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『西洋菓子店 プティ・フール』感想

祖父が営む洋菓子店で働く主人公・亜樹を中心に六篇の短編で周辺の人間関係とその変化を描いた作品。それぞれの章ごとに感想を書いていきたいと思います。 「グロゼイユ」 亜樹の視点から描かれた章です。第一章から大きな衝撃を受けました。亜樹が、友人の珠香との思い出を回想する話なのですが、その思い出が鮮烈でした。特に高校三年生の夏の思い出が描かれた場面は痛々しく、危ういものでしたが、とても儚くて美しく感じられました。艶やかで背徳的な赤色をしていながら、とても酸っぱいグロゼイユの実が、

    • 猫の魔力〜『猫と庄造と二人のおんな』書評〜

      猫には不思議な魅力がある。美しいさらさらの毛並み、吸い込まれてしまうような大きな丸い瞳、子どものころに夢中になったスライムのような、柔軟でつかみどころのない体躯、追いかければ逃げ、放っておくと寄って来る気まぐれな気性、具体的な要素を挙げればキリがないが、そんな彼らの魅力を前に人類は皆、無力である。『吾輩は猫である』が大ヒットしたのも、漱石の文才に因るものであるのはもちろんそうなのだが、その主人公が猫であったことも一因であろう。『吾輩は犬である』とか『吾輩は鳥である』とかであっ

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