見出し画像

スチールグレイの六本木

 小雨に濡れたコンクリートの階段を滑らないよう丁寧に上る。もう実家を離れて4年目なのに、わたしは未だに都会の街が新鮮だ。

 東京港区・六本木。

 裏町を抜けて見上げてみれば首都高3号渋谷線。奥のほうにはヒルズがあった。そうそう遠い場所でもないが、ここに来るのは今日が初めて。東京の街はいつまで経っても知らない街と駅ばかり。17の夏に出会ったときと変わらない。

 だけど、ビニール傘を透いて見る。

 首都高、ヒルズ、曇天も、あらゆる色がスチールグレイ。染めたことのないわたしの髪も、湿気を含んで濡れ羽色。背広の大人がただ淡々と過ぎていく。
 仄暗いのにネオンも灯りも、何1つとして点いちゃいない。雨の昼間の東京はあまりに色気を欠いている。ただそれだけが17の夏と違ったふうだ。
 トンネルの中を飾る落書き、青山霊園に茂った緑、咲き初めのピンクローズの植木と横に添えられたシルバーリーフ。ここに来るまでの道中のほうがむしろ色鮮やかだった。

 生きているかい、東京。
 活気がないのは雨のせいだと言ってみて。

 今日みたいな天気なら夕陽が映えることもない。夜に沈んだ後になっても喧騒が躍ることはない。
 軽薄な色のネオンの明かりがこう見えてわりと好きだった。雑多にいろいろ詰め込まれているパッフェのような都会のビルも。

 重力がただ、コンクリートと淀んだ雲を引き寄せる。その真ん中でハラハラと舞う細かい雫がわたしの服を静かに冷やした。着ている色もまたグレイ。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?