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カップリングパーティーで亀を舐めてめちゃくちゃ叩かれた話

今年の春のこと。
私は当時唯一の女友達だった山田とカップリングパーティーに行くことになった。
目ぼしい出会い目的のオフ会に一通り参加し、成果が上げられなかったことによる路線変更のつもりであった。

パーティーにはいくつかジャンルがあるのだが、このときは業者主催の真面目な出会いを求めている層が集まるパーティー。
その中でもプロフィールカードとカップリング発表がなく、比較的気軽に複数人と連絡先交換のできるものをチョイスした。

業者のパーティーと一般の出会い目的オフ会との大きな相違点の1つに、司会がいることが挙げられる。
このパーティーにも司会進行役がおり、おそらくその人物が運営会社の代表である。
顔はともかく(失礼)商才があるなら、正直彼とカップリングしたい。
そんな邪な気持ちは数分後、かき消されることとなる。
彼の怒号とともに。

山田と2人で受付を済ませる。
連絡先を書いて渡すためのメモ用紙が3枚ほど手渡されるが、実際はQRコードでやりとりを済ますためにほとんど使うことはなく、早々と鞄の底に押し込む。

「るんみち(※私のあだ名)今日盛れてるね」

山田の社交辞令にフフンと低い鼻を鳴らす。
このパーティーには何度か参加し、傾向は把握済みだ。
ピンク色の自前の髪では誰にも話しかけてもらえなかった経験もふまえ、この日私はセミロングの黒髪ウィッグをかぶっていた。
これがまあ、自分で言うのもなんだけど喋らなければそこそこ清純そうに見える。

網にさえかけてしまえば、見た目と中身のギャップは力ずくで口の中に押し込んで、鼻をつまんで無理やりに飲ませればどうにかなるだろう。
愛があればピンクの髪くらいどうってことない、なかばヤクザのようなメンタリティで獲物を漁り始めた。

司会の音頭で乾杯を済ませると、私はまず部屋の片隅でいかにも外資系企業に勤めていそうなスーツの男性に目をつけた。
少々格好良すぎる気もするが、序盤は深く考えずに行った方がいいだろう。
すかさず山田に確認をとる。
山田と好みが被った場合は山田を優先する、それが私の勝手なジャスティス、一方的に定めたルールであった。

第一声の出ないコミュ障丸出しの私の背中を押すべく、山田が壁際に座る彼に声をかけた。

「この子とお話、してもらえませんか?」

「いいですよ。おかわりのドリンク、一緒に取りに行きましょう」

さすが外資(思い込み)、慣れている。
私はウォーミングアップにはちょうどいいランクのブス(中の下の下)のはずだ。
利害が一致したところで山田のこともすっかり忘れ(薄情)はにかみつつも頷いた。

ドリンクカウンターには若干の列が出来ていた。
まもなく軽食も出始める頃だろうか、キッチンからも慌ただしい空気が漂っている。
最後尾に並ぶと不思議な物体が目に入った。
オシャレなBARの、オシャレなカウンターに、なぜかシルバーのたらいが置いてあるのだ。
よくコントで落ちてくる、むしろコントでしか見たことのない、アレだ。

〈この中にドリンクを捨てないで〉

太字の注意書きを読んで中を覗き込むと、そこには大人の拳より少し大きいくらいの、立派な亀がいた。

「亀だ!亀だよ!!!」

歓声をあげたあと、しまった、引かれたか?と後ろを振り返ると、意外にも外資リーマン(思い込み)は笑顔だった。

「俺も亀飼ってるんだよ」

お?知り合って5分で下ネタか?と身構えたが、外資リーマン(思い込み)は本当に自宅で亀を飼っているようだった。

「持ち上げられる?こわいよ?」

「大丈夫だよ」

はしゃぐ私にいいところを見せようとばかりに外資リーマン(思い込み)が亀の甲羅を掴み、わずかに持ち上げたその時だった。
ほんの数十分前まで私の心のランキング1位だったはずの司会進行のあいつが飛んできて、口角泡を飛ばしながらこう言った。    

「フードをとる前に、
 絶対に手を洗ってくださいッッッ」

その表情は真剣そのもので、いつもの〈脳内で当日の参加人数✕参加費を計算してはニヤけている〉あの表情は一切見受けられなかった。

ちなみにこの日はおおよそで
男性50人✕4500円 女性50人✕4000円
都心・週末の19時〜22時の貸切
軽食・アルコール飲み放題付でスペース料を25万と仮定しても3時間で約17万円の利益だ。
ニヤけてしまうのも無理はない。

司会の男の勢いに気圧されたのか、外資リーマン(思い込み)は「洗ってくるね!」と爽やかに洗面所に向かった。
私の貴重な20分間のフリータイムの一部はトイレの洗面に消えてしまった。

仕方なく置き去りにしたはずの山田のところへ戻ると、山田はルパン三世そっくりの男と話が盛り上がっているようだった。
しかし私はルパン三世よりも!今起きた!フレッシュな!亀事件を!伝えたい!

そう思い、盛り上がる二人のことなどおかまいなしに間に割って入って

「今亀触ったらあいつにめっちゃ怒られたンゴwwwww」

と言ってまだ洗っていない、亀を触って濡れている指をベロッベロに舐めて見せた。

仲が良いはずの山田も「るんみち、さすがにそれは私も引く…」と言って顔をしかめ、ルパン含めた私たち3人は重苦しい空気に包まれた。

気付くといつの間にか手を洗い終わった外資リーマン(何度も言うが完全なる私の思い込み)が後ろにいて、私の奇行を咎めるでもなく静かに見守っていた。
見かねた山田に手を洗うように促され、仕方なくトイレに行き手を洗った。
洗面所の水はやけにぬるかった。

その後も司会の声かけに従い、20分ごとに話し相手交換を繰り返しいろいろな男性と話すも、皆一同に首を傾げながら「酔ってる?」といったリアクションで私を持て余していた。
私は素面です。

中盤、突如としてこの世の全てがどうでもよくなる。
手足の力を抜き仁王立ちで見上げると、天井に響き渡る100人近い男女の浮かれた話し声。
この日は過去数回と比べても年齢層が低く、パッと見ただけでも話したいと思える男性が多くいたのに。
どんなに男性が手の届く距離にたくさんいても、私にはなんの関係もないのだ。

こわい!
同じ会場内にいるのに私だけ時空がねじ曲がっている!!

「おい山田!
 センターオブジアース!!」

もう一度言います、私は素面です。

終盤に話しかけてくれた男性には目を合わせるどころかほぼ目を瞑って瞼を見せて応対し、ため息ばかりつく私。
見かねた山田が「すみません、この子疲れちゃって…。」とフォローを入れてくれたが、真実は別のところにあったのだ。



お な か が い た い 。


そう。
司会のあいつが言っていたことは正しかった。
『亀は舐めるな』と。(言ってない)
額に脂汗をかいた私は拍車をかけて発言が適当になっていった。

「おい山田、あそこの男、
 ツーブロックが過ぎるな!」

こうなったらもう目も当てられない。
見た目が微妙な上に性格の悪い女に需要などあるわけがなかった。
しかも亀を舐めてる。
病気じゃん。
 
結局二次会に誘われることもお持ち帰りされることもなく、仲良く山田と一緒の電車で帰ることになった。
各駅停車に揺られながら山田はてきぱきと今日連絡先を交換した男たちにお疲れさまのLINEを送っていた。
ルパン三世に似た男にも挨拶しているのかな…そう思いつつも私は1つの爆弾を抱えていた。
ずっとずっと尻の穴をミッフィーのおくちレベルに硬く結んでいたのだ(・×・)
山田の最寄り駅まで寄り添うことは叶わず、私はトイレのために泣きながら途中下車した。

あのとき亀を舐めなければ。
一緒に亀を舐めた外資リーマン(舐めてない。風評被害である。)からもその後一切LINEはない。


******


以上が私のカップリングパーティー体験記で、これを今年の4月頃に出会い系SNSに投稿したところ、賛否両論、大変な反響があった。(主に否だよ!)

まずは箸休めに山田と別れたあとのトークより。

肉食系女子ではない。
亀舐系女子の誕生である。

そして私の奇行を心配した知人からは保健所HPから拾ってきたこんな画像が送られてきた。

知らずのうちに命の危機だった。
潜伏期間の48時間を超えたときには若干の小躍りをした。
ふざけてなめくじを食って死んだ人のことを私だけは一生笑ってはならない、そう胸に刻んだ。

そしてこの出会い系SNSには、SNS全体をウォッチするためだけの掲示板が存在する。
SNS(オモテ)では書けない話、主に悪口を、掲示板(ウラ)に匿名で書き込むのだ。

これだけ派手にやったことにより、私も不名誉ながら裏掲示板デビューを飾ってしまう。
それがこちらだ。

ごもっとも。ド正論。
だが待ってほしい。
亀が大変に危険なことは、後日私も知った。
(主に下痢でイケメンを逃すなどの)罰も受けたつもりだ。
しかし、亀はBARのカウンターにいたのだ。
私が自宅からびっしょびしょの亀をそっとポケットに忍ばせて持ってきたのなら、叩かれるのも無理はないだろう。
しかし、亀はBARのカウンターにいたのだ(二度言うたな)

そんなに危険なもんなら飲食店のカウンターに置かないでくれるかな!?
本当に私だけがいけないのかな?
失礼しちゃう!プンコプンコ!

さらに裏掲示板の告発は続く。

おい。
お前は誰だ。
この掲示板で一度醜聞が書き込まれると、その人物は一斉に袋叩きに合う。
しかしこの〈私とセックス済みだ〉という(推定)男はこう続ける。

…許してやれ(?)
なぜか私の醜聞を書き込んだはずの人物が私を庇っている。
これはつまり、私、もしくは私に似たピンクの髪の誰かが、相当いい仕事(セックス)をしたのではないだろうか…?

ありがとう、過去の私。
もしくは私に似たピンクの髪の誰か。

まさかのセックススキャンダル登場。
出たよ着火剤。
これはもうよく燃えるでしょとばかりに寝る間も惜しんで数時間おきに更新ボタンを押し続けた結果、予想外の展開で終結することとなる。

あれ?炎上は???
いや、いいよ褒めるとか(笑)
今じゃねえよ(笑)
そもそも私は業者が利益出すのは正当だと思っているのでそこの是非は争ってない。
そこじゃない、そこじゃないだろう。
正直私は寂しかった。
炎上芸人にも才能が必要なのだと思い知って私のボヤ騒ぎは幕を閉じた。

最後に。
ただのおなかゆるい芸人と化した私に、1ヶ月後、外資リーマン(顔も忘れた)からLINEが来たことをお伝えしたいと思う。
このタイミング、1ヶ月の空白。
何かと言い訳はしているが、本命とやりとりを続け、一度食事に行き、その後発展せずに『ダメだったか…そういやなんか変な女いたな…』と思い出したとしか思えない。
いいだろう、だとしたら私の答えはこうだ。

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