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私のことを男扱いする人たちを、私はもう相手にしない

私はMtFトランスジェンダー。できることなら「お兄さん」「彼」「〜くん」といった人称で呼ばないでほしいと思っている。しかし女性らしくない風貌を私が好んでいることもあり、今でも8割方は、周囲から男性扱いされることがほとんどだ。

私はこの事実をどこか「仕方がない」と思いながらも、落胆や憤りといった感情も持ち合わせていた。

しかしここ数日間で、私はあることに気がついた。私に浴びせられる「お兄さん」という声かけのほとんどは、真面目に向き合う必要がなく、実は軽くあしらって良い程度のものではないかと。

まず、この「男性扱いされる問題」だが、私の感覚では大半が男性からのものである。もちろん女性からも「お兄さん」と声をかけられるが、圧倒的に違うのは、私が相手へ「実はトランスジェンダーなんです」と説明をした後の対応だ。

※あまり「男女」という枠組みで物事を説明するのは好きではないが、ざっくりとした概論として話を進めることを許してほしい※

私の説明を聞いた後、私のことを「女性」だと改めてくれる方は、女性の方が圧倒的に多い。男性の場合、私がどんなに説明しても「男性」という記号を取り下げない方がほとんどである。

ここで私は考えた。男性から見た「女性」とは、いったい何なのだろうかと。

私は前職の、セクハラまみれの環境を思い出した。そこは、どんなに私が「くん付けで呼ばないでほしい」とお願いしても、履歴書を女性として提出しても、社長やマネージャー、支配人から「男」として扱われた場所。

私は上司からこんなことを言われたことがある。

「もし女性として扱われたかったら、もっと女性らしい所作とか振る舞いを勉強してこい」

「日本女性でお前(みっきー)みたいな眉毛をした人なんかおらん」

「IKKOさんみたいなオカマちゃんとして割り切るなら化粧してもいい」

「(私のことを女性と扱ってくれるお客に対して)いやいやこのみっきーが女なわけがないでしょう笑笑」

今この言葉たちを振り返って思うことは、一定数の男性にとって「女性」とは、おしとやかでふわふわした服を着て、声は高くて愛嬌があって骨張っていなくて、メイクもナチュラルで……といったような、俗にいう「女性らしい人」しか指さないのではないか、ということである。

だとしたら、だとしたら……私はもうそんな人たちを、そんな視野の狭い人たちを、相手にしなくてもいいのではないか。そう思った。

考えてみてほしい。「女性」とひと口に言っても、さまざまな女性が存在する。声の低い女性だっているし、眉毛の濃い、化粧の濃い女性だっている。胸だっていろんなサイズの女性がいる。骨格ががっしりした女性もいるし、スカートではなくパンツスタイルを好む女性もいる。ふわふわロングヘアではなくベリーショートで、かっこよく刈り上げた女性だっている。

もし女性の多様性を無視して、「女性らしさ」という枠組みに収まる人しか女性として扱わないのなら、私はもうその人とは手を繋がなくていいし、取り合う必要もないと思う。

そんな人に心を割く時間がもったいないし、私は私を大切にしてくれる人たちとの時間を大切にしたい。

そう気づいたとき、胸の中のもやがパッと晴れたような感覚になった。「女性らしさ」という呪縛から、ちょっとだけ抜け出せたような気がした。

だってMtF、男性から女性のトランスジェンダーって、黙っていると平気で世の中から「MtFらしさ」「女性らしさ」をスプラトゥーンのごとく浴びせられるんだもん。気がつけば「いかに女性としてのパス度を上げるか、男らしい姿かたちをどれだけ目立たなくするか、日本社会でいかに女性として埋没できるか……」みたいな価値観や情報ばっかり。

もちろんそういった女性らしさに憧れて、本当にそうなりたいと思って、化粧を覚えたり、ボイトレをして声を女性らしくしたり、レディースのファッションを究めるのは一向に構わないと思う。

しかし、女性らしい姿を追求する動機が、この社会の「女性らしさ」を半ば強要する風潮、同調圧力によるものだとしたら、ちょっと立ち止まって考えてもいいのではないだろうか。

私は、私のことを男扱いする人を、もう相手にはしない。だって「女性らしさ」の指標って結局、男性社会から見た指標に過ぎないと思うから。

私はトランス女性だけど時には坊主頭にするし、声だって低いし、化粧もゼロか100かで日本人ウケしないし、大口を開けて笑う。

私は、女性であってもかっこよくて、威勢があって、豪快でいいはずだと信じている。世の中の女性らしさに合致していないとしても、女性であるなら、そう思っているのなら、それは紛れもなく女性だと思う。

私は、私らしさを失わないトランス女性でありたい。

【私のことを男扱いする人たちを、私はもう相手にしない】

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