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大川原脩平「憧れのハッシュパピー」(滞在3日目)

▼憧れのハッシュパピー

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今はどうだか知らないけど、その昔ストリートダンスをやっているやつにとってハッシュパピーの靴はちょっとした憧れだった。ポッピングと呼ばれるダンススタイルはちょっとクラシカルな服を着るのが習わしで、オーバーサイズのジャケットを羽織りハッシュパピーの靴を履いた10代の子がイキがって歩いていた。青森で高校生をやっていた私もご多分にもれずハッシュパピーの靴が欲しかったのだが、片田舎で売っているところはどこにもなく、青春時代の憧れの靴としてなんだか今も輝いて見える。静岡の若いダンサーがうらやましい。きっと地元のダンサーにはみんな馴染みの靴屋があるんだろう。

▼出会いを引き寄せる名テニスプレーヤー

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今回の旅のお供はアディダスのスタンスミス。いまやかわいいわんこよりもテニスのおじさんに信頼を寄せる年ごろ。今日からは三島地域に滞在して、例のごとく散歩をしまくる予定だ。とはいえ、現時点ではまったくのノープラン。駅前の地図を眺め、なんとなくあてにならない嗅覚だけを頼りに方角を決めてまっすぐ歩いてみる。「こんなときにハッシュパピーがいてくれたらなあ」そんなふうに思ったわけでは全然ないが、ふと横を見ると「マイクロ・アート・ワーケーション」の文字。どうやらここは今回の企画の受け入れホストのうちのひとつである株式会社シタテさんの拠点、三島クロケットというところらしい。「なんだ、やるじゃんスタンスミス。」往年の名テニスプレイヤーにタメ口をききつつ、図々しくも中まで案内してもらった。

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鮮やかな手口で年齢を偽りながら働く國部さんに感服し、地元を牛耳る建設会社の川口さんに手を引かれていたら、いつのまにか幼稚園をリノベーションした複合施設「みしま未来研究所」にワープしていた。あれ、街について書くのはよそうと思っていたのに、全体的に陽気でコミュニケーション能力が高く、エネルギーあふれるひとたちにあてられていい気になってしまったかもしれない。これはまずい。私はテニスとかをするタイプじゃない。どちらかといえば存在もしない架空のテニスサークルを想像して悪態をつくタイプの人間だ。本来の自分を取り戻さねばならない。「判子かサインかなんて、ハナクソみたいな議論をしている人たちがいる」と言っていた辻村さんを思い出せ!暗黒エネルギーを心に溜めろ!

▼絶望の廃墟ツアー

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暗黒エネルギーが枯渇したので、日の出企画の山田さんの提案で遊休不動産をめぐった。明らかに廃墟で安心する。いまきれいな不動産も何十年かしたらこうなって、だましだましまたきれいに直したりしつつも最後にはすべてが破壊され更地になるんだと思えばなにをやっても大丈夫なんだという気になる。ここには過去の人の生活や、軋轢や、なんなら怨念みたいなものまでが今はどんより漂っているが、まあ1000年くらいのスパンで考えたならすべてが些細なことだ。そのころにはこのへんの溶岩層もいくつか増えているだろう。さきほどお会いした裾野市役所の志田さんが持ち歩いていた溶岩名所紹介パネルも100枚くらいになっているかもしれない。ほぼ溶岩しかない写真パネルをいつも紙袋に入れて持ち歩いているという話がおもしろすぎたので、あれは是非デジタル化して差し上げてほしい。説明が歴戦の紙芝居師の趣であった。

▼安心のはま寿司

廃墟に安心してお昼を食べ損ねてしまったので、早めの夕食をはま寿司でとる。なにせチェーン店である。全国各地で何ひとつ変わらない価格と味。海外で食べるご当地マックも乙だが、地方でチェーン店に入るのが割と好きだ。単純に企業努力を感じるし、市民の生活を正しく支えている。まちづくりはチェーン店を抜きにしては語れない。お金がなく若い頃にお世話になったのは他ならぬチェーン店である。地方の幹線道路沿いに店舗展開できるパワーを持ち、老若男女の生活を等しく彩る柔軟さがある。共存し、互いに繁栄せよ。とにかく、あらゆる人やモノやコトには仲良くしてほしい。まして、争いごとはないほうがいいだろう。人間にそれを求めるのは酷だろうか。求めているのではなく、願っている。いいことを言った。今日もよく眠れそうだ。

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なんだかんだでいい感じになった気になることが人生を楽しむ秘訣だが、それを踏まえた上で本当にいい感じにしていくことがやっぱり大事だ。私は私の人生だけをいい感じにしていくので精一杯だが、願わくば、周りにもスーパーハッピーエナジーを振りまいていきたい。これからも会えば会っただけ脳がトリップする幻覚キノコみたいな存在を目指していく。相棒の名テニスプレーヤーとともに。よろしくな!

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