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『日本中の養蜂家さんに会って、蜂蜜やミツバチと仲良くなりたい』

蜂蜜を買ってきた。

今日は今年初めて採れた「さくら」の蜂蜜の販売日だ。SNSでそれを知った私は、40分ほど車を山に向かって走らせた。

その販売所はオープンしたばかりだ。養蜂家の方は30代くらいだろうか、ご夫婦で古民家をリフォームしたそうだ。

立地が谷間になっているため、雨の日は地中に水が集まるせいで、床が湿気でぼろぼろだったらしい。床の修復のために、軽トラで4往復してセメントを運び入れたそうだ。その日にちょうどお子さんが発熱してしまい、奥さんが手伝うことができなくなったため、最初から最後までご主人一人で仕上げなければならなかったという。


突然来て、いろいろ聞くのも悪いな、と思いつつ、自己紹介がてらに蜂蜜が好きなこと、今年になって本で色々と勉強し始めたこと、食べるだけでなく、石けんの材料に使うこともあることなどを話す。決して怪しいものではありません、ということを伝えたいのだ…。いや、明らかに怪しい…。


一体、私は何をしたいのだろう、なんのためにわざわざここに、二人に会いたいと思ってきたのだろう、と帰り道、ハンドルを握りながら考える。


「本物の」蜂蜜を探しているのは確かだ。


今回手にした山桜の蜂蜜も、本物に違いない。


けれど、本物が何なのか、私はまだ、よくわかっていない。


●蜜源である植物が、蜂の行動範囲である半径3kmの範囲にわたって農薬に犯されていないことは絶対条件だ。
●どうやって蜂の巣から蜜を取り出したのか、その方法もいくつかあって、方法によっては採集中に、誤って蜂を殺してしまうこともあるという。
●また、花の少ない時期の蜂は、何を餌にどんな風に育てられているのか。

そもそも、半径3km以内が農薬不使用の畑や果樹であることは、日本の里山では難しいと言われている。

こんな風に、頭では知識としてわかっているのだけれど、五感ではまだ分かりきっていない。


書物の中で、「これが本物の蜂蜜です」と言われているものを取り寄せて食べてみた。海外の物だ。著者が言うところの「本物」と言われている蜂蜜の味を知るためだ。その時は、(それを基準として、日本中の養蜂家さんの蜂蜜を体験したい)と思っていた。

しかし考えてみたら、失礼な話だ。
養蜂家さん達は、それぞれの思いと労力をかけて蜂を飼い、蜜を採集している。彼らにとっては、自分の蜂蜜が正真正銘、『本物』だろう。本物があれば、偽物がある。養蜂家さん達に対して、あなたの蜂蜜は偽物です、なんてことは言いえないし、言うつもりはない。なんだか、思っている以上に物事が複雑で、自分が嫌になってきた。


私は、決して、ジャッジしたいわけではない。きっと、「本物を知りたい」と思うその先に、何か本音が隠れているのかもしれない。


なぜ、私は、こんなにもミツバチや蜂蜜に魅了されているのだろう。本物にこだわるのだろう。


子供の頃の記憶にある、ミツバチとの戯れが忘れられないのかもしれない。

生き物が好きだった私は、花壇に咲くマツバボタンに集まるミツバチを、至近距離でずっと眺めて観察していた。足に黄色い玉をつけて羽音を立てるミツバチと私は友達だった。目と鼻の先にいても、悪さをしなければこの子達は刺さないと信じて疑わなかった。


書物にあった、『日本で「本物」に出会うことは難しい。ほとんど不可能だ』というくだりを思い出す。きっと、私はその言葉が引っかかっているのだろう。「できない」とか「不可能だ」とか言われると、私はいつも疑問に思ってしまうのだ。私はどこかで、可能性を感じているのだろうか。





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