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CASE12:花のうつつ
数日前、僕の目の前に現れた彼女はとてもキュートだった。
雰囲気もさながら、マスクをはずした時のやわらかでさわやかな印象が離れない。
殺伐としている僕の課は、特に華もなにもない。
毎日大体決まりきった仕事にヒステリーな上司。
それを受け流すだけのチームメンバー。
自身もその中で波なく過ごす一人。
毎日が薄く、うすーく
過ぎていっていた。
「おはようございます。本日からお世話になります。よろしくお願いします。」
彼女は月曜の重ったるい朝に、突然やってきた。
誰も今日から新しい人が来るなんて、知らない。
知らない中での彼女の新しい存在感が、余計に存在感を増した。
マスクをしていてもわかる、彼女の温かいナニか。
そんな感情が内で気持ちを覆っている間に、あっという間に電話の嵐がやってきて、午前の時間は流された。
彼女とすれ違うこともなく午後に突入した時、デスクに転送電話が回されてきた。
「お疲れ様です。」
彼女だった。
とても忙しい中だから、そのままの声色で彼女に応答してしまった。
もっとこう、デートしてるみたいに喋りたい。
そんなのんきな僕に、彼女がややしどろもどろに一生懸命伝えてくる。
(どうしたのだろう。)
電話先の男が問い合わせと称してしつこく取り留めのない質問を続けるらしいのだが、あからさまに彼女に粘着しており困っているとのことだった。
僕が出た途端、相手の男は一瞬で切り上げた。
「ありがとうございました。」
笑顔でお礼を言ってきた彼女に、僕の気持ちは完全に恋まで達してしまった。
男というのは単純なもので、ヒーローができれば途端に自身や好意が膨らむのである。
それから毎日、彼女が出勤退勤する時のひと時が、張り合いや癒しに繋がっている。恋とは良いものだ。
彼女はそんな彼の好意を感じつつ
片耳に空いたピアスホールを耳にかけた横髪からのぞかせながら、足早に待っている彼女の元へと帰宅するのだ。
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