オフィサーズ

「で、こっちがまずいコーヒーで、こっちが不味くないコーヒー。あたしの個人的な意見だけどね。」
真っ暗なオフィスの中、自動販売機だけがぼんやりと青白く、あたりを映し出していた。
自販機の前、千田さんと僕は体育座りで話している。

「遠藤くんさ、聞いてもいい?」
千田さんは伺うように切り出した。

「なんでこんな真夜中にあんなところにいたの?」
僕は自分がエントランスの前でうずくまっていたことを思い出す。

「カードキー……。忘れちゃったんで……。」
「違う違う。なんでこんな夜中の2時にあそこにいたのって聞いてるんでしょうが。今日は21時には上がってたでしょ?」

「ま、だいたい察しはつくんだけど。」
自分のやるはずだったことを見透かされたようで、ドキリとした。

「それは、液体を使いますか?」
急に千田さんは言った。
僕が唖然としていると、彼女は不敵な笑みを浮かべた。
「YESかNOで正解を当てるゲームだよ! あたしこういうのうまいの。」

「いや、正解って……。」
答えるべきなんだろうか。
「の、……ノー。」
緊張で唾を飲み込んでしまいそうになる。

「それは、毒性の高いものですか?」
「YES……です……。」

「部長の机にでも仕掛けとくんでしょ!」
終わった。嘘ついてもいいがこの人はすべてわかってるんだな、と僕は悟った。
「はい。」

「あはは、やった! 当たり!」
意外なことに、内容うんぬんより、彼女は当たったことの方が嬉しいようだった。

「あの……僕……。」
「あたし、嬉しいよ。遠藤くん、入社してからあんまり覇気が無い感じだったし、こんなバイタリティあるなんて思わなかった。」
「でも、カードキー忘れちゃったなんて、準備不足だね!」
千田さんは先輩らしく、それでいて女性らしく可愛い笑顔を浮かべた。
でも、今の状況には相応しくないのではないだろうか。

「まあ、あたしも、準備不足だったんだけどね。」

僕は気づいたようにポケットを漁り、ライターを取り出した。
「千田さん、さっきからその鞄に入ってる瓶、きっと火炎瓶ですよね。」
「当たり。」
彼女は満面の笑みだった。

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