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松村早希子責任編集「しましまグラデーション ジェンダーとセクシャリティについての、個人的なおしゃべり」の感想(文学フリマで買った本の感想#1)

12人のさまざまなバックグラウンドを持った方々によるジェンダーやセクシャリティについてのエッセイや対談集。

タイトルにあるように「個人的なおしゃべり」であることがいい。

とかくジェンダー/セクシャリティをめぐっては、センシティブであるがゆえに、先鋭化した議論や理論武装された感情論のような頭がどんどん重くなってゆく文章が多く、本業でダイバーシティに関する仕事にも少し携わっているので、そうした文章に触れることは多いのですが、ちょっとトゥーマッチな気分になってしまっていました。

大学時代に、ジェンダーに関する授業の中で、性別とはグラデーションである、ということを学び、納得していたので、松村さんの書いている「性別や性自認はグラデーションになっている」という考え方に共感しました。

松村さんが年表形式で整理している「性別の意識形成過程」が特に興味深かったです。松村さんが1982年生まれで、私は1984年生まれで世代が近く、時代の雰囲気の感じがすごくよくわかる感じがしました(もちろん当方は学生時代新潟のど田舎に住んでいたので、松村さんのようなハイセンスなカルチャーには触れる機会はなかったのですが)。あと、松村さんの今の考えに至る足跡が見えると、松村さんの考えは主張というより、信念という感じがして信頼して読み進めることができました。

私は性自認については、シスジェンダー/ヘテロセクシャルですが、一方、学生時代から、いわゆる「男性社会」なるものになじめず、かといって「女性社会」なるものにもなじめず、悶々と図書館で坂口安吾を一人で読んでいるような人生でした。

大人になっても特に変わらず、ごりごりの男性社会の会社組織で働きながら、20代にはしっかりメンタル不調になって、休職したりしながらも、今も働いています。

ただ、ここ数年で組織もだいぶ変わってきていて、女性の役員・管理職はまったく珍しくなくなり、ジェンダーやセクシャリティについて不寛容な態度をとる役員や管理職が閑職に移る場面も多く、新たなリーダーたちは総じてバランス感覚があり、会社の成長と多様性の尊重を腐心しながら進めているように感じています。

ただ、アンコンシャスバイアスも含めて、多様な性自認を持つ者が心理的安全性が確保されて意欲的に働ける環境にはまだほど遠いのも実情です。

この本を読んで、私自身も学びながら、誰もが生きやすい社会に微力ながら貢献したいなと改めて感じました。

「はじめに」の最後に書かれている「ただ話したいことを話したい時に、話したい人と語り合える世の中であってほしいと願っています。」という言葉が、届く人がなるべく多い社会であってほしいと私も強く願います。

文学フリマでは、ひだりききクラブのブースで本作を購入させていただきました。

すずめ園さん、出雲にっきさんの文章もとても考えさせられるものでした。

すずめさんの文章は、社会的にマジョリティな「女らしさ」(=男性中心社会における記号としての性役割)に対する違和感に抗いながら、自分が価値を感じる「可愛い」を大切に生きていくという宣言に感じました。ジェンダーやセクシャリティの先鋭的な議論の中で見落とされがち(もしくは軽視されがち)なちょっとした違和を持つ人に寄り添う文章は、多くの同じような考えの人に勇気を与えるものだと思います。

出雲さんの文章は、「好き」という感覚をテーマに書かれています。一般的に「好き」という言葉には、恋愛的・友情的に特別な意味を持ちますが、出雲さんの「好き」は純粋な意味であって、その認識の違いに戸惑う経験が背景にあるように感じました。それぞれがそれぞれの感覚で正直にものを言いあえたら、「少しだけ、息がし易い世界になる。」という言葉は優しいだけでなく、本質を突いた言葉だと思います。

ひだりききクラブのお2人は、自由律俳句はもちろん、エッセイや小説、ラジオなど活動の幅を広げていますが、2人の感性が生み出されるものをこれからも楽しみにしたいと感じました。

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