「終わらない歌」に励まされ続けて

人生の喜怒哀楽に欠かせないものはたくさんあるけれど、間違いなく切ってもきれない関係を築いているのは歌だと個人的には思っている。時には「人生を支えてくれた歌」というくらい、大きな存在になる歌を持つ場合もあるのだが、私にとって一番大きな存在をもつ歌と言えば、ブルーハーツの代表曲の一つ、「終わらない歌」である。

この歌は、幼い時から知ってはいたけど、その頃はただ単にメロディーがいいな、とか、このグループ自体を割と珍しいものを見る目で見ていただけだった。歌詞の素晴らしさも、あの頭を振りまくるパフォーマンスのすごさ(主に体力的な)を小さな私は理解することもできるはずもなく、ただただ聞き流していた日々。

そんな私に転機が訪れたのは、大学卒業後である。当時、就活に「失敗」し、卒業後はアルバイトをして過ごしていたのだが、同じタイミングで卒業した友達との差にひたすら劣等感を抱き、何かをしたいのだけど何をしたら良いのかわからなくて、毎日「辛い」という感情と向き合っていた日々だった。

それまでは、勉強もスポーツもできたし友達もそこそこいたし、自分が目指すものにはなれる、と思って過ごしていた。でも、就活では途端に自分の強みって本当に強みなのか、本当にやりたいことってなに?という質問の答えをうまく用意できず、面接対策本などにある模範解答を答えるだけだったので、内定をもらうことはできなかった。自分がまさかこんな目にあうとは思っていなかったし、とにかく周りにそんなことが言えなくて、適当に大学院に行く、ちょっと自分のやりたいことをやる、という苦しい言い訳をしてはいたけど、そんな嘘をつく自分も恥ずかしくなって、交友も希薄になっていった。新入社員研修や同期との飲み会の写真が上がるのを、見なきゃいいのに見ないと余計世間から外されるような感じがして、SNSを数分単位でチェックしては、ひたすら自分の状況と比べて絶望するばかりだった。もがくにも気力がないし、一向に気分が上がらない日々が続き、おかしいなと思ったら「うつ病」の診断をもらった。診断をもらった日は、この先どうしたらいいのかと頭の中が真っ白な状態で銀座の街をふらふらと歩いていたのを覚えている。あの時期は、私の人生の中では、後にも先にもこれ以上ない「どん底」の時期だったし、薬をもらっても体が重くなるばかりで、「治らないんじゃないか」と不安な日々からは抜け出せずにいた。

そんな時にひたすら聞いていたのが、ブルーハーツの「終わらない歌」だった。どういう経緯で聞き出したのかは覚えてないけど、おそらく薬には頼れないので、なにか別のものを、と考えて音楽に頼り、なんとなくいろんな曲を聞く中でこの歌に再び出会ったのだと思う。普段はメロディーが気に入って、「この歌すき!」となるタイプの私だが、この曲に関しては歌詞に衝撃を受けた。

「世の中に冷たくされて、一人ぼっちで泣いた夜 もうダメだと思うことは、今まで何度でもあった」

「終わらない歌を歌おう 一人ぼっちで泣いた夜 終わらない歌を歌おう XXがい扱いされた日々」

歌詞には「クズ」などの言葉が入っているので、一見すると乱暴だ。でも、その中には「明日には笑えるように」などというフレーズが示すように優しさと寄り添いがちゃんとあって、自分のことがまさに「クズ」にしか思えなかった自分にとっては、まさに「私の歌だ」と感じざるを得なかった。うつ病のことは親にも言えず、他に誰にも自分の気持ちをさらけ出すことができなかった私は、ベッドにうずくまって、頭ではこの歌のことしか考えられないようにヘッドフォンを耳に当てては大きめのボリュームで再生し、救いを求めるように眠りに付いていた。

何かアドバイスをしてくれるわけでもないのだけど、自分に近い感情をこんなに一生懸命歌ってくれる人がいるとわかると、味方がいるように感じられたし、聴きながら寝入った翌朝にはパッと開き直る感覚を持ったことを覚えている。この歌に出会ってから心の持ち方は変わって、それまでなかった「もう少し頑張ってみようかな」という感情が少しづつ湧いてきたので、これはまさに歌のパワーと言っても過言ではない。

失恋ソングにはあまりピンと来なかったタイプだけど、とにかくどうしようもなく辛くて、「人生の終わりだ」としか思えない日々の救いとなり、私の人生を終わりにしなかったのは、やっぱりこの歌があったからだったのだと思う。

こういう話は、周りにはあまりしたことがなくて、というか話す機会もそんなにはないのだろうけど、たまたま読んでいたエッセイで歌の話をしていて、このことを思い出した。

いろいろと辛いことや悩みもあるけれど、「将来こうしたい」「こういう風に生きたい」という希望を持たせてくれて、少なくとも「どん底」にいた時には想像もできないくらい笑える日々を送っているので、この歌の素晴らしさを記したいと思った。

ありがとう、ブルーハーツ!


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