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君にいいことがあるように


君にいいことがあるように  今日は赤いストローさしてあげる


最近、スタバのトールサイズを飲みきるのがギリギリになってきた。ホットにすれば良かったかなあ、と思いながら、緑色のストローでぐるぐるかき回してみる。頭の中ではaikoの「ストロー」が延々と流れている。「赤いストロー」と「君のしあわせ」の関係性についてぼんやり考える。

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17歳のちょうど今の季節、部屋にこもって夜な夜なマフラーを編んでいた。当時の恋人へのクリスマスプレゼントだった。何を思って編んでいたのかはもう思い出せない。でも、積極的に編んでいた訳ではなかった。友達も彼氏にマフラー編んでるから、私の彼氏だけ手作りじゃないのは何だか違うかな、という最低な理由だった気がする。更に最低なことに、彼とどうやって付き合い始めたのかも覚えていないし、付き合っている中で私が彼に「好きだ」と伝えた記憶が全くない。彼は友達の彼氏の親友で、だから強く断りきれなかったんだ。いい人だったし。

いい人過ぎる彼氏。いい人過ぎて、強いこと何も言えなくて、ワガママなんてもってのほかで、傷付けたくない一心で上手くいかなかった。


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同性を泣かせた記憶というのはないけれど、異性を泣かせた記憶はいくつかある。修学旅行から帰ってきた夜、メールで別れようと言った私のこと、ひどい奴だと思っただろうね。ディズニーランドで買った二つ合わせてハートになるキーホルダー、こんなの買ったら別れにくくなるなって性格の悪いこと思いながらも、仲の良い友達カップルに押されて買ってしまった。君にもらったマフラーを巻いて楽しそうに友達とはしゃぐ私の写真が今でも実家にあるよ。生まれて初めて編んだマフラーも、一緒に自転車おして帰ったことも、ガラケーの個別の着うたをflumpoolの「君に届け」にしていたことも、嘘じゃなかった。偽物じゃなかった。好きだった。友達として、大好きだった。でも、恋人になるには、私は真面目すぎた。人として好きなところ何個挙げても、恋愛じゃないと一度思えば恋愛にできなかった。

散々な言われようだった。君の友達からはきっと私の評判はめちゃくちゃ悪かったんじゃないかな。直接苦言を吐かれたこともある。「あいつをちゃんと愛してやって」「あいつで遊ばないで」みたいなことを言われたっけ。誤解されてるなあ~って思いながら訂正もしなかった。遊ばれていたのはどっちだったんだろう。私に好きだって言いながら、幸せにするなんて言いながら、私の友達にも好きだなんて言って、私の別の友達にも手を出して色々しちゃって、どっちが遊んでいたのだろう。でもそんなこと言っても仕方なかったし、本人に直接確かめもしなかった。何も言わず、何も知らない振りをしている。今でも。君は私の中では変わらず「いい人」だ。

恋愛のゴタゴタが嫌いだった。どう振る舞っても「悪者」になってしまう恋愛が苦しかった。自分を嫌いなのは自分だけで十分だった。そのうち、恋愛をごまかすようになった。最初から「信用されないキャラ」でいればいいんだ。楽な道を選んだ。「彼氏いるの」には、「何人かいるよ(笑)」って返したし、「好きな人いるの」には「さあねー(笑)」って返事をした。本気の恋愛なんてしないぞって心に決めて、面倒な質問やコイバナには何となく合わせていた。彼氏なんていなかったのに。好きな人なんでできなかったのに。できるはずがなかったのに。


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私は「一生大事にする」とか「幸せにする」って言われるのが今でも苦手だ。本心で言ってもらえるのだとしても、心が受け付けなくなる。そう思っているならもっと誠心誠意の気持ちだけちょうだい。幸せにする、じゃなくて一緒に幸せになろうよ、一生なんて言わなくていいから、出来るだけ一緒にいようよって思う。多く見積もりすぎて、望みすぎるのがこわいのだ。

ハタチを過ぎてからは、恋人の好きな人のために浴衣を選んだり(恋人の好きな人、というワードがもう意味が分からない)、私に全然興味のない人の副流煙で死にたがったり、付き合っている人に「○○と遊ぶけど一緒に来る?」とクリスマスに先に違う女の子と予定を入れられたり、そういうアホなことを繰り返してきた。もう懲りたと思ったけれど、本当に懲りたかは分からない。過去に付き合った人に対しては、今でもごめんねって思う。あんな私と付き合って楽しかったのかなって何度も振り返っては反省した。私が「恋愛は悲しい」と思いながらしてきた恋愛は、きっと相手だって悲しかったと思うから。

あんなに色んな人と付き合ってごちゃごちゃしてきたのに「今はみんな友達」なんて言ってしまえる友達が羨ましい。こんなところでも真面目過ぎてやってらんない。私みたいな人間は、恋愛で数を打たない方が良い。

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私は多分、「一人で生きていこうと思えば生きていける」種類の人間なのだと思う。一人は、楽だ。誰かの言葉に傷つくこともないし、誰かの期待に応える必要もないし、好きだも嫌いだも何も発生しない。そういうごちゃごちゃしたことは全部なしで生きていきたい。

人間のことをどこかで信用していない。裏切られる可能性がこわい、というよりも、自分が裏切る可能性の方が強くてこわいのだ。今は好きだと思っていても、人の気持ちなんていつか変わるよ。私、いつか裏切るよ、きっと。それでも良いのね?と、念押ししたくなる。その言葉にも強くうなずいてくれる人のことを、やっぱり信用できないなあと思って苦笑いする。それだけ、確かなものを探して、探して、見つけたと思っても石橋を叩いて叩いて叩いてそろそろ壊れそうだ。


それだけ、欲しかった。確実な気持ちが欲しかった。臆病なのは私だった。

「一生」「永遠」が一番欲しかったのは、私だったのだ。


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クリスマスが近付いて来たので何か自分にもプレゼントを、と思って出掛けたけれど、心に刺さる物が無くて手ぶらで帰ってきた。そうだ、私は今、「欲しい」じゃなくて「捨てたい」んだ。物も、生活も、仕事も、捨てたいあれこれがたくさんある。増やすより減らしたい。思い出も、綺麗なものだけ残して後は忘れてしまえば良い。

この先どんなことがあっても、もう私は手編みのマフラーなんてものをつくることはないのだろう。終わってしまえば無かったことと同じだ。だから、記憶の中の君はずっとこれからも「いい人」ってことにしておくし、クリスマスの苦い思い出は笑ってnoteのネタにしてしまおう。あの頃は若くて未熟で恋愛どころじゃなかったね、そりゃ上手くいくはずなかったねって、いつか一緒に笑える日がくればそれはそれでハッピーエンドなのかもしれない。でも現実的に考えて、そんな日は来ないのは分かってる。だから、せめてみんなそれぞれ思い思いに幸せになろう。君にいいことがありますように。私は自分のストローは自分でさすことにする。自分でちゃんと、幸せになるよ。


♪aiko  ストロー






ゆっくりしていってね