『西洋菓子店 プティ・フール』感想

祖父が営む洋菓子店で働く主人公・亜樹を中心に六篇の短編で周辺の人間関係とその変化を描いた作品。それぞれの章ごとに感想を書いていきたいと思います。


「グロゼイユ」

亜樹の視点から描かれた章です。第一章から大きな衝撃を受けました。亜樹が、友人の珠香との思い出を回想する話なのですが、その思い出が鮮烈でした。特に高校三年生の夏の思い出が描かれた場面は痛々しく、危ういものでしたが、とても儚くて美しく感じられました。艶やかで背徳的な赤色をしていながら、とても酸っぱいグロゼイユの実が、亜樹にとって珠香とその思い出がどのようなものだったかを象徴しているようでした。


「ヴァニーユ」

亜樹の後輩・スミの視点から描かれています。亜樹に想いを寄せながらも、お洒落で明るい女の子・ミナとの中途半端な関係を引き伸ばすスミの態度がなんとももどかしく感じられました。この後の章でミナの視点からも描かれるのですが、それを踏まえて読むとまた違ったむず痒さを感じられました。


「カラメル」

この章は1番衝撃的でした。吐くために大量のシュークリームを食べる語り手・美佐江の姿はあまりにも苦しそうで、目を逸らしたくなります。甘いものは癒しのためのもの、という思い込みを正面からぶち壊されました。甘いものがストレスの捌け口となっているのは僕の今までの人生では考えられない光景でした。


「ロゼ」

「ヴァニーユ」の語り手・スミに想いを寄せる女の子・ミナが語り手です。ミナはネイルサロンで働いていて、美意識が高く、完璧主義ですが、周りの環境に抱いている不安を笑顔で隠している、ある意味女の子らしい女の子です。自分の考えがはっきりしていて、不満があっても仕舞い込んで、スミのことを一途に想い続ける様に感情移入してしまいました。この作品の登場人物の中で1番好きです。

最期の一文「いつか、あなたの人生を薔薇色に染めるのはあたし」という決意表明はとてもミナらしいなと感じました。


「ショコラ」「クレーム」

「ショコラ」は亜樹の婚約者・祐介の視点から、「クレーム」は亜樹の視点から、二人の関係性を描いた作品です。「夫婦は他人で作るものだと思う。」という祐介のセリフに、作者の恋愛観が表れているように思えます。人間は結局は他人どうしだけど、だからこそ支え合って生きていくのだという考え方は恋愛だけではなく、全ての人間関係に当てはまるなと思いました。



おわりに

お菓子は甘いだけではなく、苦かったり、酸っぱかったり、刺激的で複雑な味わいで、それが登場人物に影響を与えているのがおもしろいと感じました。

また、お菓子の描写は勿論、各登場人物の職業(ネイリスト、弁護士等)の様子が細かく描写されていて、作品にリアリティと説得力を持たせているように感じられました。


面白そうだと感じられたらぜひ読んでみてください。

西洋菓子店プティ・フール (文春文庫) https://www.amazon.co.jp/dp/B07NGNBRL9/ref=cm_sw_r_cp_api_glt_9RZ9VK81JSMQT3KYE3T9

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