出して集積する記事です。本からの学びをまとめる記事と異なり、新しく図鑑や論文を読むたびに、この記事に事例を追加していきます。

ミドリムシのパズル

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ミドリムシの分類事例

 以下小見出しは、各文献の①ミドリムシの分類の分類、②発行年、③タイトル、が示されるようにしてあります。①の凡例は以下の通りです。
【動物】:ミドリムシを動物として分類している
【植物】:ミドリムシを植物として分類している
【両有】:ミドリムシを動物でも植物でもあるとしている
【両無】:ミドリムシを動物でも植物でもないとしている
【其他】:ミドリムシを上記以外の概念で扱っている
【保留】:ミドリムシの分類について触れた上で結論を保留している

【動物】1947年 日本動物圖鑑

内田淸之助・著者代表 改訂増補『日本動物圖鑑』(1947年 北隆館)

 動物図鑑である本書には原生動物の部がある。その中でも「有毛蟲綱 Ciliophora」「エウグレナ目 Euglenoidina」「ゆうぐれむし科 Euglenidae」に含まれるものとしてEuglena属が3種収載されている。面白いことに、「ミドリムシ」の和名は見られず、代わりに「ゆうぐれむし(Euglena oxyuris)」「みどりゆうぐれむし(Euglena viridis)」「はりがたゆうぐれむし(Euglena acus)」という和名が載っている。これらは川村多實二 氏による記載である模様。

 動物の類縁関係や進化についての記述もあり、葉緑体をもつ鞭毛虫(≒ミドリムシ)への言及が見られる。

 最初地球上ニ現ハレタ動物ハ、多分單細胞ノモノデアツタラウト云フ事ハ誰モ考ヘル。原生動物ノ中デ纎毛虫類ハ體制ガ最モ複雜ダシ、胞子蟲類ハ寄生生活ノタメニ變化シタト思ハレル。鞭毛蟲類ノ中ニハ、葉綠體ヲ持ツテ、植物ノ様ナ生理ノモノガ多數アルカラ、此方ガ仮足蟲類ヨリモ、更ニ原始的ナモノダラウ。

出典:内田淸之助・著者代表『改訂増補 日本動物圖鑑』(1947年 北隆館)

植物のような生理的特徴をもつことを理由に、鞭毛虫を「原始的なもの」としている。おそらく、動物/植物の区別が不明瞭なものほど原始的で未熟であり、そこから動物性・植物性が際立って発達したものが新しく高等な生物であるという認識が持たれていたのではないかと思われる。

【動物】1964年 日本淡水プランクトン図鑑

水野壽彦・著『日本淡水プランクトン図鑑』(1964年 保育社)
対応note記事

 分類学ではミドリムシは動物にも植物にも所属する、と付言しつつ、プランクトンの図鑑である本書においては、ミドリムシを動物プランクトンとして扱うとの記述がある。

分類学的に大別すると、動物プランクトン Zooplankton と植物プランクトン Phytoplankton に分けることができる。前者には、原生動物、節足動物特に橈脚類と鰓脚類、輪形動物を主とし、後者には、藍藻、珪藻、緑藻を主として含んでいる。しかし、ミドリムシ Euglena、マミズツノヒゲムシ(ツノモ)Ceratium などは、鞭毛と葉緑素とを両方もっているので、分類学では、動物の部にも植物の部にも所属している。この書では、動物プランクトンとして取扱った。

出典:水野壽彦・著『日本淡水プランクトン図鑑』(1964年 保育社)

【動物】1967年 プランクトン分類学

小久保清治・著『プランクトン分類学』改訂五版・増訂版(1967年 恒星社厚生閣)

 プランクトンにおいて、動物・植物の境界線の引き方が一つに定まっていない含みの記述もあるが、本書においてミドリムシは原生動物に分類されている。

また種類及び數量の關係は兩者に於て如何と云ふに、之は場所により時期により、また動植物間の境界線のひき様によつても異なるのであるが、之を概括して多くの鞭毛類を動物性と見做すならば、種類は明かに動物性「プランクトン」の方が多い。

出典:小久保清治・著『プランクトン分類学』改訂五版・増訂版(1967年 恒星社厚生閣)

【両有】1965年 生命への考察

山根銀五郎・著『生命への考察』(1965年 明玄書房)
対応note記事

 附録ページに動物界・植物界の分類体系が載っており、ミドリムシは両方に名前が載っている。ただし、動物と植物が、原生動物や藻類を介して"連続している"という考えが本文中に見られるため、独立した二つの界の両方にミドリムシが分類されるというよりは、動物界と植物界が連続的につながっており、中間的位置にミドリムシが配置されているという考えだと思われる。

動物にしても植物にしても、かけはなれた型は中間型によって連絡される場合が多い。さらにこの動物界と植物界は、動物では原生動物、植物では変形菌、バクテリア、下等藻類などが入りみだれて共通の源泉になっている。つまり単細胞体の世界を介して動植界は連続したものとして把握される。

出典:山根銀五郎・著『生命への考察』(1965年 明玄書房)


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