していいシティ安藤智博「富士市吉原商店街周辺まとめ」
一週間の滞在を終えて
富士吉原での滞在期間が終了した。思ったよりも短かったような、それでも時間は足りなかったような。一つだけ言えるのは、この地域の人々や受け入れホストに、とても良くしてもらった一週間だったということ。あっという間の滞在で、正直初めての地域をどう使いこなすか、どうやって気持ちよく滞在するかなんてことを考える暇もなく、怒涛の情報量と景色に飲み込まれて滞在が終了した、そんな感覚だ。
振り返ってみると得るものが多く、現地で出会った人たちとの対話を通して、自分自身の制作のスタイルや考え方にも少なからず影響した良い滞在だった。制作におけるメイン拠点としての都心部を離れて、地域で活動することには、いくつか意義があると感じたので、ゆるりと振り返ってみたい。
地域に滞在しながら活動するということ
知らない地域に訪れる、というのはそれだけで普段とはまた違った気持ちで活動に取り組むきっかけになる。その場所の景色を取り入れながら、まちを歩くことで新たな関心の芽生えを自覚する。
今回のプロジェクトの性質もあるが、自分は場所と移動からインスピレーションを得ることが多いため、訪れたことのなかった今回の富士吉原での滞在は、プロジェクトの今後の展開にも新たなヒントを与えてくれたように思う。
例えば、今回の滞在ではある程度、吉原商店街に限定して活動を行っていたため、ワークショップを実施する際もエリアが絞られていた。参加者にとっても実際に体を動かしながらプロジェクトの意義を理解して、取り組みやすかったのではないかと思う。渋谷などの都市部でgapcapを実施する際は、参加者によってはGoogle Mapを確認しながら歩き回る人もいるが、富士で実施した時はそういったツールの活用は特に見られなかった。
また個人的にも、朝から夜までぐるぐると歩き回っていたこともあり、数日でなんとなく土地勘を掴み始めることができ、その後の活動をスムーズに進めることが出来た。より探索的なまちあるきを楽しむという観点で言えば、富士吉原の商店街周りは良い範囲だったのだろう。
プロジェクトの意義を再考する
今回はgapcapという「都市を瓶詰めする」活動を展開した。そもそも、この活動を富士吉原で実施しようと思ったのには、理由がある。
応募段階では、全く決めていなかった滞在先。静岡県内の様々な地域を眺めつつ富士吉原を選んだのは、単純にアクセスが良かったことと、徒歩でエリアを回れること、そして個人的に富士市が気になっていたからだ。以前、友達と訪れた際に、心地よい時間を過ごすことができ、なんとなくまたこの場所に来る機会があれば、とぼんやり考え応募を決意した。
そして、今回のプロジェクトの狙いとしては、新たな地域でどれだけまち歩きのツールとして活用できるかを検証することだった。gapcapは今までに京都市と渋谷で展開しており、どちらのエリアも都市部だったため各自のお気に入りスポットも多様であった。
一方で、今回のように商店街程度までグッとエリアを絞った時に、果たしてgapcapが上手く機能するのか、また他の人と場所や使いこなし方が被ってしまうのではないか、そんな懸念があった。
しかし、実際に実施して見たところ予想とは全く別の結果が現れた。都市部ではやはり商業施設や観光施設をgapcapする傾向が強く、それこそお気に入りの場所が被ってしまったり、すでにデザインされた求められる使い方を好ましい、と認識してしまうケースが多かった。しかし、今回のエリアでは、何の変哲もない「道」や「広場」といった、本当に生活に根ざしたその人なりのお気に入りスポットが浮かび上がってきたのである。
もちろん、共有する際には「お、なるほどあの場所ね」となるのだが、基本的に各々の場所が被ることはなく、当初gapcapで捉えたかった“名もなき場所”をそれぞれの視点で上手く切り取ることができていたように思う。むしろ「そこを詰めてきたのか!」といった互いを称え合う?ような新しい共有のあり方がされていたことに驚いた。
また今回の滞在で、その街に生活している人々、もしくはこれからその地域を支える世代に向けた地域における自身のアイデンティティを捉え直すためのまち歩きツールとして活用できないか、と新たなヒントを得た。gapcapは他人の視点の違い(ギャップ)を捉えて瓶詰め(キャップ)するだけでなく、自分自身の場への向き合い方や生活導線を再確認し、なかなか言語化されにくい場の要素や好きな環境の要件を掘り下げる手法として有効なのではないか、と仮説を持つことが出来た。
実践する上でのターゲットの変化
そしてもう一点、大切な発見があった。今回、初めて子どもたちがワークショップに参加してくれたのだが、そこから学ぶヒントが大きかった。それはgapcapが秘める、まちを使い倒すプレイツールとしての楽しさ、また収集した物の作品としての美しさの可能性である。
子供たちは「よーいどん!」のかけ声と共にまちに繰り出し、思い思いの場所に駆け出して、すぐにgapcapを実施していた。気になった場所に行き、特徴的なものを詰めるという行為は直感的に理解しやすく、友達同士楽しく瓶詰めに取り組んでいたように思う。
また帰ってきて共有する際も、各々の持ち寄った瓶を並べて、興味津々に大人たちのお気に入りスポットの説明を聞いていた。共有が終わった後も、並び替えながら写真撮影が始まり、一本一本を丁寧に撮影していたのが印象的だった。
一方、課題としてはやはり綺麗な物や可愛らしい物を見つけて瓶詰めをする傾向があったため、その物がちゃんと場所に紐付くように確認をしてあげる必要があった。ただ、どうであれまちに飛び出すきっかけのツールになり、楽しんでくれていたので、大変良い時間だったと思う。
万全の受け入れ体制とサポート
そして、忘れてはならないのが、この滞在で自分らしく活動を進めることができたのは、陰の功労者である受け入れホストYCCC瀧瀬さんと田村さんの多大なるサポートのおかげだということ。今回のマイクロ・アート・ワーケーションを実施するにあたって、本当に多くの手助けを頂き、最後まで気持ちよく走り抜けることができた。
例えば、よそ者として入っていく際の地域との接点作りはもちろんのこと、それだけに留まらず、作品展示の相談や地域住民との交流会企画、紙媒体とインターネットによる広報活動、各種メディアとの調整、現地要人によるツアー企画、活動中の素材撮影など挙げ始めるとキリがない。ただでさえ不安な中での地域滞在の期間を最大限より良い有意義なものにできたのは、受け入れホストの方々の助けが大きい。改めてこの場を借りて、深く御礼申し上げたい。
最後に
今回は一週間という短い期間ではあったものの、プロジェクトの発展につながる示唆を得られた良い滞在になった。今後の展開としては、やはり蓄積したまちに対する視点のデジタルアーカイブの方向性を模索することと、まちあるきプレイツールとしてgapcapの手法をさらに発展、そして確立させていきたい。
また、来年も機会があればぜひこの制度を活用して静岡県での制作を実施したい。そして、後続にも引き続きこの素敵な機会を共有していきたいと思う。
スペシャルサンクス
富士吉原滞在中は本当に多くの方々のご協力とご支援によって、制作を実施することができました。中でも特にお世話になった方々に対して、この場を借りて感謝を申し上げます。
今回の滞在後も、引き続き活動を続けていくので、ぜひしていいシティのnoteへのフォローもお願いします!
11月9日更新
未来をつくる実験区、100BANCHにて富士吉原での活動成果発表と展示会を実施しました。
当日の成果発表の様子は以下のリンクよりご視聴いただけます。