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vol.6 途上国の友人を助けるために事業を生み出したファーストペンギン〜シェリーココ:川口莉穂さんのはじめの一歩〜

ミチナル新規事業研究所、特派員の若林です。
組織に潜む「ファーストペンギン」が一人でも多く動き出して欲しい!という想いで知恵と勇気を与える記事を定期的にお届けしていきます。

第6号の記事では「パーニュ」と呼ばれる西アフリカで流通する伝統的な布から、日本人向けの浴衣を縫製し、現地の雇用創出をしている株式会社シェリーココの代表である川口莉穂さんの始めの一歩を紹介します。

一人の女性との出会いが生み出したシェリーココの原点

高校二年生の時、タイへ留学したことをきっかけに途上国の抱える社会問題に目を向ける様になったという川口氏。大学でソーシャルイノベーションや子供の心理について学んだ後もその想いは変わらず、唯一就職をしたいと思ったのはJICA(独立行政法人国際協力機構)だったそうだ。しかし、JICAは不採用になってしまい、大学卒業後に目を向けたのは青年海外協力隊だった。「JICA職員にはなれなかったけれど、青年海外協力隊というものがあったな」と思い立ち応募した。

青年海外協力隊とはJICAが実施するボランティア事業の一つで現在では事業発足から50年以上の歴史を持ち、これまでに4万人を超える人々が参加しているプロジェクトだ。

応募した後、現在の活動拠点でもある西アフリカのベナンに2年間、協力隊として派遣されることとなった。現地では学校保健の担当として、地域の小学校を回って手洗いなどの保健指導や、各家庭を訪ねるマラリア予防の啓蒙活動をしていた。そこでの人々との出会いが「シェリーココ」を生み出すきっかけとなる。

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シェリーココホームページより

赴任した彼女が一番驚いたのはベナンの人々の親切さと人懐さだった。陽気さと誠実さも兼ね備えた魅力溢れるベナンの人たちと出会っていく中で、家の近所に住むベルアンジュという中学生の女の子と仲良くなっていったという川口氏。その後、ベルアンジュの家に出入りをしているメメという3歳の男の子とその母親とも知り合いになった。

メメの母親はシングルマザーで仕立ての資格は持っているけれど当時は仕事がなく、ベルアンジュの家族からお金や食べ物を分けてもらって生活をしていた。そこでベルアンジュと「メメ親子のために何か出来ることはないだろうか」と相談していて閃いたのが、浴衣ビジネスであった。
パーニュのカラフルな色彩と柄で浴衣を作り、それを日本で売れば彼女の収入になると考えたのがシェリーココの原点だ。

「開発途上国を助けてあげよう」というような動機で買ってもらうものにはしたくなかった。

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シェリーココホームページより

協力隊の活動と並行して、浴衣の縫製を始めることを決めた川口氏は2015年に日本のクラウドファンディングサービスを使って資金を募った。結果、75人から合計70万円以上の支援を得ることが出来た。その資金を元にミシンとアトリエを構え、縫製をメメの母親ともう一人、パーニュの仕入れやアトリエ運営担当をベルアンジュという小規模な形での活動を始めた。

「開発途上国を助けてあげよう」というような動機で買ってもらうものにはしたくなかったというシェリーココの商品は、川口氏が現地に行って日本でも好まれるような柄の布を選定している。
そのこだわりもあり、注文をする顧客層もどんどん広がってきている様だ。
2017年に法人化してから3年経った現在では、浴衣に限らず雑貨やアパレルといった年間を通して需要があるものも製造している。

大学時代は「世界を変えたい」といった大きな夢を持っていたという川口氏の思いは、現地で活動をすればするほど形を変えていき、今はシェリーココの仲間たちと前に進んでいく事がモチベーションだと語る。ベルアンジュという一人の女性との出会いから一歩を踏み出した川口氏だからこそ、現地の問題に寄り添ったビジネスを展開する事が出来ているのだろう。

編集後記
『目の前の友人を救いたいという想いの力強さ』


株式会社シェリーココを設立し、カラフルな浴衣で人々を幸せにしながら、西アフリカのベナンにも雇用を生み出している川口莉穂氏の初めの一歩を紹介しました。この記事を書いていて、感じたことは「目の前の人を救いたい」という想いは強く人を動かすということです。

川口氏は多くのメディアで「途上国の支援に成功している女性」というような紹介をされていますが、それよりも強く彼女を動かしているのは「目の前の友人を救いたい」という想いなのではないでしょうか。

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シェリーココホームページより

青少年海外協力隊で出会った、ベルアンジュやメメといった方々は彼女にとって途上国に住む人という肩書きを超えて友人であった。だからこそベナンという日本からも遠く、決して整った環境ではない地においても長く想いを絶やさずビジネスを展開できている。

テレビや新聞で取り上げられている問題ではなく、目の前で困っている人を助けたいという想いから新規事業を生み出すことで、どんな困難をも乗り越えていける強いビジョンが生まれる。そして、それは救いたい人に最も寄り添ったビジネスになる。そんなことを教えてくれる川口莉穂氏の始めの一歩でした。


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