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ニキの屈辱 おそらく2人は恋愛中だった

ニキの屈辱 著 山崎ナオコーラ

人気女性写真家・ニキと、そのアシスタントを勤める加賀美との、恋愛ストーリー。
ニキは『女だから〜』など性別を理由にチヤホヤされることを激しく嫌い、傲慢な態度で加賀美を振り回す。一方加賀美は、常にレディーファーストでプライドが低い。男と女。師匠とアシスタント。この格差で2人は大きく揺れ動く。


恋愛において、やってはいけないことは多々あるのだが、そのうちのひとつに、《与えることに執着する》を挙げたい。恋愛偏差値が歳の割に低い私なりの、ルールである。
例えば、『自分ばっかり遊びに誘ってる』『自分からラインすることが多い』『自分の方が相手よりも愛が重い』など。
なぜ、これがタブーなのかというと、《してやった》という優越感は、相手にとってはありがたいものではないから。純粋に、相手を喜ばせたくて、プレゼントをしたり、美味しいものを食べさせたりすることは別とする。
そして、なぜ私が恋愛偏差値が低いなりに、このようなタブーを提示しているかというと、実体験があるから。これに尽きる。
《してやった》という感情が相手から伝わり、重荷になった、というパターンは少ない。というか、ないに等しい。その逆である。
《してやった》恋、ばかりだった。先日、そのような恋を終えた。この件に関しては、もう少し時間が経過してからnoteに投稿したい。失恋のメリットは、完結した物語を自分のものにできることである。この物語は、私のものだ。失恋の代償ってことで、いいよね?


まず、この作品のテーマは『格差恋愛』。
(ここからネタバレ含みます)
加賀美は、《写真家 ニキ》には腰を低くし、なんでも従うが、《恋人 ニキ》には、かっこいいところを見せたい、喜ばせたい、とサービス精神、言い方を変えれば『見栄』を張っている様子が伺える。車道側を進んで歩くなどのナチュラルなレディーファーストはそつなくこなすが、自分のアパートにニキを招き入れた際、本棚からいい本を選んでニキを唸らせたい、という野望が湧く。
一方ニキは、《アシスタント 加賀美》には傲慢に振る舞い、荒い口調で指導するが、《恋人 加賀美》には、不器用に、しかし真っ直ぐ、愛を伝える。『かっこいい》と純粋な言葉で加賀美を褒め、『かわいいって言って』と甘えた態度も見せる。仕事しているときとは180度違う甘えっぷり。自身の男性経験が少なく、初めて加賀美とセックスをした際にも、『上手くできなかった』『失敗を取り返したい』と自信がない様子である。ニキは加賀美に追いつきたかった、いい彼女になりたかったのではないだろうか?

『男と女も、上司も部下も、恋愛においては、関係ないじゃん』とツッコみたくが、加賀美は、格差があってこそ生まれた恋だ、とわかっているのだ。

対等に出会って、対等に終わる関係だったら、この恋は生まれなかっただろう。
フラットな間柄に対する憧れが強いからこそ、関係が上下に揺れるところに、どきどきを強く感じてしまうのだ。

加賀美は、ニキに対し、敬語とタメ口が入れ混じっているのだが、読み手としてもその行き来はちょっとドキドキする。後輩が先輩に対してたまに使うタメ口にギャップ萌えするのに似ているのだろうか。(経験ないため完全にドラマからのインスパイアです。悲しいことに)
この《格差》こそテーマであり、引き金であるのだが、この《格差》があってこそ生まれた恋なのだから、皮肉なものだ。

2人の格差と本音。仕事と恋愛では、2人の立場は大きく変わる。

本作品のP147で、2人は最後のセックスをするのだが、そのシーンで、2人は本心を互いに打ち明ける。
(上の表を参照してほしい)
『してあげた』『私の方が頑張ってた』、、、互いに、恋を大切にしすぎたが故、努力のベクトルを誤り、相手を不快にさせてしまう。
内心、そう思っていても、相手に伝えるものではない。
必要ないのだ。人間関係を築くことに関して。
格差を感じたため、このような本音が漏れたのだが、格差がないと2人は恋愛を始めることはなかった。

2人は、しっかり恋愛していた。
しっかり、という言い方はアバウトだった。
心から、愛し合っていたのだ。会話、スキンシップで伝わる。
いちごを食べさせ合い、ニキが加賀美の指をわざと甘噛みしたり、綺麗な夕日を一緒に眺めたり。甘すぎるやりとりに、こちらが恥ずかしくなる。しかし、著者のセンスが素晴らしく、甘ーいシーンだけでなく、風景の描写、仕事への熱意、恋の終わりのリアルさ、切なさが真っ直ぐに表現されているため、心惹かれたのだ、この作品に。

『私ばっかり』と思うことがあったら、一度冷静になり、相手を純粋に愛している事実と、向き合いたい。
せっかく恋愛するなら、与えることに執着しすぎず、包み込むように、相手を想いたい。

次恋愛するなら、そんな恋がしたい。
いつになることやら。春なのにね。

(本作品についてまだまだ書きたいことがあるため、続きます。)

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