不便は不幸か　便利は幸か

babyちゃん(娘)が朝、お茶漬けを食べながら
歌っていた。

「絶好調〜真冬の恋〜スピードに乗って〜」

まあ。こんな古い歌知ってるんだ。
広瀬香美。題名は忘れたが。

子供たちが、昔の古い歌を歌っているときが
ある。なんでそんな歌知ってるの、
と聞くと、だいたい

「tiktokでバズってるから」

へえ。現代は、歌の世代間格差は
tiktokが解消してくれているようだ。

最近見ないな、と思っている歌手が急に
テレビに出るようになって、なんで？
と思っていたら、

「だって今この人の昔の歌がバズってるもん」

と子供たち。
へえ。
すごいなあ。もう、あの人は今、みたいな感じになっている歌手も、まだまだ今から
ワンチャンあるってことか。

「ワンチャンある」
って、おそるおそる使っているのは、
なんだか自分が思っている使い方と
若い子の使い方が違う、ということを最近
知ったからだ。

私は、「ワンチャンある」は
「まだ可能性がある(ワンチャンス)」
場合に使うのだと思っていた。
しかし、babyちゃんなどは、

「今日ワンチャン雨降る？」

などと言う。待って待って。
あれ。お母さんいつから間違ってた？
最初から？

農家の人ならワンチャン雨、といっても
良しだ。
しかし女子高生にとって雨はチャンスでは
ない。
娘曰く、もう今は

ワンチャン=もしかしたら、ひょっとしたら

と言う意味で使うらしい。もはや、
「チャンス」
の意味は、空中分解してしまっていた。
日本語は変化していく。

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babyちゃんがお部屋で静かに勉強していて、
まあ、いい子ね、がんばりやさんね、
と、私がご機嫌で歌ったり踊ったりしながら
湯たんぽなどを持って行くと、

「・・ちょwやめて」

と恥ずかしそうなbabyちゃん。

おや。画面の向こうで友達が見ていたよ。
母親が踊りながら湯たんぽを持ってきた
ところを。
恥ずかしいところを見られてしまった。ごめ。

静かにしているから一人だと思っていたら、
友達と通信しながら一緒に勉強していたのだ。

今の子供たちは、もはや
通信する＝話す
ではない。繋がっているだけでいいのだ。
同じ時間を友達と共有している、という
事実が大切なのかな。
いや、わからんけど。

親に対して「静かにして」という状況には
私にも覚えがあり、ふと思い出した。

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昭和53年生まれの私が小学生だったころ、
まだレンタルCD屋さんなどもなく、
当時、好きな音楽を繰り返し聞きたいと
思ったら、手段としては、
「歌番組をテレビの前で録音する」
一択だった。少なくともうちは。

当時、歌番組は
「夜のヒットスタジオ」
「ザ・ベストテン」
などがあった。当時、すきな歌手は
南野陽子、中山美穂、チェッカーズ、光GENJI
などで、彼らの歌だけを、歌い始めから
歌い終わりまでキレイに録音したかった。

うちには赤いラジカセがひとつあり、カセット
テープに録音するにはこれを使う。
テレビの前の1番いい位置にこれをセットし、
録音ボタンに手をかけて、今か今かと、好きな歌手が登場するのを待つ。　

こんなやつ

しかし、歌だけを録音する、というのは
とても難しい事だった。

当時は一家にテレビは茶の間に一台が普通。　
この録音方法は、周りの全ての音が入ってしまうのだ。
うちは7人家族だったので、まずあらかじめ、

「今日、歌番組を録音するので、その間は
絶対に音を出さないでほしい」

と家族に伝えておかなければならない。

音楽番組はだいたい8時とか9時とかから
始まるから、晩御飯の洗い物やお風呂など
生活音バリバリの時間帯だ。
音を立てるな、と言われた家族はめちゃくちゃ
迷惑だっただろう。
それでも家族は文句もいわず付き合って
くれた。


しかしその日、父は娘に釘を刺されていた
ことを忘れていた。

娘が大事な大事な録音をしているとき、
お風呂から上機嫌で、デカめの音量で鼻歌を
歌いながらでてきてしまったのだ。

おりしも
ミポリンがすてきなメリーゴーランドに
乗り、くるくる回りながらかわいく歌っている時だった。
ご機嫌に風呂から上がり、ガラっと引き戸を
開けると、娘は大事な録音中。
テレビの前で、娘に鬼のような形相で
にらまれる父。

かくして、ミポリンの歌に、ガラッ、と、
父の鼻歌と、私の「黙ってって言っただろ！」
が入ってしまった。

いつもこんな事ばかりだったが、
録音したガサガサの音のテープを、大事に
聞いていた。
それがたった35年前のことだなんて。

今思い返せば、いつでも開いているお店、
いつでも見れる番組、いつでも聴ける音楽
などなかった。
もちろん携帯電話や、サブスクリプションも
ない。

「今を逃したら終わり」

という危機感でヒリヒリしていた時代。
今！今しかないんじゃ！みたいな。

でも、別に全然不幸じゃなかった。
そんなもんだって思えば、そんなもんなのだ。

不便な昔も、便利な今も、幸せの総量は
変わっていないような。(当社比です)

今、その録音テープが出てきたら、
宝物にするんだけどな。