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UXデザイナーに必要な5つのこと

私は『UX』という言葉が日本では浸透していなかった2000年頃からUXデザインやインタラクションデザイン(UI, IXD)をしていました。つまり20年以上もう携わっていることになります。実際は、それよりも前に、ユーザーの感情や感性と体験についての研究開発もしており、今でも当時の知見は役にたっているので、かなり長くUXデザイナーとして生きてることになります(脳波や発汗値を計ったりもしていたのです)。

独立してから「UXデザイナーには何が必要ですか?」「どんなことが大事ですか?」と聞かれることが増えました。そこで、オススメの書籍や手法とかではなく、私ならではの視点(独断と偏見含む)で、UXデザイナーに必要なことを綴ります。どちらかというとマインドセットに近い内容です。

※ここでは「UX」と言う言葉を使いますが、「CX」(Customer Experience)や「BX」(Brand Experience)でも同じことが言えると思います。

大事な5つ

私が重要だと思うのは以下の5つ。

・憑依する
・無色透明になる
・無限の視点をもつ
・なぜ?という感覚を常にもつ
・相手は人間であるということを忘れない

憑依する

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UXデザイナーに大事なのは、顧客の気持ちを知り分析し理解することです。ユーザーであれ見込み客であれ、その人の気持ちにいかに成れるか。UXでは、そのサービスやアプリなど使っている時ではなく、それ以前の体験(予期的UX)からはじまり、利用後の体験などもトレースしていく必要があります。

学生をユーザーにおくならば、朝起きて通学、学校で授業をうけて・・・そんな日常生活を思い浮かべますが、それは自分の過去の体験を引き出してくるだけではダメなのです。あくまでも貴方の学生時代の体験であって、今の学生とすでに環境含めて違っているからです。

「憑依する」と書いたのは、まさに、ユーザーなり見込み客なり想定する顧客に憑依し、その人の体験、心情、価値観などを疑似的に主観し理解することになります。

現実的にはそんなことできません。なので、憑依した状態に近い状態を作れるようにします。具体的には、

・まずは自ら体験する(主観)
・その顧客と近い価値観や環境に身を置いてみる(染まる)
・ヒアリングやインタビューする(客観)

他にも色々ありますが、あえて私が推したいのが、上の2つの「自ら体験(主観)」と「身を置く(染まる)」です。

自分の価値観や生活とは全く異なる環境や価値観の中に自らを飛び込ませるのは勇気がいります。しかし、なぜユーザーはそのような行動にでるのか、どうしてそう思うのか、というのは、その世界に入ってみないと分からないことも多いのです。

朝一でパチンコ屋の前で並ぶ、夜中のドン・キホーテでたむろってる子と少し仲良くなる、超富裕層の人達のパーティに紛れ込ましてもらう...

その他、ここにかけないような事を色々やりましたがどの染まる体験は私にとっては糧です。

憑依には、その人の価値観や感情に「同意」する必要はありません。人間ですから、考え方は様々です。体験しても「自分はこの価値はわからないな」「なんでこれが面白いの?」というのは当然でてきます。そういった自分の価値は隣においておき、主観・客観的な感覚や分析結果をうまくシミュレーション、再構成する感じです。

アラフォーのおじさんが、女子高生になれるか、というと難しいのですが、ある程度ロジックなりを体験したりしていくと、憑依した世界では「かわいい!」と感じ始めるので不思議です。自分にふと戻ると「え?なんで?」なんですけれども...

とにかく憑依に大事なのは、やはり「体験」なのです

無色透明になる

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これは「憑依」の逆で、何にも染まってないニュートラルな状態をつくることです。人は皆それぞれ価値観が違います。考え方・宗教なども異なります。それは悪いことではなく、普通のことです。また、それらの思考も状況によって人は簡単にぶれるのです。これをバイアスがかかっている、とも言います。

ユーザーがどう思うか、感じるか、良いのか悪いのかを考え体験を創っていくUXデザインにおいて、自分の価値観がついつい出てしまうのは仕方ないのですが、それを極力無くし、バイアスや偏見や特定の価値観や経験で捉えない、ニュートラルな状態で考える必要があります。

バイアスや特定の価値観は、時に大事な事象を曇らせ蓋をして見えなくしてしまいます。または誇張するかもしれません。次に説明する「無限の視点をもつ」ためには、自分の価値観や考え方を無くし、無色透明に近づけるのも大事なことです。

無限の視点をもつ

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UXに限りませんが、様々な視点で事象を捉えるのはビジネス上でも重要です。

視点は高さだけに限りません。広い視点も大事ですし、特殊なフィルターを通して、普通見えないモノコトを見る視点も大事です。

それは一眼レフカメラのレンズを沢山持っているイメージです。マクロレンズで細かくみたり、望遠レンズで遠くの見にくいものを見る、明るいレンズで周りはぼかして中心だけしっかり見る、偏光フィルターをつけて見やすくする...

もちろんレンズだけでなく、カメラを持つ人がねっ転がったり、脚立にのって構えたり、レンズ以外でも視点は変えられます。

このように1つの事象に対して色々な視点を変えるには、そのレンズとなる領域の知見なり体験が必要になってきますが、そういう視点があることを知ってるだけでも充分武器になるはずです。誰かがそういう視点で分析してくれます。そのレンズをもっている人を連れて来ればいいのです。

女性視点では?初見者の視点では?外国人の視点では?地域住人視点では?toB視点では?などなど。

色々体験や勉強して自分自身でそのレンズなりポジションを持てれば強みになると思います。そのためには、IT業界でのUXデザイナーであっても、行動経済学や認知学とかを知ってみる。音声UI(Voice UI)関連であれば、音韻学やコミュニケーション学などを勉強してみる。

どんな学問でも雑学でもなんらかしかUXには役に立と私は思っています。これという一本凄いレンズ(専門)をもっておくのも良いかもしれません...

なぜ?という感覚を常にもつ

一言で言うと「名探偵コナンになる」です。

普通の人が気がつかない違和感を彼は感じて謎を解いていきますが、そういう違和感センサーはあったほうが良いです。

ある時、セミナー登壇のためセミナー会場を訪れました。エレベータ上がると、セミナー会場の看板があり、壁に矢印で印があり、無事に受付会場につきました。その間に、
・エレベーターホールに時計があるけど、これなぜここの位置なんだろう
・なぜこの向きに看板をおいたのか?こっちのエレベータから出たら見えないのに
・なぜこの高さに矢印にしたのだろう?日本人の視点の平均の高さが確か...
・非常口やトイレのサインがシンプルでいいなぁ....
・にしては絨毯と壁のトンマナがあってないな

これはかなり極端なところですが、五感センサーが色々拾ってきて頭の中でかんがえ始めます。常にこんな状態だと散歩も疲れてしまいますので、ある程度、そこは「考えないモード」にしますが、職業柄なのか、色々考えてしまう癖がついてしまいました。

違和感センサーを鍛えるには、逆の正常状態の「なぜ」を理解することが大事です。当たり前のことは無意識になっていくので、それを意識するのは変えって難しいものです。

トイレの男女のサインの違いを何で意識していますか?

日本人は「色で区別する」が大半です。青色系=男性、赤色系=女性、と認識してませんか?女性を青色に、男性を赤色にすると、間違って入ってしまう人がいるのですが、海外では色分けは少ないのでそういうことが起こらないのです。

なんで男は青色なんだろう?と感じないとこういう事象にはたどり着けません。

意識的ではなく無意識にユーザーが良いと感じる体験を創るには、創る側としては「無意識を意識的に作る」必要があります。そのために、「なぜ?」という感覚を持って、普段の無意識下にある正常状態を理解しておくことが重要なのです。

相手は人間であることを忘れない

UXにしろCXにしろ見るべきは人間です。人間は人間行動学などを勉強すると論理的な部分もあれば、感情感性などまだ充分解析できていない部分もあります。

UIのテストをしても、全く内容を変えてなくても、今日と明日では違うコメントをするひともいます。直前の感情で左右される人もいます。人間の面白い部分でもあり、また解析しにくい側面です。

そもそも人間の五感はアナログ的です。これだけテクノロジーが進歩しデジタルが身の回りに溢れたからといって人間の感覚は桁違いにこの100年でかわっていません。モニタをよく見るから目が良くなったかというと寧ろ逆です。タッチパネルを良く触るからといって触覚が10倍100倍よくなったかは疑問です。

価値観や思考は人それぞれです。体験に対する反応も100人いたら100人違う可能性があります。そんな中で「体験」を創っていくUXデザインはなんと難しい仕事なんだろうと。

コンピューターやシステムと違って入力に対して必ずきまった出力が出る訳でもないのが人間で、それを相手にしているということを改めて理解した上で、どうアプローチすべきかを考え、そしてそれを関係者関係部署にも分かって頂けるようにする、それも大事なことです。やってみないと分からない、そういう側面も充分あるし、「絶対」という言葉が通用しないのも人間相手だからだと感じています。

もちろん、だからこそ、そのふわっとした、不安定な人間の行動や心情を捉えるために、多くのUXデザイナーや専門家が、さまざまなリサーチ、分析、プランニングなど手法を編み出してくれています。それらツールを鵜呑みにするのは危険ですが、なんかしらの定規や視点をもって見ていくことは、最初の一歩としても大事だと思っています。

まとめ

私がソニーに勤めていた時は常にグローバル(世界)を意識していました。ソニーの商品やサービスにおいて「日本だけで売る」なんてことはなく、基本的に世界中で売ること、利用することが大前提です。最初から世界の人々がターゲットです。

よって、日本人の感覚だけでUXデザインしていたらダメなのです。様々な宗教や民族、文化の違いのなかで、良い体験・良いモノを創るには、自分を時には無色透明にしてニュートラルに捉えたり、その国の人に憑依したり。場合によっては、心理学や文化人類学などのアカデミックな領域から知見を引き出したりしました。

そこまでやっても企業においては、予算、ブランド、戦略面といったビジネスの問題と直面し、各部署関係者とネゴシエーションしていく必要がでてきます(良く言えば交渉、悪く言うとバトルです)。

私自身、完全憑依も完全無色透明化はできていません。恐らく人間である以上は無理なんだと悟っています(本題と矛盾してしまいますが笑)。どうしても理解しにくい価値観とかやはりあります。しかし、なんとか近づけるための努力は、良い結果を出す糧になると信じています。

「UXに100点満点はない」と思うのですが、とはいえ、限りなく満点に取れる日をめざして今日も体験創りの旅にでかけます...


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