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[万葉]The flame melts the snow (巻3.319)

大和歌を英訳で読むマガジン(1) の第5回は万葉集巻3の319番の歌です。

なまよみの 甲斐の国 うち寄する 駿河の国と こちごちの 国のみ中ゆ 出で立てる 不尽の高嶺は 天雲も い行きはばかり 飛ぶ鳥も 飛びも上らず 燃ゆる火を 雪もて消ち 降る雪を 火もて消ちつつ 言ひも得ず 名付けも知らず 霊しくも 座ます神かも . . .

作者は未詳とされています。

なまよみの甲斐の国と、波が打ち寄せる駿河の国、二つの国の間よりそびえ立つ富士の高嶺は、天の雲も行くのをためらい、空を飛ぶ鳥も頂まではとどかない。燃える火を雪で消し、降る雪を火で消しつつ、ことばで言うことも、名付けることもできない、霊妙にいらっしゃる神であるよ . . . (英語万葉集)

「言ひも得ず」という富士山を、ことばで表さざるを得なかった古代日本人は何を思っていたのでしょうか。

英訳を通してこの歌をながめてみます。

目次
読み下し文
英訳
解釈
 日本学術振興会訳

【マガジンの案内】
名称:大和歌を英語で読む(1)
内容:大和歌を英訳で読んでゆく。最初は万葉集
分量:1マガジンあたり5本を収録(予定)
価格:1マガジンが1,000円。個別の記事は分売も(300円〜)
方法:詩学(poetics)的関心から、日英の詩のことばを比較

■ 参考文献 ([]内は本稿での略称)

・高木・五味・大野『日本古典文學大系 萬葉集』(岩波書店、1957)[古典大系]
・青木・井手・伊藤・清水・橋本『新潮日本古典集成〈新装版〉萬葉集』、1976[古典集成]
・伊藤博『新版 万葉集』、角川学芸出版、2009[新版万葉集]
・伊藤博『萬葉集釋注』、集英社文庫、2005[釋注]
・中西進『古代史で楽しむ万葉集』、角川学芸出版、2010[古代史]
・中西進『万葉集 全訳注原文付』(講談社、2013)[全訳注]
・大野・佐竹・前田『岩波古語辞典 補訂版』(岩波書店、1990)[岩波古語]
・大野晋『古典基礎語辞典』、角川学芸出版、2011[基礎語]
・中村幸弘『ベネッセ 全訳古語辞典』、ベネッセコーポレーション、2007 [ベネッセ]
・リービ英雄『英語で読む万葉集』(岩波新書、2004)[英語万葉集]
・Nippon Gakujutsu Shinkokai, 'The Manyoshu' (Columbia UP, 1965)
・Geoffrey Bownas, 'The Penguin Book of Japanese Verse', (Penguin Classics, 2009)
・T. E. McAuley, 'An Anthology of Classical Japanese Poetry', (www.wakapoetry.net, 2016)
・Ian Hideo Levy, 'Hitomaro and the Birth of Japanese Lyricism' (Princeton UP, 1984)
・Anne Commons, 'Hitomaro: Poet as God' (Brill, 2009)

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