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M018. 【生物学・図鑑】日本淡水プランクトン図鑑

 「ミドリムシが動物か植物か考える」中で、読んだ本の内容やそこから学んだことについて書き留めるnoteの【16回目】です。

 今回は古い図鑑の内容確認。もちろん全ページ通読などはできておらず、ミドリムシに関係するところの拾い読みです。

水野壽彦・著『日本淡水プランクトン図鑑』(1964年 保育社)
(今回読んだものは1976年の11刷発行版)

まず一般的なレビュー

 単に図鑑としての内容だけでなく、淡水プランクトンの研究方法についても記載があって面白いです。プランクトンの採集方法や観察方法、培養方法、定量データのまとめ方と季節変動を合わせた考察などなど。研究者でない方でもこの図鑑の記載に則って、近所の溜め池や防火水槽、水田のプランクトンを観察し記録をつけていけば、なかなか良い仕事になりそうです。昔と違って今は手軽に写真や動画で記録を残すこともできますし、記録をきれいに整理&発信できるサービスも豊富ですから、だれでも充実したプランクトン研究が始められそうです。

プランクトンの分類とミドリムシの位置

 今回の図鑑はプランクトン図鑑。プランクトンというのは、水中や水面を漂って生活する生物を広く指す言葉みたいです。進化の系統がどうだとか、体制がどうだとかいうより、自然界でどんな生活をしているか、ということに基づいて括られた生物のグループ名なのですね。
 一応、クラゲなんかもプランクトンに含まれるようですが、たいていプランクトンと言うと水中を漂う微生物が主になると思います。ほかにエビや魚も幼生のときは、プランクトンに含まれることがあると聞きます。

 プランクトンは更に、「動物プランクトン」と「植物プランクトン」に分けられます。ミドリムシもプランクトンに含まれるわけですが、やはり「ミドリムシは動物プランクトンなのか?植物プランクトンなのか?」という疑義が生じます。

分類学的に大別すると、動物プランクトン Zooplankton と植物プランクトン Phytoplankton に分けることができる。前者には、原生動物、節足動物特に橈脚類と鰓脚類、輪形動物を主とし、後者には、藍藻、珪藻、緑藻を主として含んでいる。しかし、ミドリムシ Euglena、マミズツノヒゲムシ(ツノモ)Ceratium などは、鞭毛と葉緑素とを両方もっているので、分類学では、動物の部にも植物の部にも所属している。この書では、動物プランクトンとして取扱った。

出典:水野壽彦・著『日本淡水プランクトン図鑑』(1964年 保育社)

 「鞭毛と葉緑素とを両方もっているので」、という書きぶりだけから判断すると、ここでは「鞭毛をもっていること」(≒遊泳能力をもつこと)が動物プランクトンと呼ばれる決め手で、「葉緑素をもっていること」(≒光合成能力をもつこと)が植物プランクトンと呼ばれる決め手であるようです。

 思うに、多様な物事を分類する際、「遊泳できる」と「光合成できる」のように、対にならない特徴で複数の分類を定義すると、ほぼ必ず曖昧な存在に出くわすことになります。
 例えば「光合成できる」「光合成できない」で分類を定義すれば、曖昧な存在は稀になります。できる状態とできない状態を同時に保有する生物は、論理的に存在が難しいからです(ミドリゾウリムシなんかは、曖昧なままかもしれません…)。
 「遊泳できる」ものを動物、「光合成できる」ものを植物としてしまうから、ミドリムシのように「遊泳できるし光合成もできる」プランクトンを取りこぼしてしまいます。当然ながら「遊泳できないし光合成もできない」プランクトンも、取りこぼされています(バクテリアや酵母がこれに相当すると思いますが、なぜかこれらはそもそもプランクトンと呼ばれることが稀である気がします)。

 あるプランクトンを動物プランクトンとするか、植物プランクトンとするかについて、他にも基準として使われ得る特徴があると思います。例えば「捕食能力」とか。Wikipediaのプランクトンのページなど見ると、遊泳ではなく捕食(摂食)が、動物プランクトンの特徴とされているようです。

プランクトンは分類学的単位ではなく、生活の類型による分類である。門や綱のレベルで分類群を挙げてゆけば、恐らくほとんど全ての分類群が含まれる。プランクトンをさらに分ける方法もいくつかある。

栄養摂取の形式による分類

一般に光合成を行なうものを植物プランクトン(Phytoplankton)、摂食によるものを動物プランクトン(Zooplankton)という。しかし、渦鞭毛藻類などで、色素を持たずバクテリアなどの粒子をもっぱら摂食するものや、色素を持ち光合成を行う一方で摂餌も行うものもある。また、水中の細菌群を細菌プランクトン(Bacterioplankton)と呼ぶこともある。

出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
「プランクトン」のページ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%B3
(2022年1月24日閲覧)

この場合ミドリムシは、いまのところ捕食能力が認められませんから、動物プランクトンには分類され得ず、植物プランクトンに収まることでしょう。

 何にせよ、今回読んだ図鑑においては、ミドリムシは動物プランクトンとして取り扱われているとのこと。動物プランクトンの中でも、「原生動物」という生物群に、ミドリムシは含まれます。

原生動物の分類は、今まで多くの人々によっていろいろ行われたが、最近(1961年)プラグで万国原生動物学会が開かれ、原生動物分類の基本条項が定められた。

出典:水野壽彦・著『日本淡水プランクトン図鑑』(1964年 保育社)

 諸説入り乱れがちな生物の分類体系ですが、この記述によると1961年、原生動物の分類について、国際的な学会で整理がなされたらしいですね。その分類に基づいたミドリムシの位置は、以下の図の通りだそう。

『日本淡水プランクトン図鑑』におけるミドリムシの分類

前回の本にも原生動物の分類は載っていましたが、それとはまた異なった分類のされ方ですね。
 Euglenoidaの和訳には、「ミドリムシ」に基づいたであろう「”緑虫”目」のほかに、「美眼目」も併記されていました。これは、ミドリムシ属の学名 Euglenaが、「美しい眼」という意味を込めて名付けられた学名だからでしょう。
 似たような分類として緑色鞭毛虫目と藻鞭毛虫目というのがありますね。緑色鞭毛虫目の具体例は図鑑に載っていなかったのですが、藻鞭毛虫目は、クラミドモナスやボルボックスといった、鞭毛のある微細な緑藻の分類であるようです。

 ちなみに緑虫目の、さらに細分類を確認すると、次の通りでした。

『日本淡水プランクトン図鑑』における緑虫目の細分類

Euglenaの和名「ユーグレムシ」?

 今回の図鑑、さまざまなプランクトンについて和名もたくさん載っていたのですが、あまり聞き慣れない和名もちらほら。どうやら著者の判断で新たに付けられた和名も混ざっているらしく、もしかすると、その後定着せずこの図鑑だけでしか使われなかった和名もあるのかも?

プランクトンは、和名のあるものが少なく、大部分はまだ付けられていない。新しく付けることには賛否両論あるが、戦後、プランクトンは、高校・大学は勿論義務教育にも観察や実習に用いられる機会が多く、学名になれない学生・生徒に和名の必要性が増して来ている。従って、今までに付けられた和名は、これを用い、和名のない種類については属ぐらいまでの和名を新しく付け、小さい種類や変種には、無理に付けることを避けた。

出典:水野壽彦・著『日本淡水プランクトン図鑑』(1964年 保育社)

 ミドリムシ属についても、聞き慣れない和名が見られます。これが著者による名付けなのかは分かりませんが、面白いので引いておきます。和名の併記があったミドリムシ属の種は以下の通りです。

  • Euglena viridis EHRENBERG ホシミドリムシ(ミドリユーグレムシ)

  • Euglena oxyuris SCHMARDA オオミドリムシ(ユーグレムシ)

  • Euglena acus EHRENBERG ツムミドリムシ(ハリガタユーグレムシ)

  • Euglena proxima DANGEARD ミドリムシ

「ユーグレムシ」というのは、全然聞かない名前ですね。しかし実は現在のWikipediaにもこの名前が掲載されています。

名称としてミドリムシの代わりに「ユーグレナ」を用いる場合も多い。古くはユーグレムシの名称が使われたこともある。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
「ミドリムシ」のページ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%A0%E3%82%B7
(2022年1月25日閲覧)

Wikipediaにおいては、この「ユーグレムシ」の出典は「内田清之助(著者代表)『改訂増補 日本動物圖鑑』北隆館、1952年」だそう。興味あるので、『改訂増補 日本動物圖鑑』の入手と内容確認も試みてみます。

おわりに

 図鑑や論文を見ていると、ミドリムシのスケッチがよく出てくるんですよね。せっかくなのでいろんなスケッチのコレクションをしていきたいと思ってます。できれば発信できるコンテンツとしてまとめていきたいですが、著作権を考えると難しそうですね。何か良い手はないものか…。とりあえず個人的な収集だけ始めてみます。

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