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雑談 映画のワンシーンになることのない人生

黒いビニル袋は全部無かったことにしてくれるから便利だ。

のびた爪を切り揃えながら、私の家に来る度に爪切りを借りる人のことを考えた。

昨日が6日だったから、今日はきっと7日、じゃあ明日は8日。明日はプラスチックゴミの日?燃やせるゴミの日??

タラの切り身のパックをきちんと洗ってから捨てれば良かった。そのまま捨てるとゴミから異臭がするのは想像できたのに、半日後のことを想像すると嫌だな、と確かに思ったのに、しなかった。ちょっと前の自分に謝ってばかりいる、今の自分。

干してあるバスタオルをひっ掴んで身体をふく。塗る前に寒くて寝巻きを着てしまうから、保湿クリームはほとんど減らない。靴下の片方は簡単になくなる。昨日の決意も、簡単に忘れる。

おいしいコーヒーの淹れ方も結局分からないまま、いつも通りティファールで沸かしたお湯を注いでいる。料理をすると狭い部屋にすぐに匂いがこもる。料理動画をアップしているユーチューバーは、換気扇はつけていないのだろうか。換気扇の音が入るから、つけたくてもつけられないのかもしれない。

祖母が亡くなったときに最初に思い出したのは、祖母との楽しい思い出よりも、幼少期に祖母に思わず「嫌い」と言ってしまった時のこと、そしてその時に見てしまった祖母の悲しそうな顔だった。何故そんなことを真っ先に思い出してしまうのだろう。思い出は想像よりもチクチクしていて、綺麗なんかじゃない。

今日、オリオン座が近いよ。田舎は星がそれはそれは綺麗に見えるよ。それなのにどうしていつも、星が綺麗な夜に隣に君がいないんだろう。

違う、隣に君がいないから、空を見上げるんだ、私は。隣に君がいるんなら、きっと見上げない。あいにくオリオン座しか分からない。オリオン座を私に教えてくれたのは誰だったろう。


いつだって要らないものが多すぎる。考えなくていいことまで考えてしまう。もっとシンプルでいいはずなのに。「好き」と、「嫌い」でいいはずなのに。「はい」と、「いいえ」でいいはずなのに。私の人生には、「どちらでもない」が多すぎる。それが優しさでも何でもないことくらい、とっくの昔に気付いている。

この仕事をやめたところで、次にしたい仕事もないなあ。でも、もっとシンプルな仕事がしたい。やった分だけわかりやすく結果が見える方がいい。やった仕事がそのままお金にかわる。やった仕事がわかりやすく直接的に誰かのためになる。オンリーワンなんて目指さない。いくらでも仕事上で自分のかわりはいると皆が理解しているような、そんな仕事がいい。

ていうか、本で読んだけれど、私が今就いている職は、いずれAIに乗っ取られるらしい。そんな「いくらでもかわりのいる仕事」を「かわりがいない」みたいに。ね。正直もう疲れた。



私が触れるもの全て、「普通」になっていく。憧れていた生活も、恋愛も、仕事も、夢も、お洒落な洋服も、素敵な風景も。

「いいお母さんになるね」「母性がある」なんて言わないで。まだお母さんになる予定なんかないのに。そもそもなれるかすら分からないのに。本当は今も他人の世話なんて焼きたくないよ。

君は、私の何に惹かれたの。何度聞いても質問に対する答えは返ってこない。タイミングが合えば誰でも良いなら、もうそろそろはっきりさせたい。君の答えに納得出来るまで、私帰れない。私が苛ついて泣かないと君は決断してくれないんだ。


今もこわい夢ばかりみる時期がある。夜中に何度も目覚めてしまう。優しくできないよ。不平等だよ、こんなの。私は何に、誰に、報われてるんだろう。辛かったけれど、私は「病気」になれなかった。平気な振りしてた。毎日泣いて、金縛りにあって、眠れなくて、今飛び込んだら死ねるのかなって思っていたけれど、「病気」になれなかった。病院に行かなかったから、名前がつかなかった。どんどんまわりの人がいなくなって、私は「強い人」になった。仕事をやめない限り嫌でも呪ってしまう人、一人や二人はいるでしょう。誰でもそうなんでしょう。そうだよって言って。


その人しか知らなかった。その人しか知らないと思っていた。そう信じたかった。だから、その人が「正しい」と言えば、私も正しくなった。その人が「違う」と言えば、私は間違えた。他人に左右されるだけの生活は楽でぬるくて簡単だった。人に預けた人生。預けられた方はきっとたまったもんじゃないね。



鏡に映る自分の顔は青白かった。青白さでなく、透明感が欲しかった。いまだに自分がイエベかブルベか分からない。どんな色でも似合う気がするし、どの色も似合わない気もする。


とりとめのない記憶の一部が繰り返しよみがえって、それを繋ぎ合わせて私の生活がつくられていく。映画のワンシーンみたいに綺麗じゃない。でも、映画よりもずっと美しい。正しいことも間違ったことも、全部わたし。楽しかった昨日も、来るのがこわい明日も、全部わたしのもの。

いつか終わる。それだけが約束されている。その約束のお陰でギリギリ歩いて行ける。幸せか幸せじゃないかって聞かれたら、身体と心の状態としては今は「どちらでもない」なのかもしれない。でも、これからもっと、とびきり幸せになる予定だから。

私の時限爆弾のスイッチは私の手の中にあって、自分を守るためならいくらでも押していい。それを知っているだけで私は十分生きていけるんだ。今日は朝までぐっすり眠れるかな。



ゆっくりしていってね