はじめての帯広@北海道徘徊記①
「テメエ何してくれてんだ、この粗チン野郎がーー!!!」
急停車したロードスターから降りてきた”ザ・こけし”こと本間朋晃似の男が、赤ら顔を歪ませながら、道路の真ん中で叫んでいる。しかも、あろうことか、その視線は確実に私を捉えている。
「え、お、おれ??」
思わず、岡ちゃんから交代を告げられたカズばりに我が胸に指を立てて聞き返しそうになる。
目的地の宿の場所がわからなくて、直前の交差点でやや不穏な動きをしたからだろうか。
構わず、ずんずん近づいてくる怒り面のザ・こけし。
ドアをロックし、窓に隙間がないことを確認。焦らずに対処できるのは、あおり運転報道のおかげだろう。
間近で体を屈め、メンチを切って威圧してくるこけし。口をパクパクしているが、何を云っているのかよくわからない。
こちらも、目を合わせながら鳩のように首だけくいっと前に出して、「サヨウナラ」ではなく、「スミマセン」と声を出さずに口だけ動かす。
すると、それで気が済んだのか、はたまた、道路のど真ん中に停めた車が気になったのか、肩を怒らせながらも、あっさりと引き返していくザ・こけし。事なきを得たが、怖かった。
しかし、こけしは、私が空手の有段者とか元プロボクサーとかの可能性を考えないのだろうか。まー私のようにそんなことをすぐ考えてしまう臆病者はそもそも喧嘩なんかふっかけないのだろう。
にしても、「あの清水宏保を生んだ帯広は、なんてガラの悪い街なんだ」
そんな最低の第一印象を伝えると、「みやこ」の常連客であるSさんが、
「ごめんなさいね。そんな全然怖い街じゃないのよ。ホントいい街だから」
とこけしに代わって、頭を下げた。
初めての帯広は、想像以上に盛っていた。
駅前の目抜き通りは、スナックビルが建ち並び、流行りの横丁を模した小ぎれいな小路には、朝ドラに感化された観光客に加え、地元の若者たちで賑わっていた。
「16万人くらいよ、そんな大きな街じゃないからね。でも、なんでまたお兄さんはこの店に来たの?」
別の常連さんが意外そうに訊ねてきた。確かに私以外の客は、全員常連だ。
「はーなんか横丁の盛ってる雰囲気が、ちょっと一人だと入りにくくて」
で、ぐるぐる繁華街を歩き、喧騒から少し離れたところに、”新世界”と掲げた狭いを路地を見つけた。スナックが並ぶ中、この「みやこ」だけが、提灯をぶら下げていた。
「提灯があるなら、何か食べさせてくれるかなって思いまして」
「あ、そーなのー。やっぱり提灯大事かしらねー」
と笑うママさんの外見は北斗晶のようなやや強面だが、保健所から猫を何匹も保護している愛猫家だ。店内も猫グッズだらけ。
「みんな私には猫あげときゃいいのよって感じなのよねー」
醤油皿も「ほら、猫が浮き出てるでしょ」と可愛い。
提灯の期待通り、お通しなのに、フライに、刺身に、サラダの3品と超贅沢。ついでに厚切りの刺身にもありつけた。
田中義剛の性格の悪さから始まり、松山千春の歌のうまさ、中島みゆきの天才性など、北海道が生んだスターたちの武勇伝を肴に、常連さんたちと楽しいひと時を過ごした。
宿は2500円だと云うと同情されて、「呑みな! 呑みな!」と常連さんがマイボトルの焼酎をドボドボと注いでくれる。果ては明日の朝食用にと地元の人気パン屋のパンをしこたまいただく。ますや?だったかな。確かにめちゃくちゃうまかった。
呑みも呑んだり、結局20時頃から1時過ぎまで呑み続けてしまった。
お会計も常連さんの酒ばかり呑んでいたので、酔いの割には格安。お釣りを保護猫基金に寄付させてもらった。
スタートは最低だったが、上機嫌で安宿に帰った。楽しい夜だった。
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