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NUMBER GIRLに魅せられて

オーストラリアにて韓国のソジュと呼ばれる酒で酔いを回しながら、俺はテレビの大画面の前で彼らがやってくるのを待っていた。文明の利器によって現在は世界のあらゆる場所へつながることが可能になっている。動画サイトの王様Youtubeを通しての今夜の行き先は、新潟は苗場スキー場、FUJI ROCK FESTIVAL white stageだ。


日本時間21時30分


ほぼ定刻通りに彼らはステージに登場した。入場曲であるTelevisionのMarquee Moonが流れ、メンバー各々が殺伐とした雰囲気でそれぞれの楽器のもとへ向かう。

眼鏡をかけたボーカルギターは衛生にかなり気を遣っているのか、ギリギリまでマスクをつけたままだった。もしかしたら、これもこの男による何らかのメッセージなのかもしれない。あまり直接的には物を言わず、ぼんやりと聴衆に感じとらせる、そのような男なのだ。そこがまた粋である。

ライブが始まった。無駄が一切削ぎ落とされた、そして我々ファンにはお馴染みの決まり文句で演奏を始める。


「福岡市、博多区からやって参りました、NUMBER GIRLです」


邦ロックのバンドの数は限りなく、今後も様々なバンドがシーンを騒がせるのは間違いないが、このNUMBER GIRLが僕の中で一番のバンドであるというのは以降もおそらく揺るぐことはないだろう。2003年にサッポロのライブで解散し伝説と化したこのバンドは、一昨年2019年に再結成を発表。多くのロックファンが歓喜した。嬉しすぎて日本から豪州にいる僕まで電話してくる知り合いもいた。彼らの復活はそのくらい、バリヤバイことだったのだ。

フジロックへの参戦は20年ぶりとなったNUMBER GIRL。普段は酒を飲みながらパフォーマンスを行うボーカル向井秀徳だが、今回のフジロックはコロナの影響もあり一律禁酒令が出され、シラフでの演奏を余儀なくされた。人一倍の酒豪が、ルーティーンである酒を欠いてのライブ……

だが若干の不安は、すぐにかき消される。

メロディを維持しつつも自分の全てを吐き出すかのような形相で歌い、叫ぶ向井。突き刺さるような金属音で楽器の先頭を走るギター田淵ひさ子、それだけでも音楽が成立しそうな重低音を放つダウンピッキングオンリースタイルのベース中尾憲太郎47歳、そして豪快、かつ正確なリズムでバンドを支えるドラムスアヒトイナザワ。これらが重なり合って作られる音楽はお互いの楽器を尊重しながら奏でられるアンサンブルとは違う。一人一人が剥き出しになって音を吐き出した結果それが巨大な念のカタマリを形成し、襲いかかってくるのだ。

20年もすれば「衰え」も少しはありそうなものの、彼らの前ではそんな言葉も消し炭となる。これがあと数年で50になろうという人間から繰り出される音楽か、、、彼らが作り出した念のカタマリは、国境を越え海を越え、またしても僕をロックトランスフォームド状態へ導いたのだった。


NUMBER GIRLが僕の心をここまで感傷的にさせるのは何故だろう。言及しすぎると野暮ったくなりそうなのだが、おそらく彼らが表現する「和」の側面に魅せられているのだと思われる。楽曲一つ一つにどこか「日本らしさ」が宿っているのだ。

この「日本らしさ」を形成する要素の一つに、ボーカル向井秀徳が手掛ける詞がある。彼の用いる言葉は一つ一つが印象的で、美しく、場合によってはどこか不気味だ。代表曲『透明少女』のような日本に住む若者たちの「青春」をこれでもかというほどに凝縮したものや、芸者、ZEGENといった古き日本を想像させるもの、人と人との関係が薄れてしまった冷たい大都会を表す「冷凍都市」という言葉は、バンド解散後の向井のユニットZAZEN BOYSの楽曲でも多く用いられている。

また、この日本的な部分は詞だけでなくメロディからも感じ取ることができる。音楽はほぼ「聴く専」で理論的なことへの知見は浅く詳しく説明はできないのだが、従来のロックでみられるようなものだけでなく、どことなく日本的な、つまり数百年前に三味線で奏でられていたかのような旋律が含まれているように思える。NUMBER GIRLがアメリカのバンドpixiesに多大な影響を受けているのは歌詞や曲名にその名前が出てくることから間違い無く、バンドのサウンドも頻繁に比較的されることがあるが、しかしpixies含む他のバンドにはないような、NUMBER GIRL独自の「和のサウンド」があるのは間違いない。ちなみに向井はギターだけでなく三味線も所持しているらしく、夜中に大音量で弾きすぎて「五月蝿い」と苦情が来たこともあるそうだ。

NUMBER GIRLの楽曲でどれか1曲を勧めろ!と言われた非常に返答に困る。1曲に絞れないというのも勿論だが、マイベストはその時のコンディションや感性の変化によって変動する。しかし最近になって「一番かも」と思い始めたのが、近日のライブでもよく演奏される『鉄風 鋭くなって』だ。音、言葉、PVの演出、あらゆる部分で彼らが表現する「和」を感じることができるのではないかと思う。

こういったジャパニーズスタイルのテイスト、及び轟音かつ研ぎ澄まされた演奏が、NUMBER GIRLをNUMBER GIRLたらしめているのである。異国からやってきたロックンロールサウンドと、トラディショナルとモダンを掛け合わせた「日本」をここまで強い世界観で、バリカッコ良く表現しきっているバンドは他にいないのではないだろうかと今でも思う。


現在も何とか生きがいを見つけつつ命を凌いでいる僕だが、少なくともNUMBER GIRLのライブを生で見るまでは生き延びるしかなさそうだ。伝説を目撃するのは、今しかない。

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