表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬 《明日も、まだ行ったことがない所に行ける》
オードリー若林先生の著書。
先生、あなたは天才です。
あまりにも素敵な作品、語らせてください。
皆さんは、若林正恭という人にどんなイメージを持ちますか?
M-1直後にブレイクし、最初は『春日の隣の人』という薄いイメージしかなかった。
次第に、女性が苦手で、人見知りで、内気な人なのだと知った。
しかし、実は大喜利が得意で、ひな壇でも、ポッと面白いことが言えて、司会もそつなくこなす、器用な一面が露わになっていき、春日に埋もれることなく、『春日の隣の人』ではなく『若林』としてしっかりキャラを確立していた。
そして、いつからかアメトークで、女性苦手芸人的な企画で、雨上がり決死隊の隣で、四千頭身の後藤くんや宮下草薙の草薙くんやらに、女性苦手を克服した先輩としてアドバイスをする側に回っていた。そんで、気づいたら結婚していた。そんでもって、今や前髪センターパーツのイケ男になってしまった。
ブレイク直後を知っている身としては、この垢抜け様は寂しいが、今や若林がテレビに出てたらとりあえず安定感ある、といった貫禄がかっこよく思う。というか、かっこいいよね、普通に。顔も。わかってくれる人、いるはず。
若林は自他共に認めるインドア人間であるにも関わらず、長期休暇を利用して、キューバへひとり旅へと向かう。旅立つ動機を、『アメリカと国交が回復して、今のようなキューバが見られるのも数年だから』と旅行代理店のスタッフに答えていたが、本当の動機が、読み進めていくうちに明らかになる。
※ここからネタバレ含みます
まず本作品、旅の動機にとどまらず、自分を見つめ直す旅のレポートとしても読み応えがある。
若林のすごいところは、超売れっ子で多忙であるにも関わらず、家庭教師を雇って、政治経済や日本史を学んでいる点。
学生時代は怠けていたそうだが、自ら勉強に励む姿勢こそが、バラエティでの活躍やいつまで経っても色褪せない、軽快なやり取りの漫才へと繋がっているのだろう。
若林の著書で、こちらが政治の勉強になった。
一般教養なのかもしれないが、この世の中には〇〇主義というものがたくさんあって、それらの意味合いを理解していない自分を恥じる。
ただの旅エッセイではない。今の日本人が読むべき重要事項が詰まっている。
日本は《新自由主義》だという。
待って、よくわかんないなこれ。
新自由主義は、メリットとデメリットがあり、
●メリット
市場の制限緩和、経済活性化
自由競争→より安く質の良いサービスの提供
国の仕事削減→税金安く
公務員削減 例 国鉄→JRに民営化
●デメリット
ついていけない人→貧困
実力主義→格差
社会保障が少ない
デフレリスク
、、、などがあるそう。
若林先生は、今の日本を、簡潔にまとめている。
スペック、格差、富裕層、勝ち組、負け組、競争、、、。
そのようなワードに押しつぶされそうになって生きてきた者は、若林だけではない。私もその1人で(自分に甘いためそこまでハードな社会を乗り越えたわけではないが)他にもたくさんいるのではないだろうか。
若林は20代の頃、エアコンなしのアパート住まいをしており、
と語っている。
私なりに置き換えると、
自分に彼氏がいないことが辛いのではなくて、周りの友人に彼氏がいることが辛かった。
といったところだろうか。
、、、余計虚しくなった。
1人の時間は大好きだし、充実した時間を過ごしているのに、彼氏の有無で人生の幸せを測るのはナンセンスだ。
違う。自分が、そう思っているだけ。
私も、恋愛において(いや社会においてもそうだけど。でも競争している意識はないけど)新自由主義に押し潰されているのだ。
一方、キューバは社会主義。
みんな平等、競争がない国。
アメリカとの国交が回復したため(キューバの雪融け)変化が見られる、という意見もある。
若林は、今のうちに、陽気で、自由で、競争のないキューバの世界を自分の目で確かめたいと考えた。
旅の動機からしっかりしているのだが、旅が始まってからも、もちろん面白い。
日本では起こり得ない体験や、見ることのできない風景。インドア人間若林も、心の底からキューバを楽しんでいる様子にこちらも引き込まれる。
旅の醍醐味って、これなんじゃないかな。
私は、旅行にお金を費やすくらいなら、服に使いたい、という、完全なるモノ消費推奨派である。
そもそも、旅行って準備は楽しいけど、慣れない環境って疲れるし、とにかくお金かかるし、どの電車乗ろう、電車まであと何分、、というタイムスケジュールがちょっと面倒に思うタイプである。
しかし、若林のこのひと言で、旅というものが、いかに素晴らしいかを感じることができる。
毎日家と職場の往復、味気のない毎日、、、でも、旅は何もかも新鮮で、食べるにしても、歩くにしても、初めてのことばかりで刺激がある。
旅の後半で、若林の、本当の旅の動機が明らかになる。
若林の父は、病気で亡くなっている。
その父の葬儀が終わり、落ち着いた頃に、若林の母から、父がキューバに行きたがっていた話を聞かされる。
若林は、キューバ旅行を満喫している傍ら、父と会話をしていた。忘れることなど、なかった。
父のおかげで、若林は新たな世界を知ることになる。
そして若林は、競争がいやだ!キューバに留まる!と決意するわけでもなく、東京へと帰っていく。
キューバも、日本も、血を通わせた人たちが生活している。
父が亡くなった場所で、これからも生活していく決心は、ブレイク当初のなよなよした若林のイメージを一切感じなかった。いつの間に、こんな強い人になったんだな。テレビ越しでしか、会ったことないけど。
新自由主義と社会主義。
格差と平等。
競争と分配。
どちらも自ら体感した若林は、競争社会へと戻っていった。
それは、諦めではなく、東京という街に色を与えるという任務を果たすため。
日本の凝り固まった考え方、価値観に押しつぶされないため。
父と過ごした街が、特別であるから。
旅行を通じて、人の温もりを感じた、というのは、旅行記のあるあるな気がするが、若林は、日本の経済や歴史を学び、自らの苦い経験を思い出し、そして父との別れを経て、キューバの温もりを感じたのだ。
その一方で、日本のおもてなし精神や、勤勉さ(街が綺麗、料理のおいしさ、繊細さなど)をも再確認した若林という男、私はますます好きになった。
なんで結婚しちゃったの?もう遅いけど。
数年前、金スマで、オードリー特集をやっており、春日との出会いや、若林の奥様との馴れ初め、父との別れをある程度知っていたため、本書をより深く味わうことができた。
私も旅したい!服もたくさん欲しいけど、生涯忘れられない旅というものを経験したい!
そう思わせてくれた若林先生、あなたに感謝したいです。
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