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第六章 独立戦争

 着替えてから、艦橋に戻ると、副長が私を出迎えた。
 「よくご無事で。本当に心配しましたよ」
 副長は私の手を取って喜んだ。私はちょっと驚いたが、あまり構っていられなかった。
 「すまない。状況、どうなっている?」
 「戦闘は極力回避しています。ですが一部の僚艦が反撃しました」
 副長は一瞬、私の横に立つジュリヤンを見た。
 「命令を徹底させろ。ところで何名戻れた?」
 「十四名です」
 私は瞑目した。半分以上帰還できなかった。壊滅的な数字だ。
 「僚艦と連絡を取れ。救出作戦について協議する」
 その時、通信席に座るレアがこちらを向いた。
 「艦長、ニキアス司令から出頭命令が届いています」
 とうとう来るべきものがきた。解任させられるかもしれない。
 「分かった。これから上がると伝えよ。連絡艇は?」
 「準備できています。救出作戦の協議は?」
 副長は艦長席と私を見比べた。
 「度々すまない。任せる」
 副長は黙って敬礼した。私は艦長席には戻らず、艦橋を後にした。
 「ジュリヤン。ちょうどいい機会だ。ニキアス司令と会見しよう」
 エレベーターの中で私がそう言うと、ジュリヤンは頷いた。
 「理由ができたね」
 「部下の命と引き換えにな」
 私がそう答えると、ジュリヤンは沈痛な表情を浮かべた。
 「何を話すのか知らないが、私はジュリヤンがこの星に必要な人間だと思ったから、助けたのだ。それだけは分かってくれ」
 ジュリヤンは黙って頷いた。彼は悪くない。死んでも構わない、自分を助けるなと言った。だが私は助けに行った。だがそれでも私は、素直に喜べない。部下の死もあるが、助けられた本人が、どこかよそよそしかったからだ。
 「ジュリヤン、私が来る前に、彼と何を話していた?」
 私がそう尋ねると、ジュリヤンは苦い顔をした。
 「まぁ、その色々とね」
 私はますます不機嫌になった。
 「話し難い事なのか?」
 「いや、そんな事はないよ。そんな事はないけれど、心の準備が出来ていなくてね」
 ジュリヤンらしからぬ、はっきりとしない言い方だった。
 「そのうちに話すよ。でも今はやるべき事がある」
 私はその言葉を信じる事にした。

 ニキアス司令との会見場所は、艦隊旗艦の司令室だった。連絡艇で上がった時、ジュリヤンは宇宙が初めてだったようだが、何も感想を言わなかった。彼は私の隣でずっと考え事をしていた。私が入室して敬礼すると、ニキアス司令はジュリヤンをちらりと見た。
 「様々な報告が届いている。下の様子はどうかね?」
 黒い軍服を着た初老の提督は、椅子から立ち上がると、微笑んだ。
 「あまりよくない状況です」
 私は率直に答えた。
 「戦闘があったようだが?」
 「はい、ですが限定的で小規模なものです」
 これは嘘ではない。だが問題があった。
 「五十名の陸戦隊を臨時編成し、三十六名の未帰還との報告もある」
 やはりこの件か。恐らく責任を問われるだろう。
 「その件につきましては、後ほど詳しく報告します」
 「分かった。ところで報告にあった人物とは彼かね?」
 ニキアス司令はジュリヤンを見た。
 「はい、そうです」
 私がそう答えると、初老の提督はしばらく考え込んでから言った。
 「本来ならば、このような形で会見する事もないのだが、事情が事情ゆえ特別に配慮した。君がどうしてもあの星に必要だと言う人物で、我が軍の生体兵器を使って救出した人物だからな。私も興味がある。なおここから先は記録しない。自由に発言したまえ」
 私は戸惑った。いくら非公式の会見とは言え、記録なしではほとんど意味がない。だがジュリヤンは私を見て、構わないという顔をした。一体何を話すつもりなのか?
 「私は艦隊司令のニキアスだ。よろしく」
 ニキアス司令は普通の人間だ。念話ができない。そしてジュリヤンは、ピュールの言葉を知らない。だから私が、司令の言葉を念話で、ジュリヤンに伝えた。
 「ジュリヤン・カラヴェルです。ラ・マリーヌの存在を、ピュール以外の勢力にも知ってもらいたいと思って、今日ここに来ました」
 私がジュリヤンの念話をそう通訳すると、奇妙な沈黙が生じた。
 「ほう、なぜそう考えたのかね?」
 初老の提督は、目を細めてジュリヤンを眺めた。
 「ラ・マリーヌは長く鎖国していた星です。存在が知られていません。まず宇宙の同胞達に、この星の存在を知ってもらいたいのです」
 今のところ、ラ・マリーヌの存在を知っているのは、ピュールだけだ。つまり、ピュールの独断で、ラ・マリーヌを秘密裏に処理できる。だが他の勢力がラ・マリーヌを知れば、少なくとも秘密裏に、処理する事はできなくなる。
 「なるほど、それはもっともな話だ。だが君達にその手段はあるのかね?」
 ニキアス司令がそう尋ねると、私は軽い怒りを覚えた。だがジュリヤンは言った。
 「ありません。ですからそのお願いをしに来たのです」
 初老の提督は、床を見ながら、後ろに手を組んで歩いた。
 「ピュールが君達の星を公表して、どんな見返りが期待できるのかな?」
 「ラ・マリーヌから信頼を得られます。同時に宇宙の同胞からは、新しい投資対象として、見なされるかもしれません」
 私がジュリヤンの念話を通訳すると、ニキアス司令は笑った。
 「君は自分の星を過大評価していないかね?」
 「いえ、そうは思いません。航路の関係から言って、ラ・マリーヌは重要な位置にある星です。このような場所に有人惑星がある事は、ピュールにとっても利益になるはずです」
 私は驚いた。なぜジュリヤンがそんな事を知っているのか。
 「軍の星図には載せよう。だが特別な宣伝はしない」
 ニキアス司令は、初めてジュリヤンに警戒心を抱いたようだった。
 「それでは民間の投資が来ません。どうか広く宣伝して下さい」
 「投資はする。ピュールがな。君の言う通り、あの星は今後重要な星になる可能性がある」
 私は通訳していて、ジュリヤンが一瞬、心の中で喜んだのが分かった。
 「軍だけではなく、民間の投資も欲しいのです」
 「君は知らないかもしれないが、ピュールは軍民一体の組織なのだ」
 元々、ピュールは宇宙を彷徨う武器商人だった。今でも基本的な体質は変わらない。
 「ではピュールからは、どのような投資が期待できますか?」
 ニキアス司令は明らかに不機嫌になっていた。完全にジュリヤンの流れだ。
 「まだあの星について、十分な情報が得られていない。全てはそれからだ」
 「ならば、一つだけあの星の特殊事情をお教えしましょう」
 私とニキアス司令は、ジュリヤンを見た。
 「すでにご存知かと思いますが、あの星には大地がありません。全て海です。我々は気候が温暖化して、極地が溶けたこの星を救う手段を持っていません。ゆえに危機に瀕しています。それも重大な危機です。このままでは遠からず、我々は滅亡するでしょう」
 ジュリヤンの念話をそう通訳すると、少しの間、沈黙が訪れた。
 「それは気の毒な話だな。何とかならないものかな?」
 初老の提督は、本当に困ったような顔をして私を見た。
 「惑星改造技術を用いれば、気候の温暖化は止められます」
 あえて私がそう答えると、ニキアス司令はうんうんと頷いた。
 「なるほど、それも手だな」
 初老の提督は後ろに手を組んで歩いた後、振り返った。
 「だが君達は、空中都市に住んでいるという話を私は聞いたが」
 「ええ、そうです。ですが、我々の人口は減り続けています」
 ジュリヤンの念話をそう通訳すると、ニキアス提督は驚いた。
 「ほう。それは初耳だな」
 報告したはずだ。提督は忘れたのか、あるいは忘れた振りをしているのかもしれない。
 「なぜ人口が減っているのかね?」
 「理由は色々ありますが、第一の理由は生きた大地がないからです。空中都市の土地は仮の大地に過ぎません。死んだ大地ともまでいかなくても、生きた大地とは言えません」
 ジュリヤンの話は、少し論点がずれているような気がした。
 「それは食料生産の問題かね?」
 「それもあります」
 私がジュリヤンの念話をそう通訳すると、初老の提督は話を要約した。
 「つまり、土地がないから、人口が減っているのかね?」
 「そうです」
 「なるほど、だが本当にそうかな?」
 ニキアス提督は話を続けた。
 「かつてピュールは星を持たず、宇宙船の中で何世代も生活した時期があった。だがその時でも人口は減っていない。むしろ増えた。なぜだと思う?」
 それは建国以前の古い話だ。提督だって生まれる前の話だ。
 「その話は、我々の先祖の話に似ています。故郷の星テルを離れて、ラ・マリーヌに辿り着くまでの間に人口が増えました。恐らく彼らには、活力があったのではないでしょうか?」
 「その通り。だから星を欲した」
 初老の提督は、ラ・マリーヌの画像を立ち上げると、それを私達に見せた。
 「我々ピュールは、新興で若い星間国家だが、星を生かす術を知っている。古くて老いた星間国家とは違って、活力も意欲もある。そして歴史を見れば分かるように、古いものは、新しいものに、力なきものは、力あるものに、取って代わられる。違うかね?」
 「そうかもしれません」
 「君達の人口問題は、土地ではなく、活力が本当の問題なのではないかね?」
 ニキアス司令がそう指摘すると、ジュリヤンは答えた。
 「そうです。人口減少の真の原因は、活力の減退です」
 私はジュリヤンの念話を通訳し続けた。
 「そして活力の源は希望です。希望をもたらす新しい土地です。新しい開拓地、新しい分野の可能性が、人に活力を与える。この星は大地を失い、八つの空中都市に限られた時、外に広がって行く辺境がなくなり、希望を失ったのです」
 初老の提督は、黙って話を聞いていた。
 「今、下で争いが起きていますが、それは必ず治まります。それは軍事力の問題ではなく、選択肢の問題として、この争いは収まるしか道がないからです」
 「なぜかね?」
 ジュリヤンは説いた。
 「我々マリアン人は、ピュールの惑星改造技術を受け入れるしかないからです。そしてそれはお互いの利益を生みます。ラ・マリーヌとピュールの共栄共存です。なぜならば、お互いがこの星に、新たな大地を作る約束をした時、この星は生まれ変わるからです」
 「惑星改造については一考しよう。だがあれはとても時間がかかるぞ」
 「構いません。むしろその方が長期に渡る友好関係が築けます」
 ジュリヤンはそう答えた。するとニキアス司令は、私達を見た。
 「実に有意義な意見交換だった。記録しておくべきだったかな?」
 ジュリヤンは静かに首を振った。非公式の会見でも構わないらしい。後に彼が言っていた事だが、記録が残らなくても、ピュールの提督と会った事実は、この世界のどこかに残る。それが今後、どう影響するか分からないけれど、少なくともそれはゼロではないらしい。
 「ところで君の立場は、色々と複雑のようだが、今後どうするつもりかね?」
 「この星を代表する立場に就きたいと思っています」
 「具体的には?」
 ジュリヤンは一度眼を閉じてから、答えた。
 「紅い皇子になるつもりです」
 私は驚いた。そんな話は聞いていない。思わず、彼の顔を見たが、彼は何も答えなかった。その時、私の中で様々な思いが去来したが、ひとまず横に置いておく事にした。今はまだ提督と話さなければならない事がある。
 「そうか。では頑張りたまえ」
 初老の提督はそう微笑むと、ジュリヤンに言った。
 「彼女と少し話をしなければならない。すまないが外で待ってもらえないか?」
 ジュリヤンは一礼して、退出した。部屋には私とニキアス司令だけが残った。
 「さて、前置きが長くなってしまった。本題に入ろう」
 初老の提督は、椅子に腰掛けると、手元のキーボードを弾いた。
 「現場から様々な報告が上がってきている。だが今のところ、君を解任するつもりはない」
 ニキアス司令は、机の上に無数の青い窓を立ち上げた。
 「例の三ヶ国について、時間が必要ならば、多少の延長は認めよう」
 立体映像のラ・マリーヌが回転し、三ヶ国の空中都市が点滅した。
 「性急に問題を解決しようとして、後で問題が大きくなるのは避けたい」
 私は黙って頷いた。初老の提督は続けた。
 「だが反ピュールで新たな民を結集しているあの国は駄目だ」
 ブランが赤く点滅した。紫の公国の首都ヴィオレだ。
 「投降を呼びかけて、応じなければ、拠点となる空中都市を破壊せよ」
 提督がキーを弾くと、ブランを示す光点がふっと消えた。
 「それはブランを撃て、というご命令でしょうか?」
 私が確認すると、ニキアス司令は頷いた。
 「そうだ。投降に応じなければな。判断は現場の君に任せる」
 「了解しました」
 私は踵を揃えて、敬礼すると、靴音がやけに大きく響いた。
 「あとあの者についてだが、監視対象として扱え」
 初老の提督は、部屋の外を見ていた。
 「はい」
 「今のところ、無官に等しいようだし、行き先も不透明だ。だがあの者は、要注意だ。我々は彼に何も与えていないし、何も約束もしていない。全て非公式の会見で、記録なしだ。だがあの者は、何か目的を達したような顔をしていた。それが気に入らない」 
 私は何も答えなかった。
 「君はあの者と特別親しいようだが、君はピュールだ。それだけは忘れるな」
 「分かりました」
 ニキアス司令との話し合いはそれで終わった。

 「ジュリヤン、紅い皇子になるなんて、本気か?」
 連絡艇での帰り道、私は詰問した。
 「うん。それしかない。なれるかどうかはともかく、少なくともその資格がある」
 ジュリヤンは、イル・アンシャンテ・フローリスと血の繋がりがあるらしい。そして彼の両親は帝国貴族だったようだ。詳しい事情は分からないが、五年前も、それらしい話はあった。その後、何か新しい事が分かったのかもしれない。
 「紅い帝国は敵だぞ。ピュールに従おうとしない。本当にそんな国に行くのか?」
 「そうかな?彼らの腹は決まっていると思うけど」
 「どういう事だ?」
 「帝国内の反ピュールの勢力は、紫の公国に流れた。つまり、公国が代わりに戦ってくれるから、帝国が戦わなかったとしても、体面に傷がつかない」
 「降伏するのか?」
 「公国が滅亡した後でね。それまでの間は様子見している」
 私は沈黙した。これは全てあの男の計画なのか。
 「僕は彼に敬意を表するよ。上手く流れを作っている。彼は自分の計画が破綻した後も、帝国を存続させ、なおかつ避けられない戦いを、最小限の被害で食い止めようとしている」
 複雑な気持ちだった。素直に敬意を表する気になれない。
 「だが戦えば、犠牲が出る。ピュールが勝つにしても、感情的な対立が残る。分かっているのなら、負け戦など最初からするべきではない。何とかならないのか?」
 「彼は僕に言ったよ。どうせ戦うなら、一回で十分だって」
 どうやら私が行く前に、そういう話をしていたらしい。
 「僕は彼の提案を引き受ける事にしたよ。僕が紅い皇子になって、後始末をする。そして彼が切り開いた未来を、僕が継続する。帝国が穏健化するかどうかは分からないけれど、紫の公国が敗れた後なら、そうなるかもしれない」
 「紅い皇子になれるのか?」
 「分からない。でもなってみせる。それしかないと思う」
 私は心配だった。
 「ジュリヤンは五年間、帝国に命を狙われていたのではないか?」
 「ああ、そうだ。でもそれは彼の命令だった。その彼がいなくなるのだから、問題ない」
 ジュリヤンは、あの男が死ぬ事も前提にして、話しているようだった。
 「それでよくあの男は、ジュリヤンを紅い皇子に推薦したな」
 「僕を本気で殺すつもりはなかったそうだよ。僕の動きを止めて、共和国や王国にいられなくするためにしていたらしい。いい迷惑だったけど」 
 私は確認した。
 「ジュリヤンは、ピュールと敵対する意志はないのだな?」
 「当然だよ。さっき提督にも話したじゃないか。あれしかこの星が生き残る方法はない。少なくとも他の方法は、僕には思いつかない」
 ふと、さっきの話を思い出した。
 「ジュリヤンは、航路の関係から言って、今後ラ・マリーヌが重要な星になる可能性が高いと言ったが、あの情報はどこから手に入れた?」
 「ああ、あれははったりだよ。でも正解だったみたいだね」
 私はちょっと呆れた。
 「君が助けに来る前に、なぜピュールが本格的に攻めてきたのか、彼と議論していたんだ。その時に、そういう可能性もあるんじゃないかという話になった。それを言ってみただけだよ」
 「そうか。あれは駆け引きだったんだな」
 「駆け引きというより、小手調べだよ。僕は上層部の考えが知りたかったんだ」
 ジュリヤンは紅い皇子になりそうだ。素直にそう思った。時間はかかるかもしれないが、それでラ・マリーヌの代表になれるのなら、ピュールと上手く行くかもしれない。
 「分かった。ジュリヤンがそう決断したなら、私は応援しよう」
 するとジュリヤンは、なぜかちょっと寂しそうに微笑み返した。

 連絡艇でアナバシスに戻ると、私達はすぐに艦橋に上がった。
 「艦長、紫の大公の名前で、ピュールの代表宛に無線通信がありました」
 レアがそう報告すると、私は素早くその内容を確認した。
 「彼は何と言っている?」
 ジュリヤンが横からそう尋ねると、私は答えた。
 「明日、捕虜を引き渡したいそうだ。それから大公の結婚式に招待された」
 私は碧い姫からもらった招待状を思い出した。
 「副長、状況が変わった。救出作戦の協議は中止だ」
 「分かりました。連絡します」
 艦長席に座る副長が、僚艦への連絡を開始すると、私は空いている椅子に座った。
 「艦長、こちらへ」
 副長が慌てて艦長席から降りようとすると、私は手を上げて制止した。
 「いや、いい。どうせすぐにまた出かける。その間を頼む」
 「まさかまたあそこに乗り込むのですか?」
 副長が驚くと、私はジュリヤンを見た。
 「それしかあるまい。捕虜の引き渡しと言われては、私も断れない」
 ジュリヤンも黙って頷いた。
 「危険ですよ。罠の可能性もあります」
 副長は滑稽なほど必死になって反対した。
 「私はピュールの代表だぞ。殺してどうする?」
 「何言っているんですか!奴らの思う壺じゃないですか!」
 副長がそう叫ぶと、私はジュリヤンを見た。
 「そうなのか?」
 「いや、僕に訊かれても。でもまぁ、捕虜の引き渡しは外交と同じく、話し合いの場だから大丈夫だと思うよ。それに結婚式に招待されている訳だし。でも向こうにも色々な考えがあるだろうから、誰かに謀殺される可能性もゼロじゃないけど」
 「だそうだ」
 私が副長を再び見ると、横でジュリヤンが苦笑いした。
 「せめて専門の護衛をつけて下さい」
 「いや、邪魔だからいらない。もし帰らなかったら、副長が私の職務を引き継げ」
 副長は驚いた。
 「それは命令ですか?」
 「ああ、ニキアス司令から許可をもらっている」
 私がそう答えると、横でジュリヤンが反応したのが分かった。
 「艦長、今回は私も連れて行って下さい」
 レアが突然、そう言うと、副長も立ち上がった。
 「私も行きます」
 「いや、副長は駄目だ。艦に対する責任がある」
 「この艦の艦長は一体誰なんですか?」
 私は副長を無視してレアを見た。
 「私はこの星の言葉を学んでいます。もっとマリアン人を知りたいです」
 「分かった。同行を許可する」
 私はレアにそう答えると、再び副長を見た。
 「人員を選抜しろ。最低限度の人数でいい。それから紫の大公に、捕虜の引き渡しと結婚式にピュールの代表が出席すると伝えよ」
 副長の極めて不機嫌そうな返答が印象的だった。

 翌日、紫の公国の首都ヴィオレで、捕虜の引き渡しと、大公の結婚式があった。午前中に、捕虜の引き渡しが行われ、調理課の少尉とその他二十名が帰ってきた。私としては、必ず助けると言った嘘の約束が、思わぬ形で実現して、望外の喜びだった。
 同行したジュリヤンにその話をしたら、そういう事は嘘でも言ってみるものだねと言って、一緒に喜んでくれた。だが午後からの披露宴を考えると、憂鬱だった。反ピュールの盟主の結婚式に、ピュールの要人を招待するなんて、常識では考えられない。
 「あの男は一体、何のつもりで私を招待したのだ?」
 私は披露宴の式場に立ちながら、ジュリヤンにそう尋ねた。
 「さあね。冷やかしかもね。余興が好きなようだから」
 式場は、何度も会議場に使われた神殿跡の大広間で、お馴染みの場所だった。
 「捕虜の引き渡しが口実なのは分かっている。本当の狙いは何だ?」
 すると後ろからレアが言った。
 「艦長を暗殺してもあまり意味がない。本当に招待しただけかも」
 私は腕組みして首を捻った。
 「ただ祝ってもらいたくて、普通、敵を招待するか?」
 「彼はそういう男だよ。純粋に楽しみたいだけだと思う」
 ジュリヤンがそう答えると、私は彼を見た。
 「やけにあの男の肩を持つな。そんなに会いたいか?」
 「うん。でもこれが恐らく最後の機会だよ」
 ジュリヤンがそう言うと、私は沈黙した。確かにその通りだ。もう引き返せないかもしれないが、戦闘を回避するための、最後の外交努力の機会かもしれない。
 私は改めて考えた。私はこのブランを撃ちたくない。撃てば、必ず怨恨が残る。無人だったアルジャンとは違うのだ。恐らく今後の統治にも影響が出るだろう。だが反ピュールに傾いたこの星の住人を説得するのは難しい。
 あの男は、ピュールを強盗にたとえて、決起する理由を私に説明した。それは分かる。事実の一面を現していると思う。だがジュリヤンは、ピュールは惑星改造技術を持つ技術者に見立てて、単純な侵略者ではないと説明した。それも事実の一面を現わしていると思う。
 だが本当のところ、侵略者とは一体何なのだろうか?一体何を望んで侵略をするのか?単なる破壊や虐殺は何も生まない。銃を撃つのもただではないからだ。すると侵略も、何らかの見返りを期待した、投資活動の一環なのだろうか?
 だがこの星をピュールの版図に組み込んでも、当面の間は利益にならない。むしろ色々とマイナスに作用するだろう。この星がピュールに何らかの貢献をするまでの間、今後の苦労を考えると、占領前からこの星の総督の苦労が忍ばれる。全く侵略者も楽ではない。
 私は歎息すると、視線を転じた。大公の披露宴は、それこそこの星のあらゆる階層の人達で占められていた。中でも最大の勢力が、帝国出身の赤紫色の軍服を着た者達で、次いで王国出身の青紫色の軍服を着た者達が多かった。また少数だが共和国からの出席者もおり、この星の反ピュールの動きが意外に大きい事がよく分かった。
 このようなものを私に見せるのも、あの男の冷やかしで、余興なのだろうか?私はピュールの代表だが、司令代理に過ぎず、本当の責任者はニキアス司令だ。彼はこの星の総督の地位も兼ねている。総督の地位にある者が、このような光景を見ないで済むのは真に幸せな事だ。
 気がつくと、いつの間にか、式場の演台に司会進行役が立っていた。見覚えがある。確か碧い王国の王室特別顧問だ。私との会議で席を立った気骨があるあの老人だ。あいさつが始まると、私達は式場の一角から移動して、ピュールの食卓の前に集った。
 「艦長、この料理は」
 レアが食卓の近くに立つと、すぐに気がついた。
 「ピュールの料理だ」
 私が頷いて答えると、レアが一口すくって食べた。
 「ムサカですね」
 羊肉にトマトとナスを加えて、ホワイトソースをかけて焼いた料理だ。
 「我々のために用意したのか?」
 私が首を傾げると、ジュリヤンが答えた。
 「いや、そうでもないみたいだよ。他の人達のもラ・マリーヌの料理じゃない」
 改めて式場の食卓を眺めた。確かにそのようだ。
 「何のつもりだ?なぜこの星の人間が我々の料理を知っている?」
 思わず私がそう言うと、横から別の声がかかった。
 「艦長、お答えしましょう。それは我々が作ったからです」
 見ると、調理課の少尉が立っていた。私は呆れた。
 「何だと?これはどういう事だ?」
 「これが我々捕虜に課せられた労働でしたので」
 これは後で聞いた話だが、捕虜の大半が、調理課の者だと知った紫の大公は、大変面白がって、こういう事を思いついたらしい。全くふざけた男だ。
 「ピュールの皆さんを招待して、ピュールの料理を食べる。これほど紫の公国に相応しい披露宴はないと思いませんか?」
 あの時、紫の大公は、酷く爽やかな笑みを浮かべてそう言った。式場は爆笑の渦に叩き込まれ、私達はただ式場の一角で、侵略者としての矜持をいたく傷つけられながら、不機嫌そうに立っているしかなかった。
 私達が所在なく一塊になって、ピュールの料理をつついていると、車椅子に座った紫の大公が現われた。後ろには大公妃になったサンタンジェリク・ヴォートルダームもいる。
 「よお、お二人さん。楽しんでいるか?」
 「どうせなら、この星の料理が食べたかった」
 私が不機嫌そうにそう答えると、紫の大公は調子外れにけたたましく嗤った。
 「俺の嗜好がお気に召さなかったようだな。だが今日は、詰まらん話は止めにしよう。宴が終われば俺達は戦場に立つ。せめてその前くらい仲良くやろうじゃないか」
 虫のいい話だった。気に入らない。だがジュリヤンの手前、私は沈黙した。
 「テティスは俺が嫌いか?」
 その名前で私を呼ぶな。その名で呼んでいいのは、ジュリヤンだけだ。
 「どうやら大分、俺は嫌われてしまったようだな」
 紫の大公が、ジュリヤンと大公妃の顔を見て笑うと、突然サングラスを外した。
 「その顔は」
 私は思わずジュリヤンの顔を見た。二人の顔はよく似ていた。兄弟と言ってもいいくらいよく似ていた。紫の大公の方が年上だが、数年後のジュリヤンの姿かもしれない。
 「なぜ今まで顔を隠していた」
 「ああ、これか?それはだな」
 紫の大公は、懐から赤い羽眼鏡を取り出すと、ジュリヤンに手渡した。
 「眼に色々と障害があったからだ。俺は色が分からない身体に生まれついた。念話能力のせいだな。だが俺は若い頃、絵描きを目指していた。皮肉だよな。紅い皇子などと名乗っていても、肝心の赤が分からない。だから俺の絵は全て素描に留まった」
 その時、私の中で、何か思い出しそうになった。
 「覚えているか。五年前、お前達二人の絵を描いたサングラスの男がいた」
 急に思い出した。緑の共和国ヴェルでの逃避行の時の事だ。
 「あれは俺だよ。お前達は気がつかなかったみたいだが」
 紫の大公はそう言うと、出し抜けに大笑いした。
 「傑作だったぜ。あの時、殺しておけばよかったかな」
 私は思わず俯いた。
 「だがあの時、俺も命掛けで潜入したからな。他所の国で事件を起したら、ただでは帰れない。それにお前達が本当はどんな奴らなのか、この眼で確かめたかった」
 紫の大公がそう言うと、後ろから大公妃も言った。
 「変装して忍び込むのはこの人の趣味なんですよ。宮廷の絵描きを装って、私に会いに来た事もありました。帝国の皇子がですよ。本当にどうしょうもない人なんです」
 大公妃は心から嬉しそうに笑っていた。それは二人の物語なのだろう。私が関知するところではない。だが今は少しだけ羨ましく感じた。
 「おいおい、お前だって騙されたじゃないか。しばらくの間、俺にあの絵描きの話をしていたじゃないか。危うく俺はもう一人の俺を恋敵にしなければならないところだったんだぜ」
 「そんな事ありましたっけ?私、忘れました」
 大公妃がそっぽを向くと、紫の大公は再び笑った。今日は本当によく笑う。
 「都合のいいお妃様だな。結婚早々、旦那の苦労が忍ばれる」
 「もっと早く結婚したかったですわ」
 新婦がそう不満を述べると、新郎は知らん顔をした。
 「戦いは避けられないのか?」
 仲睦まじい二人を見て、思わずそう尋ねると、紫の大公は答えた。
 「ああ、だが一回ですませる。戦後、大公妃は喪に服す。彼女が喪服を着ている間は、反乱勢力に対する抑止力になる。それが彼女の役目だ」
 私は大公妃を見た。彼女は微笑んでいた。私は眼を逸らした。
 「大公はどうするつもりだ?」
 「責任者は責任を取るために存在する。どの道、俺は長くない」
 紫の大公は、右手の指で銃の真似をすると、自分の頭を撃ってみせた。
 「念話能力を強化するために、無理もした。お前達も知っているだろう?」
 知っている。それは私の自爆装置と関係がある。
 「どうしても避けられないのか?」
 「ああ、この一戦は、マリアン人の誇りにかけて譲れない」
 紫の大公がそう答えると、私は一度、眼を閉じてから言った。
 「ならば私は、この空中都市を撃たねばならない。あの光で」
 その場の全員が、アルジャンを破壊した宇宙からの一撃を思い出したようだった。
 「それは駄目だ。犠牲が大き過ぎる」
 ジュリヤンが横からそう言うと、紫の大公も言った。
 「それがピュールのやり方なのか?」
 「私だって撃ちたくない!だが私はそういう国に生まれたのだ!だから撃てと言われれば、撃たねばならない。それは仕方のない事なんだ!」
 思わず私がそう叫ぶと、大公妃がぽつりと言った。
 「亡命するという手がありますわ」
 「私は人間ではない。軍の備品扱いされる生体兵器だ。軍を脱走すれば、私を破壊する装置が作動する。しかもそれは外す事はできない」
 この星の住人達は沈黙した。後ろに立つレアだけが私をしっかり見ていた。
 「そうか。ならば仕方ない。戦おう」
 紫の大公がそう答えると、私の中で何かが爆発した。
 「憎ければ私を憎め!私は侵略者だ!」
 隣でジュリヤンが何か言いたそうにしているのが分かった。だが私は無視した。すると、紫の大公が静かに言った。
 「憎んでいないさ。五年前、俺がお前を殺そうとしたのは、俺の立場ではそうせざるを得なかったからだ。今のお前はあの時の俺と同じだ。そうだろう?」
 紫の大公は、ジュリヤンとよく似た寂しげな笑みを浮かべた。
 「テティス、兄弟を頼んだぞ。お前達二人なら、この星を変えられるかもしれない」
 それが披露宴で交わした最後の外交努力だった。

 披露宴が終わると、ジュリヤンは私を控え室に連れ込み、言った。
 「僕は反対だ。あの攻撃は戦闘じゃない。虐殺だ」
 「私だって撃ちたくない。だが私が撃たなくても、他の誰かが撃つ」
 ほんの数秒、ジュリヤンと睨み合いになった。
 「分かった。なら、僕はここに残る」
 衝撃を受けた。思わずジュリヤンの手を掴んだ。
 「何を言っている。死ぬぞ」
 「いや、可能な限り犠牲を減らしたい。少なくとも海の民は逃したい」
 ジュリヤンは死ぬつもりはないようだった。だが私は不安だった。
 「脱出する手段はあるのか?」
 「実はソルスィエ号が隠してある。何とかなるさ」
 私はジュリヤンを見つめた。やっぱり耐えられない。
 「駄目だ。残ってはいけない。危険過ぎる」
 ジュリヤンはちょっと寂しげに微笑んだ。
 「ここは僕の故郷なんだ。黙って見ていられない」
 私も残るという言葉が喉の奥まで出かかった。だがジュリヤンは、それを押し留めるかのように、静かに首を振った。私は言った。
 「必ず、必ず帰って来てくれるか?」
 「ああ、もちろん」
 ジュリヤンはそう答えると、少し横を向いてから、再び私を見た。
 「帰ってきたら、この戦闘が終わったら、君に話したい事がある」
 私は頷いた。
 「僕達二人の話だ」
 私は再び頷いた。
 「聞かせてくれ。私は待っている」
 私達はほんの数秒、立ったまま抱き合った。
 「じゃ、行ってくる」
 ジュリヤンの手が私から離れた。彼はくるりと私に背を向けると、控え室を出た。私は止める言葉も見つからずに、廊下を走って行く彼の背中を見送った。
 足が震えた。そして跪き、両手で顔を覆って、溢れてくるものを懸命に堪えた。とうとう私は彼の敵になってしまったのか?私は彼さえも撃たなければならないのか?いや、彼はギリギリで脱出する。それは信じている。信じているが、その引き金を弾くのは私なのか?
 私は泣いた。

 艦に戻ると、すでに戦闘は始まっていた。
 「全艦バリアを展開せよ。大気圏内戦闘に移行」
 艦長席に座る副長はそう命じると、戻ってきた私に気が付いた。
 「代わりますか?」
 私は副長と代わると、すぐに指揮を取った。強襲揚陸艦の分艦隊は密集し、バリアを張った。前方に空中都市があり、その周辺に敵艦隊が布陣していた。
 「敵艦からの砲撃、来ます」
 戦術情報員がそう報告すると、砲弾がアナバシスに着弾した。
 「バリアに損傷なし。システムに異常なし」
 視覚的に派手な爆発があったが、衝撃もなく、完全に防音された艦橋は静かだった。
 「艦長、彼らの実体弾では、我々のバリアを破れません」
 副長がこちらを見た。
 「どうするつもりなのでしょう?」
 私にも分からない。このまま反撃すれば、かなり一方的な戦闘になる。
 「無線で停戦を呼びかけろ」
 今さら無駄と知りつつ、私がそう命じると、レアは頷いた。
 「敵艦から発進する機体あり」
 戦術情報員が報告した。水上機だ。数が多い。百以上ある。だが空中戦艦の砲撃もこちらに効かないのだ。水上機の機関砲と爆弾は、それ以下の威力しかない。
 「敵編隊、来ます」
 紫色の水上機が猛然とこちらに向かってくる。私は判断に迷った。撃墜するのは簡単だ。この艦の迎撃システムは、超音速の物体も撃墜できる。
 「各艦、命令があるまで待機」
 その時、艦の光学映像に、水面に小石を投げ込んだような波紋が広がった。
 「小規模な時空震の発生を確認」
 戦術情報員が報告した。
 「敵機が僚艦のバリアに激突した模様。重力機関の消滅が原因かと思われます」
 「体当たりですか」
 副長が思わず唸ると、私は直ちに命じた。
 「迎撃を許可する。各艦、体当たりする敵機を撃墜せよ」
 だがそれは遅過ぎた。敵の一機がアナバシスに突入した。無論、艦には当たらず、バリアに阻まれて爆発したが、時空震の発生は避けられなかった。
 「バリアシステムに異常発生」
 戦術情報員がそう報告すると、初めて艦橋に緊張が走った。
 「詳しく状況を報告せよ」
 私が戦術情報員に命じると、返答するまで少し時間が掛かった。
 「駄目です。時空の歪みが発生して、状況を正確に把握できません」
 時空震の影響で、計器が測定する数値に狂いが生じて、相互に矛盾する結果が出ているらしい。そのためシステムが状況を認識できず、計器のエラーを報告しているようだ。
 「バリアは機能しているのか?」
 私は肝心な所だけ訊いた。
 「多分、機能しています。艦自体に損傷はありません」
 それならば問題ない。だが小規模とは言え、これだけ狭い空間で、時空震が連続して起こると何が起こるか分からない。
 「艦長」
 副長が私に呼びかけた。
 「時空震が連続して起きると、一時的に時空に歪みが生じて、敵味方相互の位置関係が、計器で正確に測定できなくなります」
 「どの程度、誤差が生じる?」
 私が戦術情報員に尋ねると、彼は少し悩んでから返答した。
 「距離にもよりますが、数十センチから数メートル単位だと思います。当然、迎撃システムの計器も時空震の影響を受けるので、正確な射撃ができません」
 「つまり、敵機を撃墜すれば、するほど、こちらの命中率が下がる訳か」
 私がそう答えると、艦橋は再び静かになった。
 「でも大勢は変わりませんね」
 副長がそう尋ねると、私は曖昧に頷いた。確かに時空震の影響で、水上機に対する迎撃が困難になるが、いくら体当たりをしても、こちらのバリアは破れない。敵艦や空中都市は、大きな目標なので、多少の誤差など問題にならない。
 「この際、敵機に対する迎撃を止めてはどうでしょう?」
 副長がそう提案すると、戦術情報員も賛成した。
 「いや、待て。何かひっかかる」
 私は、視覚的に派手な爆発を繰り返す光学映像を見ながら、考えた。何が狙いなのか分からないが、この状況は面白くない。この星の住人とて、重力機関の消滅に伴う時空震は知っているだろう。恐らくこれは明確な意図に基づいた作戦だ。
 「艦長、艦隊旗艦から入電です」
 レアがこちらに振り向いた。手元の情報画面を見ると、いつの間にか電文が届いていた。開いてみると、本隊からの支援が必要かどうか問う内容だった。私は必要なしと判断して、返信する事にした。宇宙からの攻撃など冗談ではない。
 ジュリヤン、早く脱出しろ。そう長く待てないぞ。私は念じた。だが時空震のせいか、念話は彼まで届かなかった。私は艦外の戦闘を写す光学映像を色々替えて、眼で追っていた。だが今のところ、あの空中都市から出てきた水上機は見当たらなかった。
 「艦長、僚艦より反撃の要請が出ています」
 再びレアがこちらを向いて、そう言った。水上機の体当たりだけではない。敵艦からの砲撃もある。いい加減待ちきれなくなった艦長も多いのだろう。
 「敵艦隊に対する攻撃を許可する。左翼に展開する敵艦から攻撃せよ」
 私がそう命じると、待ってましたと言わんばかりに僚艦の攻撃が始まった。たちまち紫色の空中戦艦が数隻、火を噴いて爆発した。左翼の敵艦隊は、ほぼ一撃で全滅した。たったの一斉射だったが、威力は十分だった。初めての本格的な反撃に、敵艦隊は動揺している。
 「再度、停戦を呼びかけよ。次は右翼を撃つ」
 私がレアにそう命じると、各艦に待機を命じた。
 「司令代理」
 副長が私に向かってそう呼びかけた。
 「あえて申し上げますが、もう警告は十分なのでは?」
 そんな事は分かっている。だがジュリヤンが脱出するまで時間を稼がねばならない。彼は一体何をやっているのか?このままでは間に合わない。
 「僚艦の不満は爆発寸前です」
 副長はちょっと嫌そうな顔をして、私を見た。恐らく私が不在の間、そうとう文句を言われたのだろう。私も自分が戦闘指揮官として失格、もしくは不適格だという事は自覚している。だが私には私の視点があり、他の者には分からない事情がある。
 「僚艦に伝えよ。これは戦闘ではない」
 私が副長にそう言うと、驚いた顔をした。
 「どういう意味ですか?明らかに戦闘ではないですか」
 艦橋の全員が私に注目するのが分かった。
 「これは戦闘ではない。虐殺だ」
 私は艦長席の肘掛を握り締めた。早くしろ。ジュリヤン。
 「我々は戦争をしているのです。単なる人殺しとは違います」
 副長がそう反論すると、私はそれを遮るように答えた。
 「敵はあまりに劣っている」
 艦橋は再び静かになった。だが副長は再び言った。
 「ならばどうするつもりですか?」
 「一撃ごとにを投降を勧める。次は右翼、そして本隊、最後にあの都市を撃つ」
 私がそう答えると、副長は僚艦へ私の言葉を伝えた。ジュリヤン、これが私ができる精一杯の時間稼ぎだ。頼むから、早く脱出してくれ。
 「空中都市から発進する機体あり」
 戦術情報員がそう報告すると、すぐに私は命じた。
 「光学映像を回せ」
 拡大された映像が、艦長席の情報画面に映った。ソルスィエ号だ。間違いない。私は安堵した。ジュリヤンは脱出した。これで心置きなく戦える。だがそれでも、あの空中都市を撃つ事に変わりはないだろう。彼はどの程度、海の民を逃せたのか?
 「敵からの通信はあるか?」
 私がレアに訪ねると、彼女は首を振った。
 「敵艦隊の右翼を叩く。事前に警告してから一斉射せよ」
 副長は了解と答えて、各艦に命令を伝達した。
 「無線による警告を発信しました」
 レアがこの星の言葉で投降を呼びかけた。だが敵からの返答はなかった。
 「攻撃を開始します」
 副長がこちらを見ると、私は黙って頷いた。次の瞬間、僚艦からの攻撃が始まり、敵艦隊の右翼が一撃で壊滅した。残るは都市正面に布陣する本隊だけだ。
 私は改めて、光学映像を見た。爆発して海面に落ちて行く空中戦艦は凄惨だった。先程、反論した副長も今は沈黙している。艦橋の雰囲気も変わった。これはもはや戦闘ではないと、皆も思い始めているようだった。
 「敵本隊を叩く。事前に投降を呼びかけよ」
 私はレアにそう命じながら、ソルスィエ号をずっと情報画面で追っていた。あの機体は戦場から離れずに、まるで別れを惜しむように、空中都市周辺をぐるりと一周回っていた。私は苛立った。ジュリヤンは一体何をやっているのか。早く戦場から離脱して欲しい。
 突然、視覚的に派手な爆発が前方で連続して起きた。
 「迎撃失敗。敵艦より発射された誘導弾あり。対艦ミサイルの類だと思われます」
 戦術情報員が報告した。銀の槍だ。砲撃より威力はあるが、どの道バリアには効かない。
 「これが返答ですか」
 副長が歎息してこちらを見た。私は意を決した。
 「これより敵本隊を攻撃する。後ろの空中都市に当てるな」
 「敵、誘導弾発射。迎撃します」
 戦術情報員が報告した直後、強烈な閃光が広がって、情報画面を焼いた。
 「何だ?これは」
 思わず私が眼を細めると、戦術情報員が答えた。
 「核爆発です。僚艦のバリアに直撃しました。被害なし」
 これが死の光か。だがこれが切り札なら、こちらには通用しない。
 「これで終わりですかね?」
 副長がこちらを向いた。私は曖昧に頷いた。多分これで終わりだろう。現に敵の攻撃は途絶えている。敵艦隊は動揺しているようだ。切り札が効かなかったのだから、当然の反応だろう。だが何かひっかかった。本当にこれで終わりなのか?
 「敵本隊を叩け。反撃する」
 私がそう命じると、僚艦は一斉射した。敵本隊は一撃で壊滅し、紫色の空中戦艦は一隻を残して全て爆散した。後は上空を飛んでいると水上機の編隊とソルスィエ号だけだ。
 「敵勢力、一割を切りました」
 戦術情報員がそう報告すると、副長が私に戦闘終了の宣言を勧めた。
 「いや、待て。あの艦と通信をしたい」
 私がレアにそう命じると、彼女は言った。
 「艦長、ニキアス司令より通信です」
 私は思わず舌打ちした。すると艦橋の皆が、驚いたのが分かった。念話を習慣とする生体兵器で占められた艦橋の中で、私の舌打ちは異様な響きを感じさせた。
 「つなげ」
 私が艦長席から立ち上がって、敬礼すると、ニキアス司令の立体映像が現われた。
 「現場の状況はどうかね?」
 初老の提督は前置きなしでそう言った。
 「問題ありません。戦闘は終了しました」
 私はこのまま撃たずに逃げ切る算段を考えた。
 「核爆発があったようだが?」
 「はい。ですがこちらに被害はありません」
 ニキアス司令は少し間を置いてから言った。
 「君はこの星の住民にピュールの姿勢を示す必要があると思わないかね?」
 「どういう意味でしょうか?」
 私は知らん顔をした。
 「こんな戦闘を今後起させないための見せしめが必要だと言っているのだ」
 「具体的にはどうするべきでしょうか?」
 初老の提督は不快そうに私を見た。
 「君も鈍いな。あの空中都市を撃ちたまえ」
 「戦闘はすでに終了しました。敵勢力は一割を切っています」
 「これは命令だ」
 ニキアス司令は厳粛に言った。
 「了解しました。これより艦首砲による攻撃を開始します」
 私がそう応答すると、立体映像は消えた。艦橋の皆が注目する中、私は静かに艦長席から降りると、手に持っていた通信機を床に叩きつけ、思い切り足で蹴飛ばした。
 無実の罪に問われた通信機は砕け散り、破片の一つが副長に当たった。私が睨むと、彼はその場から逃げ出した。
 「現場の私に判断を任せると言ったじゃないか!」
 肉声で怒鳴ると、私は艦長席に戻った。
 「艦首砲用意!」
 艦橋の皆は慌てて業務を再開した。
 「目標入力、敵空中都市」
 戦術情報員がそう言うと、バリアシステムと連動した艦首砲が発射態勢に移行した。基本的に、バリアを張りながら艦首砲を撃つ事はできない。だが艦首砲の通り道だけ穴を空け、艦首砲を撃つ瞬間だけバリアを切る事ができる。これでほぼ弱点はなくなるはずだった。
 「艦長、発射準備、完了しました」
 戻ってきた副長がそう言うと、艦長席に仮想トリガーが現われた。
 「敵編隊接近、こちらに向かってきます」
 戦術情報員が報告すると、私は情報画面を見て驚いた。何とソルスィエ号が敵編隊を率いて、こちらに向かって来るではないか。
 ジュリヤン、何を考えている?止めるんだ!私は念話を試みたが、返答はなかった。
 「迎撃します」
 「待て。撃ち方、待て」
 私は慌てて戦術情報員に命じた。するとアナバシスに体当たりを試みた何機かが、バリアに激突して爆発した。ソルスィエ号は体当りしていない。そのまま通り過ぎた。
 「艦長、艦首砲の発射態勢を解除しますか?」
 副長がこちらに振り返って、そう言った。艦首砲は発射態勢のままにしておく事はできない。私は迷った。ジュリヤンはブランを撃つ事に反対していた。だが一緒に死ぬつもりはないと思っていた。しかしこれは何だ?何が何でも阻止するつもりなのか?
 「いや、少し待て」
 私は何度もソルシィエ号に念話を試みたが、返答はなかった。私は焦った。
 「あまり待てませんよ。自動的に解除されます」
 一度、解除してから様子を見るべきか。それとも今撃つべきか。私は迷った。だが今ここで撃たなければ、僚艦の艦長が攻撃命令をもらう可能性がある。それは嫌だった。
 私は思った。ジュリヤンは死なない。確かに反対はしていたが、体当りしてまで阻止するとは思えない。彼には未来がある。やらねばならない事がある。
 ふと気がつくと、艦橋の皆が私を見ていた。不思議な表情だった。だがそれが私を冷静にした。結局、私は生体兵器で、ピュールなのだ。私が撃つしかない。
 「艦首砲を撃つ」
 私は宣言した。すると副長が黙って頷き、レアは本当にそれでいいの?という顔をした。私は黙って頷き返すと、仮想トリガーを握った。
 これでもう後は引けない。許せ、ジュリヤン。所詮私は、命じられたままに動くしかない生体兵器なのだ。せいぜい私は、生まれた国を呪う事しかできない。私とて撃ちたくはないが、仮に私が撃たなくても、他の誰かが撃つ。それならば私が撃つ事で、私が責任を取ろう。それが私の答えだ。
 仮想トリガーに指を置くと、バリアシステムが艦首砲と連動して、艦首砲前方のバリアが一時的に切れて、丸い形に穴が開いた。そして私がトリガーを弾いた瞬間、突然ソルスィエ号が目の前に現われた。私は思わず身を硬くした。
ソルスィエ号は、アナバシスの艦首砲に突入した。両翼をバリアで失いながらも、胴体部分が発射直前の艦首砲に直撃し、爆発が生じた。激しい衝撃と爆発音が艦橋にも伝わり、私は座席から投げ出されそうになった。
 「艦首砲大破!」
 戦術情報員の悲鳴が聞えた。
 「被害状況を報告せよ」
 副長が叫んだ。
 「機関に異常なし。航行可能。艦上部装甲と前方上部区画の一部が破損」
 戦術情報員が応答すると、副長がこちらを見た。
 「艦長、艦を後ろに下げましょう」
 私は艦長席で呆然としていた。ジュリヤン、なぜ飛び込んだ?なぜそこまでして反対したのだ?信じられない。本当に死んでしまったのか?ジュリヤン。
 「なぜ敵機が飛び込めた?」
 副長は再び戦術情報員を見た。
 「分かりません」
 「バリアの穴は、水上機が通れるほど大きくないはずだ。それに発射と同時に穴が開くから事実上、通れない。その一瞬の隙を突いて突入するなど不可能だ」
 副長がそう言うと、戦術情報員は答えた。
 「バリアシステムの計器が、時空震の影響で、誤った数値を測定していた可能性があります。それを基に計算して、通常より大きくバリアを開き、艦首砲とバリアシステムの連動のタイミングもずれてしまったのかもしれません」
 「ずっと体当りを繰り返していたのは、これが狙いだったのか」 
 副長がそう言うと、艦橋は一瞬、静かになった。
 「艦長、敵艦より通信です」
 レアがこちらに振り返って呼びかけた。
 「艦長!」
 私はレアの声で我に帰った。
 「敵艦から通信です。回します」
 情報画面を見ると、音声のみで敵艦からの無線通信が再生された。
 「紫の大公だ。降伏する。ヴィオレに対する攻撃は不要だ。繰り返す」
 私は聞いていなかった。今さら遅い。いくらブランを撃たずに済んでも、ジュリヤンが死んでしまっては、何の意味もない。彼の命と引き換えに、多くの人が助かっても、私は嬉しくない。この五年間の苦労は一体何だったのか?こんな結果を得るために私は努力したのか?
 「艦長、どうします?」
 私は副長を見た。
 「ジュリヤンはどこだ?どこにいる?」
 艦長席からふらふらと降りた。
 「艦長?」
 副長の顔が歪んで見えた。私は彼の襟首を掴むと訊いた。
 「なぜジュリヤンは飛び込んだ?なぜ彼は死んだ?」
 艦橋は異様に静かになった。
 「落ち着いて下さい。どういう意味です?」
 副長は私の手を掴むと、私の顔を見た。
 「ソルスィエ号はジュリヤンの機体だ。艦首砲に飛び込んだ機体だ」
 私がそう答えると、ようやくその場の皆も理解した。
 「まさか。彼はピュール寄りの人間だったじゃないですか?」
 副長は信じられないという顔をした。するとレアが言った。
 「披露宴の席で、艦首砲の攻撃に反対していた。だから動機としては十分ありうる。だがあの機体に乗っていたのかどうかまでは分からない。別人の可能性もある」
私はレアを見た。
 「確認できるか?」
 「紫の大公に訊いてみます。もしかしたら知っているかもしれない」
 レアは通信を開くと、この星の言葉で無線通信をした。
 「艦長、大公が話をしたいそうです。そちらに回します」
 私は再び艦長席に登ると、情報画面を見た。
 「よう。俺だ。俺。聞いているか?ソルスィエ号が体当りしたんだってな。こちらでも確認した。だがあの機体にはジュリヤンは乗っていない。兄弟はヴィオレにいる。間違いない。確認した。だが誰があの機体に乗っていたのかまでは分からない」 
 一瞬、喉が詰まった。声が出ない。だが私は訊いた。
 「ジュリヤンは生きているのだな?」
 「ああ、生きている。間違いない。だが例の攻撃で、ヴィオレを撃つなら、助かる命も助からんぞ。だから少し待て。俺が何とかする」
 私は脱力した。ジュリヤンは生きている。本当に良かった。だがそうなると、あの機体に乗っていたのは一体誰だったのか?私の知らないただの敵軍の操縦士だったのか?
 「艦長、僚艦から指示を求める連絡が来ています」
 副長がそう言うと、私はとりあえず考えるのを後回しにした。
 「旗艦アナバシスは艦首砲を大破した。だが戦闘指揮と航行は可能だ。分艦隊の指揮権を保持する。各艦は新たな命令があるまで現状で待機せよ」
 私はそう言ってから、少しの間考えた。
 「それから敵の体当りと、艦首砲の被害についての因果関係を、僚艦と艦隊旗艦に知らせよ。当面の間は、艦首砲による攻撃は不許可とする」
 これであの空中都市は助かる。少なくとも当面の間、時間稼ぎが出来る。戦闘は終了したし、紫の軍団も降伏した。後はジュリヤンの脱出を待って、武装解除を開始すればよい。いずれにしても、ブランは救われた。これで破壊はできないし、撃ちたくても撃てない。
 「これで終わりですかね?」
 副長がそう尋ねると、私は頷いた。
 「ああ、終わりだ」
 私はこの時、誰がこの星を救ったのか知らなかった。もしブランを撃てば、たとえ紫の公国が滅びても、戦闘は一回で終わらなかったかもしれない。そういう意味では、あのソルスィエ号の操縦士は、間違いなく最悪の事態を回避させた。
 「艦長、敵艦から爆発光を確認。船体から火災が発生しています」
 戦術情報員が報告すると、私は情報画面の光学映像を見た。確かに煙を吹いている。被弾していたのか?こちらからではよく分からないが、深刻な状況に見えた。
 「武装解除を呼びかけろ。場合によっては救援する」
 私はレアに命じた。戦闘は終了したのだ。敵も降伏した。これ以上の犠牲は要らない。だが紫の大公の返答は頑なだった。
 「救援の必要はない。このまま自沈する」
 私はレアと無線通信を代わった。
 「ならば脱出せよ。このままでは危ないぞ」
 「いや、俺は残る」
 「なぜだ?戦闘は終了した。降伏も認める。死に急ぐ必要はない」
 紫の大公は自嘲したようだった。
 「未来がある奴は生かして帰す。そちらで回収してくれ」
 「とにかく脱出しろ!これは命令だ」
 私は怒鳴った。だが紫の大公は言った。
 「有終の美という言葉があるが、これはちっとも美しくないな」
 無線の通信機に雑音が混じっていた。向こうで爆発が起きていた。
 「思ったより火の回りが早い。俺は動けないし、生きている奴が少ない」
 「早く脱出しろ」
 私はそう言うと、副長に救援に向かわせるように指示を出した。
 「五年前、最初に俺がお前を拾っていたら、どうなっていたかな?」
 紫の大公の声は静かだった。
 「それでもやっぱりピュールは来て、俺は負けるのかな?」
 そんな事は分からない。
 「だが最初に私を助けたのはジュリヤンだった」
 「そうだな。それで良かったのだな。この星にとって」
 紫の大公は深く息を吐いた。
 「俺とジュリヤンは正反対の道を歩んで来たが、結局の所、知らぬ間にこの星を救うという同じ目的に沿って、それぞれの役割を果たしていただけなのかもしれない」
 「お前もこの星の運命とか言い出すのか?」
 ジュリヤンはそのような事を時々言っていた。
 「いや、自然にそうなっただけだ。こうすれば、こうなる。それだけの事だ」
 どうしても避けられない流れがあり、それが運命だとジュリヤンは言っていた。
 「もう、そんな話はどうでもいい。今、救援を向かわせた。大人しく待っていろ」
 先程から副長が、光学映像を見ろと促すので、無線を切ろうとすると、紫の大公は言った。
 「あの絵はどうしている?まだあるか?」
 私が沈黙すると、紫の大公は不安な様子で、返答を待っていた。
 「ある。大切にしている」
 私がそう答えると、紫の大公は安堵したかのように言った。
 「そうか。それは良かった。本当に良かった」
 突然、無線が途切れた。光学映像を見ると、空中戦艦が爆発していた。私は言葉もなく、海に向かって落ちて行く空中戦艦の光学映像を見た。
 それがイル・アンシャンテ・フローリス、紅い皇子、紫の大公と呼ばれた男の最期だった。

                             第六章 了

『空と海の狭間で』10/10話 終章 約束の大地


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