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[書評] 祈りが護る國 アラヒトガミの願いはひとつ

保江邦夫『祈りが護る國 アラヒトガミの願いはひとつ』(明窓出版、2022)

欧州最大級の原発をすぐに抑えたロシアの狙いとは

保江氏の〈祈りが護る國〉シリーズはこれまでに3冊出ている。

① 祈りが護る國 アラヒトガミの霊力をふたたび(2019)
② 祈りが護る國 アラヒトガミの願いはひとつ(2022)
③ 祈りが護る國 日の本の防人がアラヒトガミを助く(2023)

本書は②に当たる。いづれも、天皇の負担を軽減し、日本を護る意図のもとに書かれている。

前著は昭和天皇の特別の祝詞を入手した米国が、オバマ大統領のときになってやっと「AIエンペラーを完成させた経緯を記す。

完成までは開発は失敗続きだった。その理由は〈性能のよい人工知能を使えば使うほどうまくいかなかった〉からだというのは、現在の生成AI界隈ではおそらく知られていないだろう。

著者は湯川秀樹門下の理論物理学者であり、冠光寺流柔術創師であり、陰陽師の家系である。これら3つの領域においては余人の追随を許さぬ卓越した知見を有するのだが、それ以外の分野(地政学、キリスト教神学等)においては首をかしげる場面なしとしない。

本書は、空間にある電磁場とシリウス由来の魂(第3-4章)、日本の重要なパワースポットに打たれたアメリカの杭(第1章)などの、類書でまったく読めない貴重な知見が含まれる。

ただし、最後の第7章に現れる、ウクライナ情勢にからむプーチン敵視の文章は誤った前提に基づくと思われる。〈プーチンに消えてもらおう〉(242頁)という願いを連綿と綴る文章は、見当外れと思え、読むのがつらい。

ウクライナのカトリック教徒が〈現在は国民の7〜8割になりました〉(204頁)と書くのは、出所不明の怪情報というしかない[2022年に Kyiv International Institute of Sociology がおこなった調査ではウクライナ人におけるカトリックの割合は9% ('Religion in Ukraine', Wikipedia)]。

しかし、プーチンが握る急所については著者は貴重な指摘をおこなっている(ロシアが早々にザポリージャ原発[欧州最大級の原発]を抑えたこと[209頁])。

この懸念の解消については、本書刊行後2年経った2024年6月16日に発表されたウクライナ平和サミットの共同声明に挙げられている(〈ザポロジエ原発(ザポリージャ原発)とアゾフ海の港をウクライナ管理下に戻すこと〉[ロイター、2024年6月17日])。

この指摘は著者の洞察の深さをしめす。〈実はヨーロッパ大陸は、ロシアから、西側のヨーロッパに向かって常に偏東風が吹いています〉と著者は述べる(209頁)。だから、いざとなれば電源を遮断してメルトダウンさせ、ヨーロッパ中を汚染させることができると。

〈このことを、西側のトップはよく知っています〉と(211頁)。〈あまりにロシアを孤立させてプーチンを追い詰めると、本当にこのシナリオを起動させる恐れがあります〉というわけだ(211頁)。

これがウクライナ平和サミットの共同声明の最初にザポリージャ原発のことが書かれた理由であると思われる。共同声明に挙げられた3項目の1番めは 次のように記す。

1. Firstly, any use of nuclear energy and nuclear installations must be safe, secured, safe-guarded and environmentally sound. Ukrainian nuclear power plants and installations, including Zaporizhzhia Nuclear Power Plant, must operate safely and securely under full sovereign control of Ukraine and in line with IAEA principles and under its supervision.

Any threat or use of nuclear weapons in the context of the ongoing war against Ukraine is inadmissible.'
('Joint Communiqué on a Peace Framework adopted at the Summit on Peace in Ukraine', European Council, 16 June 2024)

[まず、原子力エネルギーおよび原子力施設のいかなる使用も、安全かつ確実で、保障され、環境的に健全でなければなりません。ザポリージャ原子力発電所を含むウクライナの原子力発電所および施設は、ウクライナの完全な主権管理の下、IAEAの原則に従い、その監視の下で安全かつ確実に稼働する必要があります。

ウクライナに対する進行中の戦争の状況下での核兵器のいかなる脅威または使用も容認されません。
(「ウクライナ平和サミット共同声明 全文」 BeeDeeさんのページ https://zuiso.net/topic/detail/112387 なお、この共同声明を支持する国のリストに日本も入っている)]

#書評 #保江邦夫 #ロシア #ウクライナ

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