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オーストラリア落語録

大学で落語研究部に所属していた僕は、人前で噺を演じることの楽しさにハマっていき、学生生活のほぼ全てを落語に注ぎ込んだ。落語だけではなくもっとあんなことやこんなこともしとけば良かったなぁという後悔もあったりするのだが、個性の塊である面白人間の方々との人脈、人前に立つ度胸、そして落語ができるというスキルなど、得るものも多かったことは間違いない。

大学を卒業してからも空いた時間で素人として数ヶ月に一回ほどの頻度で落語を行っていたのだが、ありがたいことにオーストラリアでの海外生活を始めてからも、様々な場所で落語をする機会を設けていただいた。今回の記事では、僕が豪州のどのような場所で落語を行ってきたかということをまとめていきたい。


〇現地の日本語を学んでいる小学校

オーストラリア在住の日本人がよく用いるサイトで、日豪プレスというものがある。

いわゆるクラシファイドといわれるもので、現地の最新情報やイベントの他、求人や、住まいの情報などなどオーストラリア生活を始める人にとって多くの貴重な情報が載っている。ワーホリ勢でこのサイトを知らない、という人はおそらくいないだろう。

2019年8月当時ブリスベンに住んでいた僕はこのサイトをよく散策していたのだが、そこで日本の文化を知ってもらうために、現地の子供たちに向けて日本の伝統的娯楽の発信をしている事業の情報を入手した。何でもそういった伝統的パフォーマンスができる人を探しているらしい。

伝統的パフォーマンス・・・俺落語できんじゃん!

勢いでメールを送ると相手方の反応も良く、あっさり次の公演に参加させてもらえることが決定した。実家に閉まってあった大学時代の着物を母親に送ってもらい、同年9月末に本番を向かえる・・・

しかしながら、結果はドンズベリであった。

演じた落語は『寿限無』。オーソドックスで、かつ子供にも分かりやすいものを選んだつもりだったが、今思えば明らかに易しくない演じ方をしてしまった。その学校の子供たちは日本語をある程度理解できる、とのことだったが、古典落語の台詞そのままで話してしまうと、現代の言葉とどうしても差異が生まれてしまうため、まず何を言ってるか分からなかっただろう。「お前さん」なんて言葉は今じゃあ使われない。噺の速度も子供に理解してもらうには速すぎた。導入で落語とはこういうものですよ、一人の演者が複数の人を演じますよ、というのも説明したものの、それも伝わりきってなかった部分があったように感じる。

その他細かい反省は数多くあるが、演じていた時の僕の心境については子供たち、そして後ろで見てた先生方の「なんやこれ、おもんな」という空気が伝わってきてとても恐ろしかった。この公演は僕の人生の中での一番の黒歴史となっているのだが、この経験で海外で落語をする度胸がついたことを考えると、一つの大きなステップとなった出来事だといえる。


〇FM放送

こちらも前述した日豪プレスで見つけた活動だが、一昨年の6月から、僕は現地のコミュニティラジオ局にて日本人向けの日本語放送をボランティアとして行っている。プロではないが、ラジオパーソナリティをやっているのだ。

放送内容は番組やその時の担当等によって若干変化するが、僕が主に担当している火曜日18時からの生放送では、ローカルのイベント情報やオススメの楽曲紹介などを現地で暮らしている日本人向けに話している。そしてその放送の中で、担当者が10分間自由に好きなトピックを喋っていいよ、というコーナーがあるのだが、そこで時折落語をラジオ局のマイクを通して披露している。公共の電波に自分が生で演じる落語を流す…我ながらなかなか横柄なことをやっていると思う。

この僕の落語コーナーはリスナーさんからはどう受け取られているかは分からないが、少なくとも一緒に番組作りをしているラジオメンバーの方々の反応は悪くない。日本で落語を聴いたことがある僕より年代が上の方から、「この噺聴きたいー」なんていう要望もあったりするからそれに合わせて噺を用意するのも楽しかったりする。

ラジオはコロナ禍によりメンバーが少なくなりつつあるが、現在も活動中、そして絶賛メンバー募集中だ。ブリスベン近郊に住んでいてラジオに興味があるという方、ぜひお待ちしております。


〇カブルチャー寄席

現在はカブルチャーという田舎町の日本人が集まるシェアハウスで暮らしている。その家で暮らし始めて数週間ほどのことだ。雑談の流れで当時のハウスオーナーさんに僕が落語ができることを話したら、「よし、じゃあやるか!」と開催されることになったのが、カブルチャー寄席である。

「寄席」という名前がついているが、住人やその友達が各々やりたいパフォーマンスを持ち込んで何でもやっていい。いわゆるパフォーマンス大会である。過去に行われたものは、落語、ラップ、映像制作、DJ、少林寺拳法、絵の展示、散髪などなど。昨年8月頃から始まり、現在も定期的に開催されている。

Youtubeで上がっている動画がこちら。この時の噺の出来は微妙だったので載せるのがちと恥ずかしいが、「本当にやりましたよ」という証拠として提示させていただきたい。ただあんまり見ないでね。

このカブルチャー寄席では落語にあまり触れたことのない、初めて聴くという方も一定数いらっしゃるが、感触は良い方だ。今月末にも開催される予定で、現在はどのネタをやるか思索中である。また、最近は落語だけでなくギター弾き語りも披露するようになった。表現をするという行為は素晴らしい、そして表現ができ、他人の表現を見ることができる機会というのは本当にありがたい。僕が豪州からいなくなってもこの寄席は続いていってほしい。


おわりに

「落語ができる」というのは他の人があまり持っていない稀有な特技であることはもちろんだが、落語が架け橋となってこれまでの人生で得ることができたものは本当に数多くあると記事を書きながら感じた。今後も新しい何かを引き寄せてくれることを願う。

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