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ジュリヤンへの手紙

 私は今、帰りの船の中でこれを書いている。
 あれから五年たち、約束通り私達は再会した。
 お互い立場が変わり、状況も変化した。
 今回の事件は、お互い譲れない主張から生じたと言え、あのような戦いになってしまうとは思わなかった。
 あの二人は、本当に残念だった。
 共に同じ道を歩む事ができないと分かっていても、止める事さえできなかった事は、後悔している。
 ジュリヤンは言っていたな、これもどの道、避けられない流れで、あの二人の運命だったと。
 だが私は今でも、別の道があったのではないかと思っている。
 それも今となっては、考えても仕方のない事かもしれない。
 正直に言おう。
 私は交渉に向いていない。
 自分を戦士だと思っている。
 だからあの時、ジュリヤンを助けに行った事だけは、後悔していない。
 ジュリヤンは死んでも構わないと言っていたが、そんな事は絶対に許さない。
 もしあのまま見殺しにしたら、私は一生後悔していた。
 ジュリヤンは、自分の選んだ道を後悔していないと言ったが、私は同じ確信を持つ事ができそうにない。
 あの戦いで、まさに破滅の引き金を引かんとした時、私は自分の選んだ道を呪った。
 だがソルスィエ号が艦首砲に体当りをして、決定的な破局から救ってくれた。
 あの時、本当に心臓が止まる思いがした。
 当然あの機体には、ジュリヤンが乗っていると思っていたからな。
 でもジュリヤンが乗っていないと分かった時、安堵したが、一体誰が乗っていたのか分からなくて、ずっと気になっていた。
 だから知らせを聞いた時、驚いた。
 本当にすまない。
 私はジュリヤンの大切な人を奪ってしまった。
 私がもっと上手く立ち回っていれば、艦首砲を撃つ事態にならなかったはずだ。
 だがこれだけは分かって欲しい。
 私は本心から、マリアン人を傷つけたくなかった。
 ジュリヤン、本当にこれで良かったのか?
 仕方なかったのかもしれないが、今は自分を許す事ができそうにない。
 だからジュリヤン、私は一度この星から離れる事にした。
 ピュールは今のところ、ラ・マリーヌに強い関心を持っていない。
 どちらかと言うと、航路の関係から、周辺の宙域に関心を持っている。
 だがラ・マリーヌが、この宙域で、居住可能な唯一の惑星である以上、将来戦略的に重要な星になる可能性はある。
 宇宙の情勢は流動的だ。
 ピュールとて未来永劫、この宙域を押さえていられる訳ではないだろう。
 その時はその時で、また新しい道が開けるかもしれない。
 だが今は大人しくしているのが得策だと思う。
 新しい総督と、よい関係を築く事を願っている。
 惑星改造は順調に進んでいる。
 私達が生きている間に、居住可能な大陸を実現する事は不可能だが、極地に氷が出来て、海の水位が下がれば、島ぐらいなら数年後にできるだろう。
 その時には私にも知らせてくれ。必ず見に行くから。
 追伸、今度行く時まで、あの話の返事は、待っていて欲しい。

                           空と海の狭間で
                        テティス・テッサレス

『空と海の狭間で』7/10話 第四章 ピュール侵攻


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