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廃棄物処理のトラブルに巻き込まれないためのリスク管理とは:ダイコー事件からの教訓

企業の環境に関わるコンプライアンスのうち、廃棄物処理法(以下、廃掃法)については、経営層やマネジメントにはあまり興味がなく、関わり方も希薄である場合が多いのではないでしょうか。

しかしながら、ひとつ産業廃棄物の処理を間違えると、企業にとって、大きな損害(原状回復費用や企業名の公表等)になるということを考えると、マネジメントとして、組織的にコンプライアンスが確実に守られる体制を敷いておく必要があります。

そのためには、経営層やマネジメントが廃掃法について理解するとともに、廃棄物処理を経営課題の中での優先順位を上げることが必要だと思います。

是非、一連の投稿を参考にして、廃掃法の理解を少しでも高めて頂ければありがたいです。


1. 過去2回の廃棄物に関する投稿の概要

 過去2回の廃棄物に関する投稿(↓参照)では、

❶廃掃法は非常に複雑なため、本法令を理解していない者が対応すると、法令違反になってしまう可能性が極めて高い。

❷例えば、排出事業者(ゴミを出す企業)が、産業廃棄物(企業が排出するゴミ)を処理する場合、契約書締結→排出毎にマニフェスト発行→最終処分の確認→マニフェストの保管(紙の場合5年)を行わなければならない。

❸排出事業者が法令違反の状態のままで、廃棄を委託した処理業者が不法投棄で捕まったりすると、会社の名前が公表されたり、原状回復費を支払わなければならない場合がある。

❹そのため、企業が産業廃棄物を処理する場合は、社内で廃掃法を理解している担当者と相談した上で、対応することが重要である。

ということをお伝えしました。

本日の投稿は、2016年に発覚した愛知県の廃棄物処理業者ダイコー他による「食品廃棄物の横流し事件」を踏まえて、対応策等についてお話ししたいと思います。


2. ダイコー事件とは

ダイコー事件について、ご存じの方も多いと思いますが、簡単に概要を説明します。

CoCo壱番屋が、廃棄処分したはずのビーフカツがスーパーで販売されていることをCoCo壱番屋の従業員が発見しました。

なぜスーパーで販売されているのかを調べたところ、廃棄を委託した廃棄物業者ダイコーが、それらを廃棄せずに食品として転売していたことが発覚しました。

警察の調査で、ダイコーの倉庫から、CoCo壱番屋だけでなく、大手メーカーや大手流通の商品も見つかり、それらを横流ししていることが分りました。

本事件で、ダイコー他は、廃掃法違反、食品衛生法違反、詐欺で起訴されました。

このうち、廃掃法については、電子マニフェストの虚偽報告(廃棄していないのに廃棄したと報告)で、罰則としては、6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金の適用対象に当たると思われます。


3.CoCo壱番屋他、大手メーカー、大手流通の対応について

前回の投稿でもお話しましたが、廃掃法の考え方は「産業廃棄物は、排出事業者が自ら処理しなければならない」ということが原則であり、産業廃棄物処理を他社(この場合はダイコー)に委託することは、例外としています。

本事件は、ダイコー他の責任は当然ですが、CoCo壱番屋、大手メーカー、大手流通の各企業が単純に被害者と位置付けていいのかと思います。

この場合、本来ならば、事業者自ら処理を行うべきところを、ダイコーに委託して代わりに処理を行ってもらっているという位置づけです。

廃掃法の目的のひとつに、「生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全および公衆衛生の向上を図る」という事があります。

そのため、CoCo壱番屋、大手メーカー、大手流通の各企業法が、法令を犯して廃棄物を食品として横流ししたダイコー他にだまされたのは事実です。

しかしながら一方では、社会に対しては、排出事業者の責任として、「生活環境を清潔にする」ということができていたか、今回の事件が発生するリスクの管理ができていたのかということを考えておかなければならないと思います。


4.企業が食品を廃棄する場合に気を付けなければならないこと

ダイコー事件では、排出事業者の各企業については、大きく罰せられたという報道はありませんでしたが、法令等により、企業が遵守すべきことを怠っていた企業があったのではと推測します。

以下に、排出事業者が見逃しがちなポイントを挙げます。排出事業者の方は、一度、自社の対応をチェックして見るとよいと思います。

罰則はない、または小さいかもしれませんが、これらを確実に行うことで、廃棄物処理業者の適正処理の一部を確認することができます。

【廃掃法や条例等の遵守のチェック例】
□契約前にダイコーの現地確認を行い、報告書を残していたか。
□適正な単価でダイコーと契約を締結していたか。
□ダイコーの最新の許可証の写しを入手していたか。
□契約書に記載された廃棄物以外の委託をしていないか。
□契約書に記載された能力以上の廃棄物を委託していなかったか。
□定期的にダイコーの現地確認を行っていたか。
□マニフェストが法律で決められた期間で返送されなかった時、委託した産業廃棄物の状況を確認するとともに、その旨を行政に報告したか。


5.企業が食品を廃棄する場合のあるべき姿

ダイコー事件では、各企業が食品を転売することができる形で廃棄処分の委託をしていることが、そもそものリスク管理不足だと考えます。

この辺は、担当者ではなく、上位のマネジメント層が、どのように対応すべきかを考え、判断する必要があります

例えば、理想的な管理方法の例を挙げると

◎食品を廃棄する場合は、食品の包装を破壊し、絶対転売できない形で廃棄処分の委託をする。

◎排出時に食品の包装を破壊できない場合は、排出事業者の従業員が廃棄物の処理現場に立ち会う

◎確実に廃棄物が運搬されていることを担保するため、廃棄物を乗せる時に施錠等を施し、廃棄立ち会い者が処理現場でその施錠等をはずす

◎立ち会い者は、全ての廃棄物が転売不可能まで破壊されたことを確認する(できれば写真撮影)。

一見すると、常識を逸脱している対応に見えますが、各企業の経営者やマネジメント層は、これくらいの対応をしなければ、ダイコー事件の再発を免れないことを理解した上で、具体的にどのようなリスク対応にすべきか考えるべきです。


6.廃棄物業者の工夫の例(DXでの対応)

ダイコー問題への対応として、収集運搬業者や廃棄物業者もいろいろな工夫をしています。

例えば、廃棄物をトラックに載せた時の重量、降ろした時の重量、トラックの運搬経路のナビを使って、問題なく運搬されていることを排出事業者に報告するサービスがあります。

本件については、以前、大手廃棄物業者からこのフローの構築サポートをしていたことがあります(既に、導入済のサービス)。

また、排出する際に確実に破壊され廃棄処分されていることをリアルタイム映像または動画で報告するサービスもあります。

これらは、排出事業者の担当者が廃棄のたびにわざわざ立ち会わなくてもいいという、デジタルトランスフォーメーションによる業務改革に繋がっているのではないかと思います。


7.まとめ

❶ダイコー事件は、廃棄すべき食品を横流ししたダイコー他は法を犯して罰せられた。

❷本事件で、CoCo壱番屋をはじめとする排出事業者がだまされたのは事実ですが、社会に対しては、排出事業者の責任として、「生活環境を清潔にする」ということができていなかったのではないか。

❸各企業は、廃棄物処理に関するリスク管理が弱かったという部分もあった。

❹企業は、経営者を始めマネジメントが廃棄物に関するリスクレベルをこれまで以上に挙げることが重要である。

❺今回のダイコー事件の再発防止策として、廃棄食品の包装破壊や廃棄物処理の立ち会いがあるが、企業は、自社のリスクレベルを想定し、具体的にどのような対策を講じるかを考え実行することが重要である。

自社の廃棄物管理について、多少なりとも不安がある場合は、以下のアドレスに是非ご連絡下さい。相談1案件につきました、無料相談を承ります。

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