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[書評]『水鏡推理 III パレイドリア・フェイス』

 研究不正をあつかう「水鏡推理」シリーズの第3作(2016)。

 おもしろさは前作を上回る。最終部の盛り上がりはスリリングだ。

 これまでよりも年代の新しい地磁気逆転を発見したとする科学的報告に対し文部科学省から調査が入る。ほぼ同時に、近隣の山で突然謎の人面塚が発生する。

 これらをめぐって利害が関係する各人の思惑が交錯する。人面塚が発生した山の地主はそれを利用して一儲けし、過疎の村の観光資源にしようとする。山を管理する森林組合は担当者不足に頭を悩ます。文部科学省から派遣された主人公の水鏡瑞希ら研究不正に関するタスクフォースは真実を明らかにしようとする。文部科学省の幹部たちは環境省と何やら相談し、地磁気逆転の発見をしたとする科学者グループの研究を、不正と決めつけようとするかに見える。

 本のタイトルの「パレイドリア」(pareidolia)とは狭義にはシミュラクラともいい、雲や壁のしみが、目と鼻と口を連想させる配列というだけで、顔面と感じる心の作用のこと。

 山中の地震の際に隆起した地面が、上空から見ると二つの穴が目に、もう一つの穴が口に見えるというので大騒ぎになる。

 本書を読んでひとつ気になることがある。水鏡らはあくまで真実を明らかにしようと誠実にものを考えるのだが、文部科学省の上層部からの圧力は研究不正を正すというより、研究不正をむしろ作り出そうとする動きにも見える不可解なものだ。そこにはどうやら、除染廃棄物の中間貯蔵施設の建設がからんでいる。それに限らず、全国でさまざまな施設の建設問題が取り沙汰される。新たな震災による災害廃棄物や、ごみの最終処分場や焼却施設など。

 その候補地となったところがそれを回避するにはどうするか。科学的に重要な調査が始まることなども大きな要素になる。そこに不正があるかどうかは、文部科学省と環境省にとっては重大な関心事になる。

 となると、最終的には国策レベルの思惑が働いていることになる。一国の科学研究の誠実さとは別のレベルの力学が働くことは、あってほしくないけれども、現実にはあり得るかもしれないと思わせられる。ことに国の原子力政策がからめば。この小説はそのあたりのグレーゾーンに少し踏み込んでいる。

#ミステリ #文部科学省 #松岡圭佑 #科学研究 #パレイドリア #地質学

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