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記録されないまま消えていったベトナムの流行り物のはなし

街の様子を注意深く観察していると、いろいろなものが流行っていることに気がつきます。
特にバイクや車周りの流行は老若男女問わず、手に取りやすいような手頃な価格のプラスチック製品であることが多く、大体1年スパンくらいで流行が移り変わるようです。

私がベトナムに住み始めた2019年ごろ、爆発的に流行っていたのはこの二つでした。
ヘルメットを被ったアヒルちゃんです。
おや?と思った人もいらっしゃるはずです。そう、こちら日本のダイソーで販売されていて、お見かけになった方もいるかと思います。ベトナムでは約4年前に大流行し、道ゆくバイクにはこのアヒルちゃんが鎮座してまして、ヘルメットの上のプロペラをくるくると回していました。
同時期にヘルメットにつけるタケコプターのようなプロペラも流行っていたので、アヒルちゃんのご主人ともども、頭上のプロペラをくるくる回しながらサイゴンの街をバイクで駆け回っていました。こちら、今は全く見かけません。

ヘルメットアヒルちゃん

同時期に流行ったのが、ポヨンポヨン顔文字人形(正式名称はわからないので、私が勝手に命名しております)でした。
タクシーやGrab(Uberのようなシェアライドサービスです)の車に乗ると、高い頻度でダッシュボードに様々な表情の絵文字人形がポヨンポヨンと揺れていました。
一つだけじゃなく複数並べている人も多く、今日は泣き顔、今日は泣き笑い、またある日は投げキッス、などと乗車するたびについつい表情をチェックするのが楽しみになっていましたが、ある時期を境にぱったりと見かけなくなってしまいました。
聞いたところによると、「この絵文字人形を載せた車は交通事故に遭う」という噂がまことしやかに流れ、みんな怖がって車から撤去したとのことでした。
あれだけ流行っていれば、事故に遭った車に顔文字人形が飾られていた確率も相当高かっただろうと思うのですが、そのような経緯で大流行が終焉しました。

ダッシュボードに飾られた顔文字人形の様子

その次に出回ったのがスマホ用の傘です。字面からすると意味がわからないと思うのですが、こちらもバイク社会のベトナムならではの製品です。
デリバリーのお仕事に従事されている方は、バイクの上にスマホホルダーを常に設置してバイク走行しているのですが、常夏でずっと厳しい陽射しが降り注ぐサイゴンでは、そのままでは画面が見づらかったり、熱暴走でバッテリーの消耗が早くなったりするので、スマホを保護する必要があります。
ある人はマスクで保護してみたり、ベトナム名物の三角帽子ノンラーで保護してみたり、はたまた手作りの段ボール屋根で保護してみたり、さまざまな工夫をしていますが、そこで流行ったのがパラソルでした。
小さな手のひらくらいの大きさのビーチパラソルで、スマホホルダーに挿せるようになっており、バイクの上でビーチサイドに寝そべるようにくつろいで見えるスマホが可愛く、見かけるたびに楽しかったのですが、いかんせん素材が脆かったようで、1年くらいで見かけなくなってしまいました。ベトナムの紫外線量は日本の4倍とも言われており、野外に放り出されたプラスチック製品の寿命は短く、風雨に晒されれば尚のこと、パラソルの辿った運命も想像に難くありません。

スマホ用パラソル

その次、2022年ごろから流行り始めたのが猫耳ヘルメットです。前述のタケコプターもそうですが、ヘルメット周りのアクセサリーは若者を中心に特に人気があります。ヘルメットに装着するだけなので、ヘルメットを買い替えるよりも気軽に気分が変えられて流行に乗れるのもいいところなんだと思います。
自分のヘルメットの色に合わせて購入したり、色が合わない場合はパーツ屋さんでヘルメットの色に合わせて塗装もしてもらえます。余談ですが、塗装屋さんでは猫耳パーツに限らずあらゆるものをいろんな色に塗装してもらえます。便利ですね。

私が渡越した2019年には2社しかなかったデリバリーサービスが、増え出したのもこの頃です。それぞれの会社が目立つようにブランドカラーを制服やヘルメットに導入しているのですが、各社のドライバーさんが、制服ヘルメットに合わせた猫耳をつけていたのも面白かったです。ローカルのVietGoをマレーシアの会社が買収してベトナムでサービスが始まったGo Jek(緑)、Be(黄色)、韓国系企業のBaeMin(エメラルドグリーン)(こちらは今年残念ながら撤退となりました)、ベトナムのEVカー企業Vin Fastの車両を使ったSMTAXI(こちらもエメラルドグリーン)のそれぞれが色に合わせた猫耳をつけていて可愛かったです。
日本ではなかなか進まないシェアライドですが、ベトナムでは海外からの参入も多く、SM TAXIのような国内サービスも始まり、入れ替わり立ち替わりしています。こちらも人気サービスの移り変わりが激しく、移り変わる流行のように、新しいもの好きだけど、熱しやすく冷めやすいベトナムの人たちの心を掴むのに各社奮闘しています。

BaeMinのの猫耳ヘルメット

話がそれましたが、2023年現在、今バイク周りで流行してるのは羽つきのヘルメット型スマホカバーです。ころんとしててカラバリも豊富なので、みんな好みに合わせていろんな色をつけていますが、素材のプラスチックのペラっと感を見ると、きっとあのヘルメットの寿命も1年ほどだと思って見ています。

羽つきのヘルメット型スマホカバー

バイク周り以外で移り変わりが早いのはこどものおもちゃ、特にぬいぐるみです。
2019年ごろに流行していたのはQoobee agapi(キューベー)というキャラクターです。
調べたところ中国のアーティスト吕鹏(Lu Peng)の作品のようですが、そんなことは誰も知らない感じでした。とにかく街ではぬいぐるみが、SNS上ではGIFが大流行りしていて、ピカチュウに似たかわいさに惹かれ、私もぬいぐるみを買いました。
そんなある日、旅行先のシンガポールでQoobeeのぬいぐるみを見かけて手に取ったところ、オフィシャルグッズらしきタグがついていました。
心なしか縫製もきちんとしており、顔もかわいらしい…
ベトナムでは有象無象のQoobeeの中から頑張ってかわいく作画が整ったものを探し出して購入していたのですが、シンガポールで購入したものには及ばぬ感じ…それもそのはず、オフィシャル品がそもそも売っていなかったのです。

シンガポールのQoobee売り場
ベトナムのQoobee(左)とシンガポールのQoobee(右)

思えば2020年ごろに大流行していたタコのぬいぐるみもそうでした。
両面に顔が書かれていて、表情が変えられるぬいぐるみだったのですが、おそらくこちらもオフィシャルはないだろうなと薄々気がついており、調べてみたところ、もともとはアメリカの会社が作ったタコのぬいぐるみを使った動画がTikTokでバズったことから、中国で作られた安価な類似品が爆発的に流行し、そちらがベトナムにも流れてきたようでした。このタコのぬいぐるみはドイツに住んでいる友人からも近所で売られていたという話を聞いたので、このタコをきっかけに中国の生産力、そしてAliExpress等、中国企業が持つ販路の広さ、安価な類似品がオリジナルより浸透してしまうことなどさまざまなことに思いを巡らせることとなりました。

タコのぬいぐるみ

ぬいぐるみ繋がりで思い当たるのは2023年猫年の中秋です。中秋の時期にはあちこちでランタンの飾りが売られているのですが、今年初めて見かけたのがウサギの飾りでした。日本では中秋というとウサギのイメージがありますが、ここベトナムにおいては今までそのイメージはほぼありませんでした。ですが、今年になって、カゴの上にのったころんとしたフォルムのウサギのぬいぐるみのついたランタンがそこかしこで売られるようになったのです。
おそらく干支モチーフで作ったウサギの二次使用先だったのですが、まんまと大ヒットしていました。こちらはヘアクリップになったものも中秋の時期に流行し、小さい子からティーンの女の子までたくさんの人がウサギを頭にちょこんと乗せていて、とっても可愛かったです。

中秋のうさぎ

ここ数年の流行としては、クリスマス時期のトナカイカーがあります。
車に赤鼻のトナカイのルドルフを模した飾りをつけるもので、フロントのバンパー付近に赤鼻を、ルーフにツノをつけるものです。2021年ごろからちらほらと流行り始め、今やすっかり定番となりました。今年はGrabは数量限定ですが会社支給でトナカイデコレーションをバイクドライバーに配布していたようであちこちでトナカイヘルメット姿のライダーも目にしました。トナカイのカチューシャもこの時期になると身につけてショッピングモールやイベントなどにお出かけしている人たちをよく見かけました。
カチューシャ、日本人の感覚だと特定のテーマパーク内限定で装着するもの、という感覚で、テーマパークの門の外を出ても装着している人を冷笑するむきもありますが、サイゴンではどこでつけて歩いていても特に誰から何を言われるということもありません。
壮年以降の男性はあまりつけているのを見かけませんが、女性は年齢を問わず、男性も子供や若い男性はよくつけてお出かけしています。自由ですね。

トナカイカー(サンタがはみ出てる)
トナカイヘルメット姿のGrabライダー

こちらにあげた流行品はいずれも価格帯が10万ドン(600円ほど)以下で買えるようなものばかりで、お財布事情に関わらず誰でも手にすることができるものがほとんどです。
ベトナムではカフェの店員さんの時給が2〜3万ドン程度、高価なものは流行しません。
Qoobee agapiやタコのところでも触れましたが、時には本物と違った模造品が流行ることもしばしばです。日本にいる時には知的財産権を持つ方に対して支払いが生じない生産品は悪だと考えていました。しかし道端で売られているぬいぐるみ屋さんの傍で、バイクを止めて子供のおねだりするちょっとへなちょこ顔のドラえもんを買ってあげているお父さんを、タコのぬいぐるみを抱えながら歩いている、お母さんに手を引かれる子供を見ていると、何が正しいのか、何が本当の悪なのかわからなくなることが多々ありました。
安価で流通するものがあるのは、それを必要とする人がいるからでは、そしてその生産品が安価に製造できるようになった背景には、日本はじめ先進国が原価を下げるべく製造先を海外に求めたことがあるのでは…

結論の出ない話は一旦置いておいて、おすすめの流行の飲み物を。
2023年にドン!と流行った飲み物があります。それは塩コーヒーです。
ベトナム語の時にはCà phê muốiからの直訳なのでいかにもおいしくなさそうですよね。
ベトナムに遊びに来た友達に勧めるたびに渋い顔をされていました。わかります。
Cà phê muốiはベトナムブラックコーヒーの上にたっぷりと塩味がかったクリームが乗った飲み物で、味は塩キャラメルっぽい感じのデザートコーヒーです。
特に Cà Phê Muối Chú Longというブランドが人気で、アメリカでMBAを取得したマーケットコンサルタントの娘さんが、父親の作る塩コーヒーのおいしさを世に知らせたいと、ブランディング強化を図ったところ大ヒットしたのでした。
店舗数が増えたこともさることながら、塩コーヒーをきっかけに一大塩ブームが巻き起こり、街の屋台には塩コーヒーが定番化しただけでなく、塩ティーや塩サトウキビジュースなど、美味しいかどうかは謎ですが、塩メニューも増えました。
塩コーヒー、名前はちょっとキャッチーではありませんが、美味しいのでベトナムにお越しの際に見つけたらぜひチャレンジしてみてください。
ただ、塩分量は1杯6〜8gとかなり高めなので、ハマったからといって飲みすぎないようにご注意ください。

Cà Phê Muối Chú Longのおしゃれなカップ

オオシマチズ
ベトナム・ホーチミン在住。おいしいものとおもしろいものを探して、キョロキョロしながら街をあちこち探索する日々を過ごしています。

Instagram:https://www.instagram.com/milkmilkmilkcoffee

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