[英詩]Jones Very, 'The Columbine'
※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。
英詩のマガジンの2016年4月の主配信2本目です。19世紀アメリカの超絶主義詩人の最高峰といわれるジョーンズ・ヴェリ(Jones Very, 1813-80)のソネット(14行詩) 'The Columbine' 「オダマキ」です。本物の天才詩人はそうはいませんが、彼は正真正銘の天才です。ただし、一時期だけです。その時期にはまるで憑かれたように詩を量産しました。が、その時期がすぎると、凡庸な詩人になります。その時期に彼に何が起こったのかは分かっていません。
The Columbine
Jones Very
Still, still my eye will gaze long fixed on thee,
Till I forget that I am called a man,
And at thy side fast-rooted seem to be,
And the breeze comes my cheek with thine to fan.
Upon this craggy hill our life shall pass, 5
A life of summer days and summer joys,
Nodding our honey-bells mid pliant grass
In which the bee half hid his time employs;
And here we'll drink with thirsty pores the rain,
And turn dew-sprinkled to the rising sun, 10
And look when in the flaming west again
His orb across the heaven its path has run;
Here left in darkness on the rocky steep,
My weary eyes shall close like folding flowers in sleep.
オダマキには青・赤・ピンクなどの種類がありますが、ヴェリがどういう花を見たかは不明です。釣鐘型の野生種のオダマキが載っている本を持っていますが出てこないので、ほかの写真を参考に掲げます。
この詩の音と意味とを考える前に、ソネット形式の詩について一般的なことをおさらいしておきます。
ソネットがイタリアから英詩に入ったルネサンス期のイングランドにおいて、主流となった形はシェークスピア型と呼ばれるソネットです。今回あつかうヴェリのソネットもそのシェークスピア型ソネットです。見てすぐに分かる特徴は、最後の2行(13-14行目)がカプレット(二行連句、対句)になっていることです。この2行の脚韻が steep / sleep になっています。
■ ヴェリの詩の特異さ
しかし似ているのはそこまでで、実はヴェリのソネットは異様です。最終行(14行目)が6強勢あります(すべてのソネットは基本的に1行5強勢です)。この第14行目は弱強六歩格の alexandrine という韻律になっています。その韻律は、第3詩脚のあと(close と like の間)に休止があるのが特徴です。
詩脚(foot)というのは韻律の基本単位で、強音節と0〜3の弱音節からなります。「弱強六歩格」というと、弱強の詩脚が1行に6つある韻律になります。弱強格(iambic)は弱音節1+強音節からなります。
この詩が突出している理由は、そこに描かれている世界が植物と人間との同化であるからです。20世紀のモダニズム詩にも、人が木になることを謳ったエズラ・パウンドの詩がありますが、そういう変身型でなく、植物と人間とがそのまま共存しつつ同化してゆく詩はきわめて珍しいものです。知る限りでは英詩で類例はありません。その同化が果たされると、まるでSFのアーシュラ・ル=グィンの小説のように、植物と人間の間にエンパシー(共感)が成立するのです。わずか14行の世界でそれを描ききるというのは、文学史上の奇蹟ともいえます。
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日本語訳
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