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#1 - 1各国のエネルギー安全保障どう?オーストラリア🇦🇺編

エネルギー安全保障とは(定義)

Internationl Energy Agency (IEA) によると、エネルギー安全保障とはエネルギー資源を合理的な価格で継続的に入手するための保障。エネルギー安全保障は考慮する期間によって重点が異なってくる。長期的な安全保障は将来の安定的なエネルギー供給に向けての対策であり、再生可能エネルギー設備への投資は最たる例である。一方、短期的な安全保障は突然の需要と供給のアンバランスに早急に対応ができるかという点に重きが置かれる。

オーストラリアは、40年以上にわたって重大な燃料供給不足を経験していませんでしたが、気候危機対策に向けた脱炭素やウクライナ情勢によって、エネルギー安全保障の議論が過熱しています。
歴史的に、オーストラリアにおけるエネルギー安全保障は純粋に石油供給に関するものが主なトピックでした。前回の記事にもある通り石炭やガスにおいては世界有数の輸出国ですが、現在液体燃料の約90%を輸入しています。

▼課題

①石油の輸入依存、および石油の備蓄量が少ない

  • 主に移動手段やインフラに使われる石油を輸入に頼るということは、非常に危険な状態であることを訴えるニュースを見ることが多く、そのほかの自給率が良いと議論がそこに集中することは合点がいきます。

  • 主にマレーシア、シンガポール、韓国、中国から輸入をしている。IEAのガイドラインでオーストラリアに求められている備蓄量を、コロナ禍での需要増や昨今の情勢によって下回る状況に陥っているという報道もあり。

②サイバーセキュリティ問題

  • エネルギー安全保障とセットで登場する言葉に、サイバーセキュリティがあります。西洋主要国の間では、エネルギーや水供給といったインフラシステムへのサイバー攻撃が確認されています。2021年にアメリカ石油パイプラインで起きた攻撃に加え、インフラへの攻撃は件数が増えている傾向。オーストラリア政府Department of Industry, Science, Energy and ResourcesのHPでも、エネルギー安全保障の1番に出てくる項目は、Australian Energy Sector Cyber Security Frameworkです。

③エネルギー安全保障の管理が、市場に委ねられている (最重要課題)

  • 他の国々と異なり、オーストラリアはエネルギー供給のほとんどを民間企業が担っています。経済的な視点でみれば、エネルギー資源を有効的に活用するという点で市場に委ねることは合理的ですし、エネルギー産業で国が豊かになってきました。しかし、市場に問題が発生したときに、政府ができることが限られている点が問題だと指摘されています。

  • 市場にエネルギー産業が委ねられている結果、2022年2月末からのウクライナ紛争に伴う石炭やガス燃料価格の高騰によって、民間企業は供給量を下げ(合理的な判断)、需要が冬の寒い季節も相まって非常に高まるというアンバランスによるエネルギー危機が発生。オーストラリアのエネルギー市場オペレーター(AEMO)が一時停止し、民間企業を市場に戻すための補償をAEMOが行うことで供給が再開しました。こうしたエネルギー産業の構造から、オーストラリアにとって化石燃料によるエネルギー産業が、国益ではなくなってきていることがわかります。



▼課題に対する解決策

脱炭素への加速

  • 上述の課題に対する解決策として、再生可能エネルギーを求める声が国民の中で大きくなってきています。

  • オーストラリアは、他国と同様に2050年ネットゼロ目標を掲げている。今年AEMOによって出された30年のロードマップ(2022 Integrated System Plan)の中でどのように化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を行うべきか詳しく書かれており、100年に1度の転換と称して約3200億ドルの投資を通じて、オーストラリアの石炭依存に終止符を打つというもの。市場運営者が、電力網の再生可能エネルギーへの移行と2050年までの化石燃料からの脱却のためのアップグレード作業を直ちに開始するよう呼びかけています。

  ロードマップでは、4つの異なるアプローチ(Slow change, Progressive Change, Step Change, Hydrogen Superpower)を紹介し、それぞれどれくらいのペースで2050年までに豪州の排出量をゼロにするかを分析しています。

4つのシナリオのカーボンバジェットとそれによる排出量推移

日本と同様にオーストラリアでも水素は注目されており、本ロードマップでもHydrogen Superpowerシナリオは2035年までのネットゼロを実現させる試算を示しております。しかし、技術面での飛躍的な進歩が求められる点など、現時点ではまだ未確定である技術に2050年ネットゼロを預けることには懐疑的な意見も多く、複数パターンのシナリオを描いているようです。

オーストラリア国立大学のBaldwin教授は、このAEMOのロードマップが現実的であり、エネルギー転換を確実にするために必要な民間および公的投資は「目を覆うほど」多額であるにもかかわらず、予測によると、このオプションを追求することは、化石燃料にさらに投資するよりもまだ安価である、と述べました。

②政権交代

  • エネルギー供給が民間に委ねられている構造上、政府にできることは現状限られているが、日々支払うエネルギー価格の高騰を前に、その現状に疑問を抱く声は大きくなってきています。

  • 2022年5月に実施された総選挙で、保守連合(自由党と国民党)から労働党へ9年ぶりに政権が交代。史上最悪レベルの森林火災や洪水被害を受け、環境問題に対する無策に有権者の不満が高まる中、気候変動対策やジェンダーの平等などを訴えた無所属候補や緑の党が躍進した

  • アルバニージー氏は、国を結束させ、「気候闘争を終わらせる」ことを目指すと表明。「国民は一つになり、共通の利益を見いだし、共通の目的意識に目を向けることを望んでいる。分断にうんざりし、国として結束することを望んでおり、私はそれを主導する」と述べました。


世界有数の資源国であり、エネルギー自給率が300%を超えるほどの国が、世界情勢の影響でエネルギー危機を迎えるという事態に陥ったことは、エネルギー産業がいかに経済によって支配されているか、市場によって管理されているかを痛感する出来事でした。

供給量が限られ、世界情勢の有事には武器や交渉のカードとして使われる化石燃料にインフラ源を頼ることは、資源国であっても今後喜ばしいことではないという世論が見受けられます。

政権も交代となり、脱炭素への移行がどの程度加速されていくのか、引き続きウォッチしていきたいと思います。


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