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雑記 金曜日の夜を終わらせられない

夏の終わりに出来心で吹きかけた香水が、たまにまだ香る9月25日。最近秋に片足突っ込んだなと思っていたけれど、窓を開けたら完全に秋になっていた。誰よりもいちばん、季節がはやい。誰よりもいちばん、私が遅い。

ちょっと会いたくなっちゃって。
そんなこと言えるタチだったら良かったのになと残念に思う。きっと生まれた時から私の中にはそんな機能は搭載されていなくて、会いたいなんて言葉、死ぬまで言えないと思う。

だから、一緒に暮らせたらなと思う。会いたいと言えなくても、理由なく一緒にいられたらどんなに良いだろうと思う。一緒に暮らして良いこともあるだろうし、一人暮らしの方が楽だったなって思うこともあるだろう。
でも、今日は早く帰れたからビール買って一緒に飲もうとか、週末休みがかぶるからどっかに行こうとか、米が切れそうだからスーパーに行こうよとか、そういう生活があればいいのにって思う。どこかにそんな幸福と呼べそうな生活がふわふわ浮かんでいればいいのに。
ああ、他人任せの幸福だ。多くの人が「幸せ」と呼ぶからと言って、私が「幸せ」なのかは分からないというのに。私は他人任せの幸福を望んでしまっている。

ちょっと会いたくなっちゃって、の一言すら言えない私だから、そんな言葉が必要ないくらい一緒にいたいんだよって思うのは秋だからでしょうか。秋の夜はひとりでいてもふたりでいても寂しいんだって分かっている。誰と居ても寂しいのならひとりでいればいいのだ。人間は生まれ持った寂しさと一緒に生きていく生き物なんだよね。

◇◇

運命なんて言葉をつかえば聞こえは良いかもしれないけれど、そんな大層なものじゃなくていいから、誰かと同じ方向を向いて歩きたい。

例えば、ふらっと寄った書店の一角で巡り会いたい。
例えば、銭湯の自販機の前でコーヒー牛乳片手にばったり出会いたい。
例えば、駅に向かう途中ですれ違いたい。

そのくらいの出会い方で、そのくらいの意味のなさで、何も背負わず、運命とか責任とかそういうの一切無しで、ただ同じ方向に歩くだけの人。嫉妬や羨望や、ざらっとした感情、色のついた感情のない関係がいい。あなたという人間が好きだと言われたい。あなたという人間が好きだと言いたい。世界にはこんなにたくさんの人がいるのに、一緒に夜を越えるのに最適な人が見つからない。誰かに最適な自分になれない。持て余しているなと思う。だからネットに無意味な文を書いて遊ぶしかない。

金曜日の夜だから、なにか楽しいことをしよう。タイムラインに流れてくるのはありきたりな情報ばかりでつまらなくって、ミュートしようかな、もうフォロー外しちゃってもいいか、なんて考えながらもとりあえず全部流し見る。悩むだけでは解決しなくて、「前向きにいこう」ってだけじゃなんの参考にもならない。他人が気合いでコンプレックスを乗り越えた話を聞いたところで私のコンプレックスは無くならない。きちんとHOW TOを示してくれるメイクの上手なYouTuberの動画を観る方がよっぽどためになる。

さっき送ったメールの返信はこない。生活リズムが違い過ぎてどんどんカラカラに枯れていく花。伸びすぎた豆苗。窓から見える月。ごみを集めてちらちらと光る海。自分の考える正義のために生きている人はすごいな。その人にとっての正義を貫くパワーの源は何なのだろう。

悲しい悲しいとこぼしている君がソフトクリームを食べている。悲しくても君はソフトクリームを食べられる力が残っているからまだ大丈夫だよ、と、そっと言ってあげたい。ソフトクリームまるごと一個食べるとお腹を壊してしまう私に比べたら、まだ大丈夫。ソフトクリームと絶望なんて仲良くなれっこないんだから、ソフトクリームを食べている君はきっと幸せになるよ。そんな根拠のない励ましの言葉も作りものだろうか。

◇◇

二日連続でストッキングが破れた。伝線して空いた穴に指を突っ込んで思いっきり引き裂いてみた。どうせ捨てるし。どうせ新しいの買うし。肌の色に合うストッキングをなかなか見つけることができない。これだと思って買ったものが、実際には濃すぎたり、薄すぎたり。破れたストッキングを丸めて、ありがと、と言いながらゴミ箱に捨てた。あっけないな。ストッキングは捨てられて、土曜日がくる。誰かの望んだ土曜日。私の望んでいない土曜日。好きな曜日なんてない。平等に、全部ふつう。好きでも嫌いでもない。それなのに、まだ、金曜日の夜を終わらせられない。9月の25日間はどこに消えたの。やっぱり誰よりも季節がいちばんはやくて、いちばん私が遅い。爪が割れて痛い。飽きのこない人生ってどんな人生なのだろう。







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