見出し画像

『男社会がしんどい』田房永子著

『男社会がしんどい 痴漢だとか 子育てだとか 炎上だとか』 田房永子
・本書は痴漢犯罪、日本における子育て、コンビニでの成人向け雑誌販売停止にまつわる筆者の炎上経験を、漫画で描く。
・筆者は、現代の社会は、「みんなで力を合わせて痴漢が痴漢をしやすい空気をつくっている」のでは無いかと説く。
・周囲の人々が「気づく」ことができれば、それだけで痴漢被害は減るのか。

1. 痴漢犯罪がなくならない理由

「痴漢」
私自身は経験がない。
高校から電車通学だったが、部活も同じ双子の妹と行動をともにしていたからかもしれない。一人になることはほとんどなかった。
しかし、痴漢の思い出は1つある。
私は当時埼玉県内の公立女子高校に電車で通っていた。朝の通学時間の車内で、痴漢をされた同じ女子校の生徒が、犯人の手を掴んで、「痴漢です!」と言いながら、犯人の手を引っ張ってホームに下りてきたのだ。これは一大事!!と思った周囲の同校の女子たちは、てんでに「え~きいんさ~ん!!」「ちかんで~す!!」「けいさつ!!」と叫び、痴漢を拘束する手助けをして、ホームを走り回ったのだ。
しかし、少しして気づくと、ホームには、女子高生だけしかいなかった。
「????」
女子高生と、その痴漢犯罪者しかいないホーム。
そう、通勤中の男性サラリーマンや、男子高生は、素通りして行ってしまっていた。
当時、子供ながらに、この状況に愕然とし、恐怖を感じたことを覚えている。
「男の人は、いざという時には守ってくれないんだ」

田房さんも、同じような経験があるようで、この社会は「みんなで力を合わせて痴漢が痴漢をしやすい空気をつくっている」と書いている。田房さんと私は、だいたい同年代。経験してきた社会は似ているのかもしれない。
本書には、痴漢の議論をすると、こんなことを言われるという。

・自分が悪い
・お前が相手を挑発したんじゃないの?
・忘れろ
・冤罪の方が大変
・被害届を出せばいい(被害届は3時間以上の事情聴取など手間がかかる)
・自分の身は自分で守れ。
・相手が捕まったら、相手の人生がくるっちゃう
・春になるとでるのよね

などなど。
他の犯罪と違って、痴漢や性犯罪では被害者がこのように責められる
その根底には、「触られたくらいたいしたことないだろ」というような意識があるのではないか。そして、みんな、痴漢って言うことがどんなことなのか「気づいていない」のではないか、と。

2. 気づいていない社会問題

「気づいていない」社会問題って、いつはたくさんあるのではないか、と、ハッとした。みんな、「知っている」ことは知っている。それが、「悪い」ということだというのも知っている。でも、大きな問題だとは実感していない。
世の中には、「性犯罪」ってあるんだな、「ジェンダー問題」ってあるんだな、「子育て」って大変なんだな…などなど。
でも、自分自身がその問題の当事者でないと、「分からない」ことって多いのではないか。そうすると、どこか他人事で、本当の意味で、言っていることを理解できていないことって、多いのではないか。
痴漢被害者が訴えても、自分が挑発したのではと言われたり、子育ての大変さを語るときに、夫と妻で話が通じなかったり。
そうすると、一方通行のワガママな意見として、世間に認識されていく。

「気づかない人にとっては、「ない」ことにされる。」

相手にされない、社会に意見をきいてもらえないのは、いつだって、社会的に弱い立場にされている人たちだ。

3.社会の声を内在化していく女性たち

田房さんの本の第2章では、産後女性が仕事復帰する場面で、子供が保育園に入園できない経験を書いている。社会からは、

・女のひとはそこまでして働かなくてもいいでしょ
・たいした仕事じゃないんだから
・やめてしまえば誰も困らない
・育児してりゃいい
・赤ちゃんがかわいそう
・仕事したいなんてワガママ

などと言われる。
そして、いつの間にか、社会の言い訳は女性の中にも内在化されていき、
・育児を手伝ってくれる夫に感謝しないといけない
・自分の仕事なんて大したことなかったのかも
と、水面下、地下へ自分の気持を沈めていく

女性に内在化された社会の言い訳は、まるで女性の意見のように存在しているように見える。そして、社会の言い訳は、どこが出どころかわからなくなる。
しかし、ニュースなどでジェンダー関連記事を目にすることが多くなってきた現在、女性たちは社会の言い訳を内在して水面下へ沈む必要がなくなった。違和感を表現し、NOを正直に言って良いタイミングがきたのだと思う。
そして、いままで既得権益の中で「気づかない」ふりをしてきた男性たちは、既得権益を放棄し、女性たちの違和感を共有し、新しい社会のあり方をつくっていく。
どうにか女性VS男性という構図ではなく、社会を作る構成員の一人ひとりとして、社会のあり方を考えていくことができないか。
この点については、引き続き、検討していきたいと思っている。

#ジェンダー #田房永子 #読書感想文 #痴漢

この記事が参加している募集

#読書感想文

188,766件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?