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『ハリネズミの願い』トーン・テレヘン

 本屋さんで見かけたこの物語のはじまりに、ぼくは思わず吹き出してしまった。

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 ヤマアラシのジレンマって知ってるかな?

 このハリネズミもヤマアラシとおんなじように、自分のハリのせいで他の動物たちと仲良くなれず、ひとりぼっちでいたんだ。

 他の動物たちはお互いにお家に招待したり、遊びに行っているのに、ハリネズミはひとりぼっち。ハリネズミはいままでだれも招待したことがなかったみたい。

 そこで、ハリネズミは他の動物たちに「みんなを招待します」という手紙を書くところから、物語がはじまる・・・


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  親愛なるどうぶつたちへ
  ぼくの家にあそびに来るよう、
  キミたちみんなを招待します。

 でも、ハリネズミはペンを噛み、また後頭部を掻き、そのあとに書き足した。

  でも、だれも来なくてもだいじょうぶです。

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 『・・・なんだこのハリネズミ⁉︎ 
  てか、これ、ぼくじゃん‼︎ (苦笑) 』

 と、ぼくは思わず吹き出してしまった。


 とにかくこのハリネズミは、結局、手紙を出すことができないまま、様々な動物たちが遊びにやってきたらどうなるだろうって、ひとり妄想に悩まされるんだ。



 考えれば考えるほど、招待しても良いことなんかない。

 そう怖くなっちゃうハリネズミ…



 なんだか、『その気持ちわかるなー』って、ぼくは思った。
 頭で考えていると、どんどん変な風に転がっていってしまう…そんなことってないかな?


 ぼくはそう。
 考えすぎちゃう性分なんだ。


 それともうひとつ、ぼくがこのハリネズミと似ているなって思うのは「ハリ」。



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 ビーバーのことは忘れて自分のハリのことを考えはじめた。ぼくにハリがついていなければ、なにもかもがどんなにちがっているだろう、と。

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 ハリネズミが気にしている「ハリ」。
 この「ハリ」のせいで他の動物たちにおそれられているってハリネズミは思い込んでいる。でも、たぶん、それはハリネズミの勘違いなんだと思う。

 他の動物たちがハリネズミに近づかないのは、「ハリ」のせいじゃない。
 きっと、そう。

 それに、「ハリ」はハリネズミにとって大切なもので、「ハリ」はハリネズミのアイデンティティ。



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 ハリネズミはいっそう強く目をつぶって、ヤマアラシと踊る自分を思い浮かべた。ハリなしで、ツノ二つとゾウの鼻と羽根をつけて。――略――ヤマアラシはこう聞いた。「いったいぼくはだれと踊ってるんだ?! それが知りたいもんだな!」そうしたら、ハリネズミだよって答えなくてはならないけれど、ヤマアラシは信じてくれなくて、ぼくを詐欺師呼ばわりするだろう。さぐるような目で見つめながら、「だったらハリはどこだ?」と言うだろう。もしかしたらぼくのことを危険分子とみなすかもしれない。
 ぼくは危険分子なんかじゃない、とハリネズミは思った。

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 他者にはない「ハリ」ゆえに悩み、実はその「ハリ」こそが自らの誇りであるハリネズミ・・・何か、そうゆう部分って、みんなにもないかな??


 ぼくにとっては、「ぼくが “ぼく” であること」こそがぼくの誇りなんだけど、それをうまく説明できなくて、他の人からしたら「頭のおかしい、まともじゃない人≒危険分子」とみなされるんじゃないかって、ぼくひとりで勝手に考えすぎちゃってた・・・


 でも、ぼくは結局のところ「変わり者」なんだし、そもそも「フツウ」なんてまっぴら御免なんだから、「みんなの平均」に合わせるつもりなんてなかったし、「みんなの想定している範囲」に収まっていなければならない必要性もなかったんだよね。



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ぼくはだれなんだろう?と考えた。 いや、みんなもだれなんだろう? いやつまり……。

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 つまり、大事だったのは、

「自分がどうしたいのか?」
「自分がどうしたくないのか?」

 ってこと。



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ひじで起き上がり戸棚までそろそろと歩いていくと、引き出しから手紙を出して細かく破った。
やっとはっきりわかった。ぼくはだれにも訪ねてきてほしくないんだ。

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 けど、たとえ、だれかへ招待の手紙を出さないからといって、本当にだれにも来てほしくないわけじゃない。

 手紙を出さなければ、絶対にだれにも訪問してもらえない、ってわけでもない。

 扉を開けておけば、いや、せめて自分の窓さえ開いておけば、だれかが声をかけてくれたことに気づくことができる。

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 もちろん、手紙を出すのだって、大ありだ。


 とにかく、そうゆうのって(「気づく」のも「やってみる」のも)、だれかに急かされたり、「いついつまでにすべし!」、なんて言い渡されることでもない。


 結局は、ゆったりと自分自身に向き合い、自分のリズムを感じながら、自分のテンポでいくしかないしね。



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「オレは自分のテンポでいくよ」とカタツムリが言った。
「それはじっと立ち止まってるっていうこと?」
「それはオレのテンポの一部なんだよ」
 カタツムリとカメはしばらくずっと立ち止まっていた。

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 なお、「うだうだ考えるなよ!」と思っちゃう人にはこの本は向かない、という旨を念のため書き添えておきます。

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『話せるシェア本屋とまり木』の一つの本屋、『ぼくの中』より。

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