エイドリアンの死について。最愛の友、兄弟、師に想いを馳せる。
MIDI Creativeからアルバム『Amateur Japanese Edition』をリリースしているカナダのSSW、アイザック・ヴァレンティン（Isaac Vallentin）の連載です。現在住んでいるノバスコシア・ピクトゥーを「Nowhere（どこでもない場所）」と表現し、カナダの田舎暮らしの様子がありありと描かれています。日本のアニメや映画、デザインをこよなく愛するアイザックの目標は「日本公演」。是非、その音楽とあわせてお楽しみください！（midizine編集部）
野ウサギの時間とカメの時間を比較する方法はない。彼らとはほとんど関係のない抽象性を使用することでしかできない。野ウサギの寿命とカメの寿命は、それぞれの細胞に規定された非常に異なるリズムに従っている。共通の抽象的な時間を導入し、それからゴールに最初に到達するかどうかを見るためにレースを組織したのは《人間》だ。銀河の時間は、蝶の時間とは何の共通点もない。《人間》はそれらを観察し、それらを両方並べるための時間を発明する。しかし、この時間では、《人間》は他の動物とは異なり、世界の創造物語を語ることができる。
※midizine編集部独自の日本語訳であり、公式ではありません
修理工の待合室で半分目を覚ましたまま座っていた。この2か月の間に4度目のことだ。顧客と部品の注文を取り扱うフランシーヌは、おそらく店で唯一の清潔な手を持つ従業員として、他の仕事についても責任を持っていたが、私たちの椅子の間でペレットストーブを修理しようとしていた。私は窓際の手指消毒剤のボトルと点火用のライターを彼女に手渡した。先週の記録的な嵐の雪は、外の街灯の下で粉砕されたウィンドウガラスのように舞い、雲は太陽が昇るかどうかを決めるかのように紫色を装っていた。
電話が鳴り、私はストーブの見守り役となる。フランシーヌが数週間後には去り、新しい人が引き継ぐと言っているのを耳に挟んだ。彼女との交流は楽しく、寿命が迫った私のバンのことを少しでも忘れさせてくれていた。私は彼女に退職のことを尋ねた。すると、彼女はこれまで聞いたことのない、印象的な声で答え始めた。
彼女は癌だった。数ヶ月も病院からの連絡を待っており、その不確実性に押しつぶされそうだったのだと言う。彼女は気を紛らわせるために自宅の壁をリノベーションしていた。彼女は携帯電話でリノベーションの写真を見せてくれ、私は彼女に娘の写真を見せた。
他の客が入ってきて、従業員たちは面倒くさがり、イライラしつつも、最終的には待合室での手続き時に見せる、諦め混じりの害のない態度で、最高の演技をそれぞれ順番に披露した。
請求書を支払うとき、フランシーヌは私の目を見て、私が顧客であることを楽しんだと言った。私も彼女の目を見て、きっと大丈夫だと言ったが、どちらも確信は持てなかった。それから私は車を走らせ、涙が制御不能に溢れてきた。子供たちはどこでも大泣きできるが、大人は車の中でしかできない。
それが最も悲しいひと時になるはずだった。私はフランシーヌとクロッカスや水仙が私たちの裏庭で芽を出していることについて話そうとしていた。誕生と死の相互関係を象徴する、春の希望の弧を描こうとしていた。それから電話があり、エイドリアンが亡くなったと知った。
エイドリアンについては、前回の記事でも言及している。私の最愛の友、兄弟、師であったエイドリアンが、その朝、セミトラックに衝突して亡くなったのだ。
再び車の中にいた私は、傷ついた動物のように遠吠えし、彼に何が起こったのかと問いかけた。
花は依然として咲いている。海の氷のほとんどが溶けた。私は川で泳いだ。空は午後8時まで明るい。間違いなく春だ。命は再び誕生し、かつて死宣告されたことを忘れるだろう。
エイドリアンは森を愛した。100年前のその地域がどのような姿だったか、どこが伐採され、どこが畑だったか、どの木が脆弱で、どの木が次の100年で芽吹くチャンスを待っているかを教えてくれた。
彼がこういったことを話しているとき、運が良いと、私たちは誕生と死と呼ぶ、統一されたサイクルが目の前で展開していくのを見ることができた。
倒れた木が新たな成長の土壌となる、という比喩も可能だが、私が言いたいのは、私が生きている限り、エイドリアンの一部は、私の目で見て、私の手で働き、私の心で考え、私の心で愛すだろう。そのことによって、この宇宙は慈悲深い。
それにしても、最近解雇されたので、私は社会福祉制度の慈悲を知ることにもなった。デザイナー、ライター、またはミュージシャンを探している人がいれば、連絡して欲しい。
さもなければ、お金が尽きるまで、私は庭いじりをしたり、ハンマーを振ることができると人々を説得し続けるつもりである。
私たちの娘はおよそ1歳3ヶ月だ。走り回り、ソファに登り、出鱈目ではあるものの完全に理解できる文で話す。彼女は一日に何百回も「これは何？」と尋ねる。
これは一見単純な質問である。しかし、繰り返されることで、それは公案（※1）となり、理解への道となる。「これは何か？」娘にとってはあらゆる物事が常に異なり、新しい。「初心者の心には多くの可能性があるが、専門家の心には少ない。」
※1 禅宗における修行方法の一つで、禅の教えや悟りを体得するための問題や課題
かつて私は鈴木（大拙）老師に会う夢を見た。私たちは地下鉄駅のアルコーブ（※2）にある廃れたレストランにいた。私は彼にそこで何をしているのか尋ね、彼がいかに小さいかに気づいた。彼は微笑み、私たちはお辞儀を交わし、私は目を覚ました。
※2 部屋の一角にある、壁に囲まれたくぼみや窪み
「目覚ましの鐘を聞いたら、すぐにベッドから飛び起きるべきだ。そこに横たわってはいけない。そうでなければ、いつも突然やってくる死にどうやって立ち向かえるだろうか？」
毎朝、私たち全員がベッドから飛び起きることができますように。私たちが行うすべてのことにおいて、私たちの愛の深さを表現できますように。この春の美しさに気づくことができますように。
さようならエイドリアン。愛している。
Isaac Valentin（アイザック・ヴァレンティン）
アイザック・ヴァレンティンは、カナダのミュージシャン／作家／メディアアーティスト。フォークやロック、ジャズ、ソウル、カントリー、エレクトロニック・ミュージックを自由に行き来する音楽性で、2015年から現在まで9枚のアルバムをリリースしている。カナダ、ヨーロッパ、アジアで大規模なツアーを行い、洞察に満ちた歌詞、特異なギター演奏、そしてバリトンボイスで聴衆を魅了。
また、何百ものアーティストのアルバムカバーやミュージックビデオの制作もしており、そのビジュアル作品は世界中で展示され、The Guardian、The New York Times、Viceで紹介。現在はパートナーであるファイバーアーティスト、アリソン・ルソーと1歳の娘と共にノバスコシア州ピクトーに住んでいる。最新アルバム『Juma』（2022年）のリリースに合わせて、長編映画が公開された他、詞集も出版されている。
official website: http://www.isaacvallentin.com/
bandcamp: https://isaacvallentin.bandcamp.com/album/juma
Instagram: http://www.instagram.com/isaacvallentin
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