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[書評]語ることが許されない 封じられた日本史

保江邦夫『語ることが許されない 封じられた日本史』(ビオ・マガジン、2020)

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フルベッキの名は聞いたことがあったけど……

タイトルに「日本史」とあるが、実際はこの6000年の世界史。特に焦点を当てるのが日本の霊的防衛。

霊的防衛は令和の日本で喫緊の重要性があるが、本書で語られるのは、主としてこれまでの歴史。

日本史のなかでも特に明治天皇、大正天皇、昭和天皇、今上天皇に関わる霊的防衛の実態の一端が明かされる。

それが近景。背景に6000年前のエジプト、2000年前のキリストが見え隠れする。

表の歴史では語られていないことが中心になるが、この裏面史の情報源は、日本に関しては秘匿を要する事情により本書では殆ど名指しされない。エジプトとキリストの関連は一部公刊された書物に基づく。

荒唐無稽な与太話と片づけるのはいつでもできる。しかし、本書中のいくつかの事情は、著者のいう「大公開」時代(2018年末以降)になって初めて明らかにされるものが含まれる。これらが本当のことであるならば、日本と世界にとってとんでもない重大な意義を有することになる。

この種の裏面史では、往々にして、不可思議な出来事を縷々あげて、そこから背後を匂わせるものが多い。だが、本書の行き方は逆で、本当の事情ないしことわりをまず述べ、そこから数々の一見不条理な出来事が出てくる筋を導く。著者が物理現象の基本原理を考える理論物理学者という人種に属するがゆえだろう。

収められた文章の文体についてひとこと指摘しておく。本書の文体は簡潔であり、全体にコンパクトにまとめられている。これは、おそらく刊行元のビオ・マガジンの編集方針によるものであり、ひいては編集者の有園智美さんの裁断の力が大きいのだろう。

その結果と思われるが、誤植のたぐいがきわめて少なく、読みやすい。それはよいのだが、コンパクトな記述にしようとするあまり、中心事情の周りに附随する多くの情報がカットされている。これはもとの原稿からそうであったのかもしれないが、結果としてそうなっている。そのため、読者が事情をありありと眼前に想像で膨らませるには、やや足りない。そのあたりは、他の資料や、著者の他の著作にあたる他ない。

本書が基礎文献の一つとしているカレン・L・キング『マグダラのマリアによる福音書 イエスと最高の女性使徒』(河出書房新社、2006) について。市場で高値のつく稀覯書となっている訳書だが、その原書から知り得たことを補足しておく。

Karen L. King, 'The Gospel of Mary of Magdala: Jesus and the First Woman Apostle' (Polebridge P, 2003)

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『マグダラのマリアによる福音書』そのものは、キングの序文によると、18 1/2頁の短いものだが、そのうち最初の6頁と真ん中の4頁が失われている。つまり、半分以上が失われている (Codex Berolinensis 8502)。これは原著(ギリシア語)のコプト語訳で、1896年にカイロの古物市でドイツの Dr Carl Reinhardt が購入した。売った業者によると、発見されたのはエジプト中央部の Achmim であるという。5世紀のパピルス・コーデクス(コーデクスは本の前身の形態)であると判った。

もうひとつ、『マグダラのマリアによる福音書』のギリシア語断片 (Papyrus Rylands 463) を1917年に Rylands Library (Manchester, England) が入手している。エジプト北部の Oxyrhynchus で発見されたもので、3世紀初めに属する。これはコーデクスの断片で、同福音書のマリアが受けた啓示の結論部分と、弟子たちのマリアの教えに対する論争の始めの部分とを含む。そのあと短いギャップがあって、議論がつづき、レヴィ(マタイ)が福音を告げに出発するところで終わっている。Codex Berolinensis 8502 と比べると、少数の異文を含む。この断片は、同福音書の年代の古さと、ギリシア語著作であったことの証拠になる。

さらに、もうひとつ、『マグダラのマリアによる福音書』のギリシア語断片 Papyrus Oxyrhynchus 3525 がある。これも3世紀初めの断片。同じくエジプト北部のナイル川沿いの町 Oxyrhynchus で発見された。現在は Ashmodean Library (Oxford) の所蔵。キリストの別れ、マリアの弟子たちへの慰め、ペトロのマリアへの要請とマリアのヴィジョンの始めの部分が含まれる。

まとめると、『マグダラのマリアによる福音書』の写本は次の3種類。

・ギリシア語 Papyrus Rylands 463 (Achmim, 3世紀初)
・ギリシア語 Papyrus Oxyrhynchus 3525 (Oxyrhynchus, 3世紀初)
・コプト語 Codex Berolinensis 8502 (Oxyrhynchus, 5世紀)

発見箇所(Achmim と Oxyrhynchus)は下の地図を参照されたい。

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これらの写本などから、『マグダラのマリアによる福音書』は、2世紀初めにギリシア語で書かれたものと考えられる。前述のように、全体で(残っているのが)8頁たらずの短い書なのだが、いろいろな意味で興味深い。

この福音書本文のうちには、本書にあるハトホル関連の記述(37頁)はない。

「フルベッキと塾生たち」という写真が巻頭についている。そこには写っていてはならない人物が写っている。

本書に「鍋島はアメリカからやってきたオランダ人宣教師フルベッキを、長崎に設けた藩校の英語教師として採用している」(134頁) および「オランダ人宣教師フルベッキと勤王の志士たちが1枚の写真におさまっている貴重な記録で、長崎の上野彦馬の写真スタジオで撮影されたものだ」(148頁) と記述されているにもかかわらず、1974年に「偽物のらく印が押され、『佐賀藩の学生たち』と改題までされた」(148頁) という。

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[46歳の佐賀藩主鍋島直正(安政6年11月、江戸溜池邸で藩医川崎道民が撮影)]

#書評 #保江邦夫 #日本史 #天皇 #KarenKing #Mary

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